ONIの里

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隠忍伝説(サイドストーリー)

ONI零 ~虚ろより生まれし仔よ~

桃龍斎さん 作

『八 近づく決戦 (完全版)』

鞍馬山を出た響華丸達は、沙紀達の村に到着していた。
司狼丸の魂が救われた為、復活しても暴走する可能性が低い事。
響華丸が元々道鏡によって造られた隠忍である事が判明し、それには沙紀も弓弦も驚く。
が、響華丸達は次の事で驚いていた。
先に自分達を助ける為に死んだと思われていた鎧禅が、傷がまだ治っていないながらも生きていたのだ。
それには葉樹も呆れと共に怒りを露わにして詰め寄る。
「今までどうして連絡をしなかったんですの?これで何度目か、お分かりで?」
「申し訳ございませぬ。真なる敵、この世界に地獄を齎した張本人である道鏡の悪事を完全に把握する上で、皆を欺くより他に無かったもので……」
鎧禅の説明に葉樹は溜息を吐いたが、落ち着いた笑みになっている。
「全てが解決して帰還しましたら、始末書を2件分提出させて頂きますわよ。さて、響華丸……あなたの事ですが身体の方を数十分程調べさせてよろしいかしら?」
「ええ。こちらからもお願いするわ」
そう話が進むと、葉樹と響華丸は村を出た辺りで姿を消すが、数十分した所で2人は何事も無い様子で戻ってきた。

「説明は本人の口から聞いた方が良いかと思いますわ。では、響華丸」
知りたい事が幾つかある江達は、葉樹の言葉に従って話し出した響華丸の説明を聞く。
「偶然にも、造られる途中の記憶があったわ。けれど、大方は鞍馬山での話と同じよ。私は、道鏡によって造り出された隠忍だけれど、『向こう側』の世界にも存在していて、転身した時の姿も江達と全く違うものになっているの。一説では、妖魔の別な言い方である妖怪の中でも聖なる妖怪を意味するそうよ。そして『向こう側』では、そうした聖なる妖怪の事を妖魔と言う事もあるの」
「紛らわしいな。こっちだと普通に化け物って印象になってるぜ。けど、その事を知ってるって事は道鏡は……」
「そう。道鏡も『向こう側』の出身で、邪悪な神の眷属だった。彼はそこでの隠忍との戦いに敗れた後、この世界に流れ落ち、地獄門を潜って力を蓄えていたの」
この説明で、鈴鹿は十分に納得する。
自分達が戦った事のない、次元の違う未知の存在、道鏡。
その正体がようやっと判明した事での安心感も、今の彼女にはしっかりとあった。
「だから、人間とも妖魔とも違う、得体の知れない奴だって訳だね」
「そうよ。そしてこの世界を地獄に変えた上で、『向こう側』に侵攻するつもりだった。五行軍や八将神を利用してね。でも、そこで予想外の出来事が起きたわ。それが司狼丸の力……」
「私達も巻き込まれた、50年の時を越えたっていう能力……司狼丸はその力に目覚めて、一旦未来へ飛んだ後に、この時代に戻って来た……」
時空童子、司狼丸が時を越え、そして時を遡る事も出来たという真実。
その目的は大体察しがついていた沙紀だが、今は響華丸の話を聞く事に専心していた。
「そして、その確証を得た道鏡は、彼の力を手に入れる事を狙って色々と策を練っていた。同時に、彼の姉である伊月にも目をつけていたの。司狼丸が時空を操る力を持っているのなら、血の繋がりがある伊月にも似たような力があるんじゃないか、とね。それを確かめる為に、彼女を追い詰めるように手を進めたけれど、何も起きなかった。正確には伊月が死んでも変化は外道丸の暴走以外に何も無かった、という事よ」
その説明に、鈴鹿も沙紀も表情を少し曇らせる。
道鏡の策謀によって、司狼丸だけでなく、伊月、外道丸、神無、天地丸の人生が大きく狂わされ、天地丸以外は死んでしまったという事実が突きつけられたのだから、無理も無かった。
弓弦はそんな2人の表情を窺いつつも、次へと話を進める。
「だが、道鏡はそれで終わらなかったのだな?」
「もちろん。道鏡は残された伊月の血を使って色々と試して見たの。血を飲む、既に生きている生命体に血を組み込む、そして私という存在を造る……彼の望んだ結果が出たのは、私を造った時だったわ。伊月の血に隠されていた力は、空間と空間の間を行き来する力……つまり、並行世界へ飛ぶ力だった」
何にしても、伊月が司狼丸共々道鏡に利用されていたという事実を聞く中、鈴鹿は怒りを抑えており、江がそれに心無しか安堵しながら繋げる。
「道鏡にとっては好都合なものだったって事だな。自分の生まれた世界に戻れる力があれば、後はそこの邪魔者を消すだけだから」
「そう。だから私は、『向こう側』の隠忍を抹殺する為の戦士として送り込まれたわ。私一人だけ、という理由までは分からないけれど……」
「でも、その結果は……」
既に知っている事だが、敢えて繋ぐ意味もかねて螢が言いかければ、響華丸も首を縦に振って続ける。
「彼の企みの一部は、その予想以上の力を持つ隠忍、『向こう側』の天地丸と、その姪である御琴の手で打ち砕かれたの。本来、私は彼等を内側から倒す為に、人間と同じ感情を持たせて造られていた。私も最初はその任務に従うまでと動いて、2人と戦った……でも、御琴と触れ合う内に理解したの。憎んでも何もならない、大切なのは、許し合う愛、友情、そして運命を切り開こうとする希望、勇気だって事を」
「許し合う、か……」
鈴鹿の心に今、深く刻まれた言葉。
それが無かったが為に、自分と司狼丸は殺し合いを行い、結果として司狼丸を殺す羽目になっていた。
また、その事で響華丸の怒りと拳を受け続ける事にも……
だが今はもう許し合っている状態なので、後ろめたさも何も無い。
そうした彼女の気持ちを汲みつつ、響華丸は小さな、しかし温かみのある笑顔で続ける。
「だから私は、彼女の言葉を信じる事を選んで、決めたの。自分を造った道鏡、その悪行を阻止すると。そしてこの世界に戻って来た」
「で、その時の衝撃で記憶喪失って訳だな。これで繋がったぜ。そして断片だった天地丸ってのは、『向こう側』の天地丸って訳だ。最初倒そうとしていた相手の代表みたいなもんだったろうからな。ところで、転身をしてから元に戻った時に出来た傷は?」
「道鏡が隠忍を再現する時、暴走を防ぐ為に、力の負荷を身体の隅々に掛けるようにしていたみたい。それで肉体の損傷と引き換えに、暴走しなくなったという事よ。凶破媛子になる時は、その負荷が軽くなっているから、解除時に傷を負うという欠点も無くなったわ」
全員が納得したかに見えた状況。
しかし螢はそこであっと声を上げたので皆彼女の方へ注目した。
「あの、鈴鹿さん。伊月さんは今まで、本気で怒った事、ある~?」
「いや、全く無かったね。あの子は滅多に怒らなかった……」
「しじまの里で一緒だったけど、怒るにしても義父さん程の剣幕にはならなかった……でも、それがどうしたの?」
伊月を知る鈴鹿と沙紀の言葉に、螢は明るい表情で答える。
「道鏡が拾った血に、伊月さんが封印してた感情が、魂の欠片がそのまま残ってたのかも。で、それが響華丸の中に全部治まってたんじゃないかな?」
「だからか?司狼丸を救えたのは」
伊月の魂があるからこそ、司狼丸の凍りついた心の氷を溶かせたと見る江。
しかしそれは完全な正解ではなかった。
「ん~ん、それだけじゃないと思うよ。ね、響華丸」
話を振られた響華丸も螢の言っている事を理解出来ていたらしく、微笑で頷き、そのまま螢の説明を聞く。
「伊月さんが滅多に怒らなかった分だけ、司狼丸への愛が血の一滴一滴に沢山詰まってたの。司狼丸を馬鹿にする事への怒りとして。その血が響華丸の身体に組み込まれた事で、響華丸は、本来関係が無いようで、司狼丸が否定されると怒りが込み上げて来るようになった、螢はそう思うよ」
その説明に、鈴鹿はああ、と感嘆しながら空を見上げる。
「!そうだったんだ……あの時あたいをぶん殴っていたのは、響華丸というより、むしろ伊月だったんだね……母親代わりになってた伊月の事だ。弟が理不尽に酷い目に遭ってたら、そりゃああの剣幕になるね……」
「で、伊月の魂があったから、響華丸は司狼丸や時空童子の名前を覚えていた……けど、んな偶然が重なるのか?」
江は再び疑問を抱くが、それを解決する意味合いで葉樹と鎧禅が割って入る。
「有り得ますわ。生命の感情が生み出す力は、時として想像を絶する爆発力となる……今まで様々な時代、並行世界を監査して来た私達は、その法則を導いていますの」
「感情の一部を封印している者程、それを解き放つ時には、神では成し得ぬ奇跡を起こす事も有り得る。時空を遡るという技術は、この時代では神々ですら手にしていなかったものなのだからな。司狼丸の場合は極限状態が鍵となった。伊月の場合もその愛が切っ掛けだったのやもしれんな。霊魂も、自分に関係するもの、即ち血や遺品等を媒介としてこの世に留まる事が出来るからな」
「はぁ……」
何となく飲み込めた江は改めて響華丸を見る。
彼女は何処をどう見ても、普通の少女だ。
自分を理解し、冷静に物事を考えられる、立派な戦士、隠忍である。
彼女が司狼丸を救えた事実を考えると、偶然ではなく必然なのかもしれない。
そんな考えが頭の中に浮かんでいた。
「今思えば、並行世界へ飛ぶ力は、道鏡が望んで発現したものではなく、伊月が望んだ事だと思えるわ」
江だけでなく、この場にいる誰もが抱いている疑問に応える意味合いでそう話す響華丸の言葉に重みを感じた沙紀と鈴鹿は小さく疑問の声を上げる。
道鏡の、自分の生まれた世界において邪魔した隠忍を殺したいという望みに反応して、その力が目覚めたのならば分かる。
だが並行世界と接点の無い伊月が望んだというのは、どういう事なのだろうか。
答えは、響華丸が続ける形で出してくれた。
「司狼丸は独りだった……多くのものを失って、その中でも姉の伊月が一番の望みだったの。そしてその想いが伊月の魂に、私の血を通じて届いた。だから伊月はこう思ったに違いないわ。『司狼丸を助けたい。その為には、彼に、独りじゃない事をしっかりと伝えられる力、光が必要……でも、この世界にそれは見つからない……』とね……」
「あ、そう考えると納得~。司狼丸が時空童子になったのも、『自分の無くしたものを取り戻したい。皆の未来を守りたい』って気持ちから力を開花させたんだと思う。で、未来や過去へ飛べるようになったんだろうな」
螢に続き、江も思い出したかのように声を上げた。
「やっと辻褄(つじつま)が合ったぜ!司狼丸が力を目覚めさせた時、あいつは仲間を守る為に、自分が生きなきゃいけないって叫んでた。で、大通連だったか、その剣を自分の身体にぶっ刺して未来へ飛んだみてえだ。実際本当だけどな」
「……話を戻すと、伊月も私の中を流れる自分の血を通じて、『似て非なる世界から、司狼丸を救える光を、司狼丸を救える仲間を呼ばなくては』という気持ちを力に変えて、私が並行世界へ飛べるようにした、という事よ」
「伊月……」
伊月の想い、そして秘められた力が予想以上である事に感嘆の息を漏らす鈴鹿。
その一方で、響華丸は心の奥から湧き上がる温もりを確かめながら続ける。
「螢の言っていた心の暖かい光を、理不尽な苦しみに晒されている人に分け与える、それが、本来の隠忍の生き方だったのよ。私の、御琴と友達になりたいという気持ち、それは司狼丸のように周囲からの痛みで心が凍りついてしまった人を助けたいという、伊月から託された愛から生まれたものだったわ。そしてその愛は、司狼丸以外にも注がれなければならない」
「そうだね。そのポカポカの光を皆に分ける事が、世界を元気にする一番の方法……」
疑問が解けた事もあって、江達は響華丸の覚悟を改めて理解した。
彼女は迷わない、立ち止まらない、揺るがない。
だから、自分達も彼女をしっかりと支えて行こうとも誓うのであった。

響華丸に関する話が終わった所で、一呼吸入り、葉樹が切り出した。
「さて、次は私達ですわね……まず、鎧禅について。彼は時空の歪みの原因を探るべく、先遣としてこの世界に降りたのですが…」
「時空監査局の人って事だね。で、長くこの時代に居たから、螢には『進んだ時代の人かどうか』が分からなかった、そうなの?」
「左様。そしてわしはこの世界の住民を装い、そして運命を切り開ける者を探し求めていたのだ。歪みの原因が司狼丸にあった事、しかし世界を滅ぼそうとしていたのが道鏡であった事を既に突き止めた上でな」
その話に、やれやれと肩を竦めて葉樹は言う。
「だからですのね……突然通信が途絶えたのは。確かに特級犯罪者である道鏡の逮捕をするにしても、様々な力を取り込んだ彼の事、策略を張り巡らしていたから、迂闊に動けなかった、と」
「課長であっても、この事を話す際に敵に気取られてはなりませぬ故。しかし時空の歪みを修正出来る者として、響華丸達3人が自分の前に姿を見せ、彼女らならばあるいは、と考え、一つだけ試練を与え申しました」
試練とは、鎧禅自身の”犠牲”の事に他ならない。
事実、その直後に響華丸と鈴鹿は許し合い、最後は江の頭突き、そして仲直りという結果に落ち着いていた。
即ち、試練を乗り越えた事になったのである。
葉樹も、鎧禅が自爆した意味を捉えていた。
「成程……私と響華丸との戦いもまた、あなたの狙いと?」
「いえ。そちらは無闇に道鏡に自分の存命を知られぬ為の沈黙から生じた弊害です」
それを聞いて、葉樹は改めて理解した。
鎧禅というこの部下は、頭の切れは確かなのだが、自分ですら掴み所が見られない程の、奇抜な男である事を。
手の掛かる部分はあるものの、かゆい所に手が届くという点では益々頼れる男だとも。
「大体は響華丸が話した通りなのは分かりましたし、最初に葉樹さんと出会った時にある程度の話は見えました。でも、時空の歪みを修正出来る、というのはどういう事なのでしょうか?」
沙紀の質問に、待っていたとばかりに葉樹が説明する。
「時空監査条例第三条、『時空間転移を行う者の目的が、私利私欲ではなく、時空間の秩序を保つ為のものであると判明した場合、監査員はその者及び仲間への敵対行為を取り止めなければならない』。今回の件で、響華丸は確かに道鏡の部下だった存在ながらも、彼を阻止する事が判明しましたわ。つまり、彼女とその仲間は、道鏡が発端となった時空間の歪みを修正可能な者である事を、監査局が認めましたの」
「……司狼丸についてはどうなのでしょう?」
一番の気掛かりな事を沙紀が問いかけると、葉樹は小さな笑みで答えた。
「彼の場合、現在は封印状態ですので逮捕・保護が出来ませんが、もし響華丸の話した通りの状態であるならば、彼の罪は不問になりますわ。万一に備えて他の方々が動いているそうですけれども」
と、話が終わって葉樹と鎧禅は改めて本局に報告するとして転移し、響華丸達はそのまま一休みに入った。
誰もが安心と期待を胸に抱き、青空がその証拠と確信している。
時空童子としての肉体は鞍馬山に封印され、そこは凄まじい瘴気の為に近づけないものの、司狼丸の魂が救われているという事。
それは、彼が復活しても最悪の事態になる事は無いという確証であった。
五行軍発足から既に存在していた諸悪の根源である道鏡、彼の計画は、此処に来て初めて狂い始めている。
響華丸が彼の呪縛を打ち破っている以上、野望を完全に阻止出来るのは今より他は無い。
それらが彼女らの疲労回復を速めていた。

静かになった夜の村で、響華丸達は夜風に当たって気持ちを落ち着かせており、響華丸は鈴鹿と、江は弓弦と、螢は沙紀と組で、それぞれ家の前、裏の森、少し高い丘の上に居た。
「……改めて、先日はごめんなさい。あなたを一方的に責め立ててしまった事は、私の傲慢(ごうまん)である事に変わりは無いから……」
鈴鹿と並んで立っていた響華丸の、少し俯きながらのその言葉に、鈴鹿も一つ溜息を吐いて返す。
「しょっぱいねぇ……ま、それはお互い様だよ。あたいの方こそ母親らしくない女で、ごめんな。司狼丸にもキッチリ謝っておいたよ」
「鈴鹿……」
一つ気になった事があった響華丸。
司狼丸を殺した理由は、自分が最強でなくてはならないから、と話した鈴鹿。
あれが果たして建前か本音かを知る必要がある。
螢が真偽を見抜いたのは、鈴鹿の涙についてのみで、目的そのものの真偽は判明していないからだ。
それを察していたか、鈴鹿は笑みを浮かべて口を開く。
「……最強でありたかったのは、本当だよ。でも、その最強って意味を履き違えてたんだ、あたいはね。割り切る事も大切、腕っ節も大事、でも、一番大切なのは……折れない心なのさ」
「折れない心……」
「あたいは、自分が折れない心を持っていると思ってた。妖魔で、親子でも情け無用、弓弦の親を食った事を何とも思わない、そうした割り切りで生きてきた……でもね、天地丸、当然伊月の息子の方のね、そいつとの最初の戦いでボッキリ折れて、その時はやられちまった」
ありありと鈴鹿の脳裏に浮かび上がる過去。
その過去は、もはや以前のように笑い飛ばせるようなものではなくなっていた。
響華丸に殴られるまでずっと頭に響いていた、実の息子の泣き叫ぶ声は今はもう聞こえないが。
「それで、司狼丸の事を仲間から聞いた後、何年かして司狼丸が戻って来たのさ。時空童子として、な。その時あたいは、天地丸を打ち破って強くなったけれど、司狼丸が更に強くなった事で、あたいの中の妖魔の血が騒いじまった。弓弦の親を食った時みたいに、殺すって気持ちが湧き上がっちまって……」
「……生粋の妖魔故に、捨て切れなかったのね……」
理由が何であれ、今となっては責める意味等無い。
生き物は植物、動物を喰らって生き、それに感謝はすれど、過度の負い目を感じてはならない、という事を考えれば尚更だ。
だから、響華丸は静かに、何時もの落ち着いた表情で鈴鹿の話を聴き続ける。
「最強になる為には、時空童子を倒すしかない、そう考えて殺した。その途端だったよ。身体の中でジワジワと、痛みが広がったのは……それを他が知っていたとしても、あたいはあたいでありたかった。そして誰にも真意を知られないよう、世捨て人になろうとして……ようやっと世の中から自分を切り離せたと思った所で、あんたが来た」
「……私に殴られるまで、自分自身を偽っていた事にすら、気付かなかったという事かしら?」
もしそうでなければ、既に心を裸にしていても不思議ではない。
響華丸のその考えは当たっており、鈴鹿は頷いてから夜空を見上げる。
「現実の厳しさを教えるのも親の務めと思ってたけど……あんたが教えて、気づかせてくれたのさ、響華丸。それが思い上がりだって事に。いや、あたいは誰かに全部話して楽になりたかったんだ……そして、あたいの考えに、真っ向から違うって言ってくれるヤツを求めて……それがあんただったのさ。人間も妖魔も分かり合える、愛し合える。それが一番だって事を気づかせてくれた、あんた……」
鈴鹿はそう言いながら羨ましそうな表情をして響華丸の方を見た。
その視線を受け止めながらも、響華丸は首を小さく横に振る。
「……最初の頃、正確には、記憶を失って、そこから転身した時の頃はあなたと同じ考えだったわ。自分が人間ではない、妖魔、化け物だと理解した時、自分自身を知る上で人間達の村を、罵声を受けながら出て行くつもりだった。でも、それを人間達は引き留めたの。私が化け物だと知った上で……」
「……優しい奴等だねぇ。司狼丸達がそうした連中に恵まれていれば、あるいは……」
空を見上げながらそう鈴鹿は呟くも、すぐに響華丸が遮る。
「だからこそ、だったと思えるわ。人間も妖魔も、確かに姿は違うし力の差もあるけど、ただそれだけで、同じ生き物だって事を村の皆は割り切っていた。その気持ちが、私にも伝わっていたんだと、今なら思えるわ。同じ生き物である以上、分かり合えるのならしっかりと分かり合う必要がある。生まれや育ちに縛られず、生き方が大事。御琴も、私を敵と知った上で、私の事を知ろうとして、思い切り戦った……分かり合えると信じて、ね」
「分かり合えるってのは良いもんだね、本当に。あたいと人間の方の天地丸の時のように上手く行ったのは数えるくらいしかなかった」
「……私は、ううん、私だけじゃなく、司狼丸も一足飛びに現状を打破したかっただけなのかもしれないわね。けれども江が言っていたように、人間達が妖魔を、隠忍を受け入れるには、とてつもない時間が必要……それまでは、人間という皮を被って生きるか、隠れ里に住んで生きるしかないのかもしれない……どちらにしても、やる事は同じだけれどね」
さっぱりとした割り切りの出来る響華丸。
彼女が時折見せる笑顔を見てみると、やはり身体に伊月の血が流れているだけにと、親近感が湧いてしまう。
そして何より、鈴鹿が抱いたのが、一言で言えばこうである。
腕っ節においては分からないが、精神面では今の段階では響華丸には勝てない。
響華丸は周囲の環境の良さもあったのかもしれないが、成すべき事を冷静に見詰め、戸惑いと迷いを引き摺らず、しかし殺戮を手段とした行動に出ていない。
だが、嫉妬を抱こうにも抱けなかった。
本当の意味で、鈴鹿の妖魔としての心が折れてしまっていたから。
それに、負けたのは今であって、これからは自分がその負け分を取り返せば良いだけ。
故に、鈴鹿は笑う。
真に強くなろう、真に最強になろうという前向きな意志と共に。
「あたいも、何時までもグジグジしてらんないね。じゃあ、寝るか」
「ええ。まだ全てが終わった訳ではないから」
先の、鎧禅の寺では良く眠れなかったが、今夜は気持ち良く寝れる。
片付けるべき問題の一つを、良い形で片付けられたのだし、それに付随する問題も丸く収まったのだから。
響華丸も鈴鹿も、そう考えて家の中へと入った。

同じ頃、江と弓弦は虫の声を聴きながら、互いに向かい合った状態で目を閉じていた。
2人の脳裏では今、激しい戦いが繰り広げられている。
手の内の読み合い、そして術や武器を駆使した戦い、それらは実際に行っているものではなく、相手の持つ気を感じ取り、自分の頭の中で想像、戦闘を脳内で行うという仮想的なものだ。
冷や汗が双方の顔に流れる中、どちらからともなく目を開いて一息吐いた所で、戦いは終わる。
「魔喰いの弓とは、本当に物騒で厄介な代物だぜ……大きく避けたりしねぇと、掠っただけで焙(あぶ)り焼きだ」
「お前の方も、鱗を使った撹乱(かくらん)がなかなかのものだな。魔喰いの矢の特性を利用して、軌道を逸らすとは……」
江がどっかりと胡座を掻いて笑う中、弓弦も微笑と共に汗を拭う。
「何より、殺気が抑えられてるじゃあねえか。あんた、元々はあたしら妖魔を敵としてたんだろ?」
「ああ。親の仇だからな。今も許すつもりはない」
笑みを消した弓弦の言葉に、江も真顔になっていた。
「……鈴鹿か?仇は」
「何故分かった?」
「鈴鹿の名前を最初に出した時、あんた眉間に皺を寄せてたろ?そん時、ほんの一瞬だけ殺気が雷みてぇに一気に出て来たのを感じたんだ。だからさ」
その推理に、流石と唸る弓弦。
不思議と江に対しては嫌悪感を感じられなかった。
「……沙紀に、色々と教えられてな……本当ならば彼女も突き放すはずだったが、それでもなお沙紀は付いて来た。私の師の教えに真っ直ぐ従っていたのだ。もっとも、彼女が五行軍と戦った理由は、生きる為だったがな」
「正しいぜ、それもな。自分が死んだら無意味、そういうもんだよ、戦いってのは。戦いそのものに、正しいもクソもねぇ。自分の信じたいものを、貫きたいものを信じる、それで良い、だろ?」
「単純だな、お前は」
「あんたの半分も生きてねぇからな。で、愚問だけどさ、仇を討たない理由は何だ?」
愚問と断ったその問いに答える事は、弓弦からすれば容易いものだった。
もっとも、それは沙紀の存在あったればこそ、なのだが。
「無意味だと知ったからだ。鈴鹿を殺しても、父や母は帰って来ない。世の中が良くなる訳ではない……それと、先のお前の推理について、一つ言っておきたい事がある」
「お?」
真面目な性格故の表情で区切る弓弦の話、それは江の予想以上のものだ。
「私の放った殺気、あれは確かに鈴鹿に対しての怒りだが、私の親を食った事ではなく、私や沙紀を、そして実の息子であるはずの司狼丸を欺いていた事に対して、だ。司狼丸を殺すと奴が言い出した時、その真実を知ったのだ」
今でもそう言い切れるという事は、殺しはしないが、一生弓弦は鈴鹿を許す事は無い、という事でもある。
それを受け入れた上で、江は間を置いてから口を開いた。
「不器用な姉ちゃんだなぁ、鈴鹿は。嫌われたり憎まれる役を買いやがって。息子は寂しがり屋で泣き虫、母親は意地っ張りで泣き虫。罪な親子だぜ」
「……司狼丸とも会ったのか?」
「ああ。実はな、小さい頃、斬地張の一員だった頃に魔具作りの名人ん所を攻めたんだ。そこに司狼丸と鈴鹿、後一人ガキ、多分そいつが晴明だろう、その3人が居た。で、天地丸と鈴鹿や司狼丸のやりとりを遠目で見たのさ。親を知らないあたしでも、親子の理想の形ってのは分かる。色々と見てきたからな。親は子を導くけど、涙に応えてやれるのが理想……キツイ事ばっか言われて逃げ場を失えば、抑え切れねぇ感情で周りをぶっ壊す……それをどうにかしてやるのも、戦う奴の器量じゃねえかって思った。そして、弱い者苛めが嫌になって、斬地張を出ていったのさ」
この男も自分と似ている。
己のその時の立場に疑問を感じ、その答えとして斬地張から出たという行動は、自分が五行軍から抜けた事と良く似ていた。
弓弦はそう感じ取り、同時に江と自分との違いを見出す。
憎しみに囚われず、涙に応えられるような存在。
それは妖魔への復讐心を抱く自分とは違う、隠忍故の心だと思いながら。
「……優しい男だな、お前は」
再び笑みの戻ってきた弓弦の言葉に、江はカラカラと笑い声を上げた。
「優しい、と来たか。単に弱い者苛めと汚ぇやり方が大っ嫌いなだけさ。そういうあんたも優しいと思うぜ」
「お前ほどでは無い」
そう言葉を交わした所で、2人は先の疲労が回復したと判断し、村の方へと戻っていった。

満点の星空の下、螢と沙紀は星を見上げながら草原の上に腰を下ろしていた。
「綺麗なお星様~。螢達のお喋りを、一緒に聴いててくれるんだね~」
「ふふ、そうみたい。本当、こんなに素敵な星空を見るのは、久し振りだわ」
見るだけで、気持ちが落ち着いてしまう、そんな夜の空。
ただ、沙紀は都で聞いた話を思い出した途端、顔が俯き始める。
「……聞いたわ。あなたのお母さんの事……」
螢も視線を星空から前方へと下ろし、真顔で言う。
「何時か、そうなる日が来るのは分かってた。都の人達は何て話してたの?」
「妖魔に襲われて、貴方を守る為に死んだ、って……」
「そういう事に、螢がしておいたの。でないと、皆の笑顔が永遠に消えちゃうから。だから、思い切って嘘を吐いたんだ」
「嘘?」
螢の言葉に、沙紀は最初どういう事か分からなかったが、段々とその意味が分かるにつれて、全身が冷え始めるのを感じていた。
もしかしたら、螢の母親を”実際に殺した”のは……
「響華丸も江も居合わせてて、でも2人共皆に言わない事にしたの。螢が、お母さんを殺した事」
「!?」
やはり、予想はしていた。
そうであって欲しくないと願っていた。
だが、事実を螢自身が打ち明けてしまった。
沙紀はその現実に直面した途端に、自分の全身を流れる血が固まったような感覚を覚え、全身が震える。
自分の事でありながら他人事のような言い回しのようで、しかしそれは感情欠落故の、彼女らしい言い方ではあるのだが、やはり信じられなかった。
既に許し合えたとはいえ、司狼丸が鈴鹿に殺されたという過去を思うと、それが茨の如く沙紀の心に絡みつき、痛みを与える。
「道鏡の部下の、影屍っておじさんが使った術で、お母さんは死ぬまで人を襲うようになっちゃったの。お母さんは、人を殺し続けてしまう呪いに苦しんでて、助けを求めてた。だから螢は助けるしか、殺すしかなかった。そうしないと、沢山の人の笑顔が消えちゃうから……」
「螢……」
掛ける言葉がそれしか見当たらない沙紀、そして前へ進み続けるように話を続ける螢。
「そんな時も、お父さんが死んだ時と同じで、螢は泣けなかった。怒れなかった……ああいう時、多くの人は何も出来ずに動けなくなったり、怒って自分を見失ったりするんだよね?でも、螢は……躊躇わなかった。やっぱり、泣けないから、怒れないからだと思う……」
螢は、喜々として誰かの命を奪ったりはしない。
しかし愛する者との戦いを、迷いながら行うという気配が無かったというのは本人の口から明らかだった。
彼女の一番の寂しさは、その”他の人とは違う感情の持ち主”である事だ。
人間、妖魔という関係ではなく、怒りと哀しみを持たない、そうした感情を得られない為に、他の人達とは僅かにズレ、距離感があるという事を、螢自身が自覚している。
たとえ、周りの人達が螢に良くしてくれているとしても。
だが、その代わりとして誰かの怒りや哀しみに敏感で、その感性に救われた人がいるというのも事実だ。
そう感じた途端、沙紀は身体の震えが治まった所で螢を横から優しく抱き始めた。
「ふえ?」
「……誰かの感情を感じ取れるなら、誰かの怒り、哀しみを理解出来るなら、それでも良いと思うわ。そうした痛みを理解出来るから、人も妖魔も前に進める……鈴鹿さんの心の氷を溶かす切っ掛けも、あなたなんでしょう?」
不意の温もりに面食らった螢も、安心感が湧いたのか一呼吸置いて頷く。
「……うん。響華丸を止めようとした時、鈴鹿さん、凄く泣いてた。弓弦さんの親を食べた事にも、司狼丸を殺した事にも、皆に嘘吐いて強がっていた事にも、後悔して、ごめんなさい、ごめんなさいって何度も……」
螢が見抜いていた鈴鹿の本心に、今此処で気づいた沙紀は再び星空を見上げる。
「……演技じゃ、なかったのかもね……あの時弓弦に命乞いしたのは……」
「自分でどうする事も出来なかった事があったから、その悔しさで一杯だったんだと思う」
「地獄門が開いた時の事、か……あの後、独りでに地獄門は閉まったみたいだけど……でもその後の災厄でこの世界が……」
螢の母の件から落ち着いた沙紀の言葉を繋ぐように、螢も沙紀の方を見て続ける。
「江が言うには、全部道鏡と大凶星八将神がやった事だったみたい。それを全部、司狼丸の所為にした事で、司狼丸の心からポカポカの心の光が無くなったんだと思う。ん~ん、他の隠忍達も、妖魔を否定する人達に苛められて、心の光が消えていっちゃった。お母さんも、そうなりかけてて、お父さんが助けてくれたの」
「……外道丸も、もう少し早く心の光を理解していたら……」
一番の悔いはと問われたならば、外道丸が人間達への憎悪を爆発させた事、それを自分が止められなかった事と迷わず答えたであろう。
だが、悔いても、憎んでも何も解決しないと理解した上で、沙紀は決意していた。
死んでしまった彼等の分も、自分達が生きていくという事を。
その思いが報われつつあるという真実としてか、螢がそこで紡ぐ。
「でも、全部の人間がひどい訳じゃないって事を、響華丸が示してくれたんだ。心の光は強弱はあるけど、皆の中にちゃんとある。それを分かち合う事が出来れば、きっと人間も妖魔も仲良くなれる。螢はそう信じてるの。沙紀ちゃんも、そのポカポカを弓弦さんに分けれたおかげで、今の2人が居るんじゃないのかなあ」
螢も声に明るさが戻っており、沙紀も気持ちが楽になって来たか、笑顔が戻ってきた。
「ありがと……そうね。何時かきっと、皆仲良く暮らせる。そのためにも、頑張らなきゃね。司狼丸達の分も……司狼丸が安心して、笑顔で帰って来れる事、私達が笑顔で迎えられる事を目指して」
「うん。螢も、響華丸達の力になって、道鏡の悪い事を止めさせなくちゃ。帰ろ~」
話に区切りが付き、もう遅くなったと感じたか、螢はすっくと立ち上がり、沙紀の手を引っ張って丘を降りようとする。
「あははは、本当に相変わらずのせっかちさんね、螢は」
「時間は待ってくれないよ~」
和かな2人は、そのままクスクス笑いつつ村の方へと駆けて行った。

それから数日後。
休息の後、道鏡らを探すべくあちこちを動いていた響華丸達。
収穫も異変も今日まで起きず、一先ず情報整理しようと隠忍の村に戻ってきたのだが、里の入口に入った途端、突然青空が赤くなり始め、所々暗雲に包まれながら雷鳴が鳴り響いた。
「!?これは、馬鹿な……!」
「この悪寒……地獄門が開いた時と同じ……いや、それ以上だよ!」
「でも、司狼丸の力で八将神は倒されたはず……一体何が……?!」
弓弦が驚愕し、鈴鹿も寒気を覚える中、沙紀もあってはならないと信じていた邪悪な雰囲気に戸惑いを感じ取る。
里の子供達が怯え、母親達もそれを宥めながら震える中、螢が上空のある一点の異変を見て指差す。
そこ太陽の代わりと言わんばかりに、赤黒い球のようなものが空に浮かんでおり、禍々しい輝きを放っているのが見えた。
「あ、あれ!あそこに物凄い勢いで邪悪な、どす黒い気が集まってる!」
江も只ならない気を感じて僅かに全身が震える。
「鞍馬山での邪気とどっこい、いや桁外れだぞ!」
「!!あの方角は……富士山!?」
弓弦の言うように、富士山の上空にその球が浮かんでいた。
そしてその意味を、一番に理解したのは響華丸だ。
「あれは地獄門だわ……道鏡は、地獄門と一体化して、そのまま地獄、この世界へと自分を広げていくつもりよ」
「自分を広げる!?つまり、この世界全部があいつになっちまうってのか!?」
「ええ。この世界を自分と融合させる事で人間や妖魔を、全ての生き物を滅ぼすだけじゃなく、並行世界をも飲み込むつもりだわ……」
冷や汗が絶えない中、響華丸はもう一つの事実に気づき、全員に聞こえるように言う。
「急ぐわ。彼の放つ邪気にあてられて、獰猛(どうもう)な妖魔や獣達が暴れているはず!守りの弱い人里を、人間達を救わないと!」
鈴鹿は舌打ちして武器を構える。
「……もう一暴れしないとダメって事かい!なら、分担して動くよ!あたいと沙紀、弓弦はこの里を守る!他の退魔師達もこの異常な様子に気づいているから、響華丸、あんたは江や螢と一緒に世話になった村とかへ助けに行きな!退魔師の足が間に合わない場所だと尚更だろ?」
「分かったわ。飛べば遠い場所でも数十分で辿り着けるはず」
そう言いながら響華丸が転身すると、江と螢はそれぞれ小さな蛇及びネズミの姿に変化し、響華丸の肩に飛び移る。
変化の術でも、小動物に変わる術は初めてとばかりに沙紀は目を丸くして声を上げた。
「!?そんな変化の術を身に付けてたんだ……」
「まあ、潜伏とか小さい場所への探索の為に我流で覚えたんだけどな。螢も同じ事考えてたのか」
「うん。流石に2人だと、転身した響華丸でもちょっと重いかな~っと思って独学で~」
「助かるわ、2人共。さあ、行くわよ!」
準備は万全とばかりに翼を羽ばたかせた響華丸は江、螢を肩に乗せたまま飛翔し、そのまま自分の過ごした村の方へと飛んで行く。
それを見送る鈴鹿達も、顔を合わせて頷くと、村の若者達と共に行動に移った。

森に囲まれた村。
そこでは既に暴走した妖魔と村人達との戦いが始まっていた。
「此処を落とさせるな!響華丸が帰ってくる場所だからな!」
「分かってるよ、父ちゃん!」
子供も手にした農具で近づく妖魔や獣達を打ち払い、弓矢等で空からの妖魔達を射抜いていく。
「ウガァァッ!!」
しかしその防衛線を打ち破るように、地中からも妖魔が飛び出して来ており、それへの対応に次々と人が回されていく。
結果として数の面で押されていった村人達だが、誰もが恐怖と面向かう意味合いで果敢に迎撃していた。
そうした守りを掻い潜るように妖魔の一匹が子供を狙って飛び掛かり、子供もそれに気付いて身構えたその時。
上空から閃光が走ったかと思うと、3体の異形が降り立ち、次々と立ち塞がる妖魔を打ち破って行った。
転身した響華丸達だ。
「勢いで転身しちまったが、このまま全部叩き潰すぜ!」
「はいは~い!子供達のお守りと怪我人の手当はお任せ~。江は地面の方をお願~い」
「おうよ!響華丸、あんたは空のうるさい奴らを蹴散らしてくれ!」
「ええ。2人共、気を付けてね」
2人は響華丸の言葉を受けて散開し、江は地面を潜っては地中の妖魔を引きずり出して切り裂き、螢は火の玉を無数飛ばして近づく妖魔達を焼き払い、弾幕を潜った者へは手刀と蹴りの連撃を見舞う。
響華丸は空を駆け、その風圧で飛ぶ妖魔を切り裂くが、一際大きな妖魔には右手に呼び出した光の剣で切り裂いていく。
数十分後、妖魔の一団が全滅した所で3人は村の入口で合流したのだが、そこへ村人達の声が掛けられた。
「帰って来たんだな、響華丸!」
「その人達、お姉ちゃんのお友達?ありがとー!」
「こんな状況で、本当に助かるぜ、響華丸が戻って来てくれてよ!」
暖かな声に、響華丸も笑顔で返しつつも、すぐに表情を引き締め、視線を敵の妖魔へと向ける。
「ただいま、皆。もう少し落ち着いた時に会いたかったけれどね」
響華丸からすれば聞き慣れた感謝の言葉は、江からすればくすぐったいものだったらしく、妖魔の顔のまま苦笑して村人達を見る。
「普通なら化け物呼ばわりするはずが、この対応とは……ったく、こいつらの心は何処まで広いんだか」
「何処までも広いさ。この戦いは妖魔とか人間とかは関係無い。生きている者達全員が、地獄とか滅びとかに打ち勝つ為の戦いなんだ。そうだろ?」
響華丸の到着で意気上がる村人達。
怪我人は螢の術で手当を受けており、螢は子供達と共に近づく妖魔達を迎撃しながら、時折笑顔を見せる。
「この村の人達は、皆ポカポカだね~。螢や江の、妖魔の姿を見ても、怖がってないし」
「あのお兄ちゃんは響華丸姉ちゃんの次にカッコイイし、お姉ちゃんも可愛いから」
「どもども~。南都で幸せを届けた螢の、地獄払いの舞をとくとご覧あれ~」
鮮やかな舞は次々と敵妖魔を切り裂き、村人達を鼓舞させる。
それに負けじと江も自分より大きな妖魔を鱗と水の弾丸による弾幕で蜂の巣にしながら、両腕を鞭のように振り回してズタズタにしていく。
「さあ、目覚ましの攻撃をタップリと味わいなよ!あたしを止めようとする奴等は大歓迎だぜぇっ!!」
その豪語に呼応して、次々と地上の妖魔は江に集まって来る。
「ついて来いザコ共!!」
ある程度引き寄せた所で江の両腕が唸りを上げ、妖魔達を薙ぎ倒して行く。
その上空を、光輝きながら響華丸が無数の妖魔を撃ち落としていた。
「破邪光弾(はじゃこうだん)……行って!」
伊月の記憶から見出した、彼の父が得意としていた術。
それを響華丸は、光の矢を放つ十数の球という形で再現させ、迎え撃つ。
そうした攻撃が続いて更に数十分、妖魔達の数はまだ増える一方だった。
「ん~……このままだと、道鏡の所には何時まで経っても行けれないね~」
「区切りで休めるにしても、流石に世界が地獄に変わろうとしているから、簡単には行かせねぇって事か!」
「突破するしかないみたいね。そして一気に地獄門を叩く……行く方法はあるわ」
一旦地上に降りた響華丸の横に江と螢が立った所で、3人の目の前に光の柱が降りた。
中からは葉樹と鎧禅が姿を見せており、2人の姿が完全に見えた所で柱はゆっくりと消える。
「此処だけが唯一孤立した村、ですわね。またしても地獄門が開くとは、道鏡は紛れも無く特級犯罪者……無視出来ませんわ」
「わしらも加勢するぞ、響華丸達!」
「時空監査条例第三条補則、『場合によっては、時空の歪みを修正する者達に対して、武力面での協力も許される』。それに従って、ですわ」
問われるよりも前にそう説明する葉樹。
「おお、あなた方も!」
村人達はその増援も響華丸の知り合いと認識し、受け入れている。
その態度を受けて、クスリと葉樹は笑いながら響華丸を見た。
「不思議なものですわね……響華丸の出現で、此処まで人間と妖魔との間の溝が埋まろうとは……さあ、私と鎧禅が此処を守りますわ。あなた方3人は地獄門へ向かい、道鏡を打ち倒すのですわ!」
「分かったわ、葉樹。あなた達も無理の無いように……」
「良し!一気に大将首だ!!」
「頑張ろ~!」
後顧(こうこ)の憂(うれ)いは無しと見て、響華丸達はそのまま空を飛んで富士山上空へと向かった。
それを見届けた所で、葉樹は細身の剣を抜き、鎧禅は錫杖を手にして妖魔の群れと相対する。
「……父上、あなたは人類を救うという、理想を追い求めたが故の過ちを犯してしまいましたわね……ならば、それを教訓としたこの葉樹の戦い、此処に示しますわ!」
「さあて、この世界でのわしの最後の大仕事と行かなくては!」
「皆、この人達に後れを取るな!」
「「おー!!」」
村人達も一丸となって妖魔達に向かって行った。

富士山上空に浮かぶ赤黒い球体=地獄門。
そこへ真っ直ぐ、響華丸達は向かっていた。
行く手を阻む妖魔達は彼女の攻撃で蹴散らされていくが、球体からも黒い槍のようなものが放たれており、それらを掻い潜りながらの強行突破である。
「しっかり掴まってて……3人の力で、球体の、地獄門の内部へ突入するわ!」
「任せろ!」
「お父さん、お母さん……ちょっとだけ螢達に力を貸して……」
響華丸だけでなく、変化していた江と螢の身体が光り輝き、3人は一つの光の矢となって地獄門へ飛ぶ。
そして砕けるような音と共に結界のようなものが破れ、そのまま地獄門の入口を突破した。

地獄門の内部、正確には地獄そのものなのだが、そこは正しく、この世のものではなかった。
転身を解いた響華丸達が降り立ったその地面は湿り気があり、空気も瘴気が混じっていて普通の人間は即死してもおかしくない程のもの。
響華丸達が平気なのは、隠忍は隠忍でも、心を強く保っている隠忍だからなのだろう。
うねうねと動く青と赤紫の斑(まだら)模様の空、それと同じ色合いの壁や床もやはり生き物のように蠢(うごめ)いている。
そんな不気味な空間を見渡しながら螢は周辺の敵の気配を探る。
「此処が、道鏡のお腹の中って事だね」
「で、その心臓に当たる場所に、道鏡の本体が居るんだな……?闇牙や影屍、でもって配下の妖魔やら亡者と一緒に」
「そのようね。確かに私達を倒すには打ってつけ。でも、倒されるつもりは無いわ。さて……本当はこれ、飛ぶ前に沙紀達の村で2人に言っておきたかったけれど……」
と、前へ歩こうとした江と螢を呼び止める形で響華丸は続ける。
「……私の、自分自身の過去を知る為の旅から始まった、この戦いに付き合ってくれてありがとう。あなた達2人も、御琴と同じ、大切な友達よ。仲間であると同時に、ね」
素直な気持ち、それを伝えたかった。
本来、確実に交わる訳では無かったはずの仲間。
江も螢も、知識や心の面で自分を支えてくれた。
だから、そんな2人に、今此処で、改めて感謝したい。
そんな響華丸の気持ちは狙い違わず2人に伝わっていた。
「……へっ。何を言い出すかと思えば、当然な事言いやがって。ま、最後まで案内するぜ。こんな地獄の奥深くじゃなく、良い未来への道をな!」
「えへへ、お友達って呼ばれると気持ち良い~♪螢も、2人の役に立てて嬉しいよ~。だから、その嬉しいを長く続かせる為に、もっと頑張るね~」
2人が笑顔でそう言うので、響華丸も小さく笑う。
「緊張感がおかげで解れたわ。さあ、これが最後の決戦よ……!誰一人欠ける事無く、全員で生きて帰りましょう!私達を待っている人達の所へ!」
「おうよ!地獄の奴等相手って聞いて、気合が入るぜ!!」
「地獄で苦しんでいる人達に、浄化の幸せをお届け~!」
地獄の瘴気が辺りを包む中、それを吹き飛ばすように、心の光を照らす3人は前へ、赤紫の大地の果てへ続く道を歩き出した。


あとがき

色々と判明した事実、それらを整理しまして決戦前という今回にしました。
司狼丸が時空を飛ぶ力を持つのであれば、伊月もそれに似た力を持つ、というのは姉弟という設定を考えて組み込みました。
ONIシリーズで良く見られた、人間達の隠忍に対する恐怖というものは無いという展開は、『妖魔も人間も同じ生き物』という考えが定着していたから、という理由で行いました。
しかし今回は本格的に日本全土が地獄になるか否かという状態にし、最終決戦に相応しい舞台作りに。

ONI零 ~虚ろより現れし仔よ~

『八 近づく決戦 (完全版)』


鞍馬山を出た響華丸達は、沙紀達の村に到着していた。
司狼丸の魂が救われた為、復活しても暴走する可能性が低い事。
響華丸が元々道鏡によって造られた隠忍である事が判明し、それには沙紀も弓弦も驚く。
が、響華丸達は次の事で驚いていた。
先に自分達を助ける為に死んだと思われていた鎧禅が、傷がまだ治っていないながらも生きていたのだ。
それには葉樹も呆れと共に怒りを露わにして詰め寄る。
「今までどうして連絡をしなかったんですの?これで何度目か、お分かりで?」
「申し訳ございませぬ。真なる敵、この世界に地獄を齎した張本人である道鏡の悪事を完全に把握する上で、皆を欺くより他に無かったもので……」
鎧禅の説明に葉樹は溜息を吐いたが、落ち着いた笑みになっている。
「全てが解決して帰還しましたら、始末書を2件分提出させて頂きますわよ。さて、響華丸……あなたの事ですが身体の方を数十分程調べさせてよろしいかしら?」
「ええ。こちらからもお願いするわ」
そう話が進むと、葉樹と響華丸は村を出た辺りで姿を消すが、数十分した所で2人は何事も無い様子で戻ってきた。

「説明は本人の口から聞いた方が良いかと思いますわ。では、響華丸」
知りたい事が幾つかある江達は、葉樹の言葉に従って話し出した響華丸の説明を聞く。
「偶然にも、造られる途中の記憶があったわ。けれど、大方は鞍馬山での話と同じよ。私は、道鏡によって造り出された隠忍だけれど、『向こう側』の世界にも存在していて、転身した時の姿も江達と全く違うものになっているの。一説では、妖魔の別な言い方である妖怪の中でも聖なる妖怪を意味するそうよ。そして『向こう側』では、そうした聖なる妖怪の事を妖魔と言う事もあるの」
「紛らわしいな。こっちだと普通に化け物って印象になってるぜ。けど、その事を知ってるって事は道鏡は……」
「そう。道鏡も『向こう側』の出身で、邪悪な神の眷属だった。彼はそこでの隠忍との戦いに敗れた後、この世界に流れ落ち、地獄門を潜って力を蓄えていたの」
この説明で、鈴鹿は十分に納得する。
自分達が戦った事のない、次元の違う未知の存在、道鏡。
その正体がようやっと判明した事での安心感も、今の彼女にはしっかりとあった。
「だから、人間とも妖魔とも違う、得体の知れない奴だって訳だね」
「そうよ。そしてこの世界を地獄に変えた上で、『向こう側』に侵攻するつもりだった。五行軍や八将神を利用してね。でも、そこで予想外の出来事が起きたわ。それが司狼丸の力……」
「私達も巻き込まれた、50年の時を越えたっていう能力……司狼丸はその力に目覚めて、一旦未来へ飛んだ後に、この時代に戻って来た……」
時空童子、司狼丸が時を越え、そして時を遡る事も出来たという真実。
その目的は大体察しがついていた沙紀だが、今は響華丸の話を聞く事に専心していた。
「そして、その確証を得た道鏡は、彼の力を手に入れる事を狙って色々と策を練っていた。同時に、彼の姉である伊月にも目をつけていたの。司狼丸が時空を操る力を持っているのなら、血の繋がりがある伊月にも似たような力があるんじゃないか、とね。それを確かめる為に、彼女を追い詰めるように手を進めたけれど、何も起きなかった。正確には伊月が死んでも変化は外道丸の暴走以外に何も無かった、という事よ」
その説明に、鈴鹿も沙紀も表情を少し曇らせる。
道鏡の策謀によって、司狼丸だけでなく、伊月、外道丸、神無、天地丸の人生が大きく狂わされ、天地丸以外は死んでしまったという事実が突きつけられたのだから、無理も無かった。
弓弦はそんな2人の表情を窺いつつも、次へと話を進める。
「だが、道鏡はそれで終わらなかったのだな?」
「もちろん。道鏡は残された伊月の血を使って色々と試して見たの。血を飲む、既に生きている生命体に血を組み込む、そして私という存在を造る……彼の望んだ結果が出たのは、私を造った時だったわ。伊月の血に隠されていた力は、空間と空間の間を行き来する力……つまり、並行世界へ飛ぶ力だった」
何にしても、伊月が司狼丸共々道鏡に利用されていたという事実を聞く中、鈴鹿は怒りを抑えており、江がそれに心無しか安堵しながら繋げる。
「道鏡にとっては好都合なものだったって事だな。自分の生まれた世界に戻れる力があれば、後はそこの邪魔者を消すだけだから」
「そう。だから私は、『向こう側』の隠忍を抹殺する為の戦士として送り込まれたわ。私一人だけ、という理由までは分からないけれど……」
「でも、その結果は……」
既に知っている事だが、敢えて繋ぐ意味もかねて螢が言いかければ、響華丸も首を縦に振って続ける。
「彼の企みの一部は、その予想以上の力を持つ隠忍、『向こう側』の天地丸と、その姪である御琴の手で打ち砕かれたの。本来、私は彼等を内側から倒す為に、人間と同じ感情を持たせて造られていた。私も最初はその任務に従うまでと動いて、2人と戦った……でも、御琴と触れ合う内に理解したの。憎んでも何もならない、大切なのは、許し合う愛、友情、そして運命を切り開こうとする希望、勇気だって事を」
「許し合う、か……」
鈴鹿の心に今、深く刻まれた言葉。
それが無かったが為に、自分と司狼丸は殺し合いを行い、結果として司狼丸を殺す羽目になっていた。
また、その事で響華丸の怒りと拳を受け続ける事にも……
だが今はもう許し合っている状態なので、後ろめたさも何も無い。
そうした彼女の気持ちを汲みつつ、響華丸は小さな、しかし温かみのある笑顔で続ける。
「だから私は、彼女の言葉を信じる事を選んで、決めたの。自分を造った道鏡、その悪行を阻止すると。そしてこの世界に戻って来た」
「で、その時の衝撃で記憶喪失って訳だな。これで繋がったぜ。そして断片だった天地丸ってのは、『向こう側』の天地丸って訳だ。最初倒そうとしていた相手の代表みたいなもんだったろうからな。ところで、転身をしてから元に戻った時に出来た傷は?」
「道鏡が隠忍を再現する時、暴走を防ぐ為に、力の負荷を身体の隅々に掛けるようにしていたみたい。それで肉体の損傷と引き換えに、暴走しなくなったという事よ。凶破媛子になる時は、その負荷が軽くなっているから、解除時に傷を負うという欠点も無くなったわ」
全員が納得したかに見えた状況。
しかし螢はそこであっと声を上げたので皆彼女の方へ注目した。
「あの、鈴鹿さん。伊月さんは今まで、本気で怒った事、ある~?」
「いや、全く無かったね。あの子は滅多に怒らなかった……」
「しじまの里で一緒だったけど、怒るにしても義父さん程の剣幕にはならなかった……でも、それがどうしたの?」
伊月を知る鈴鹿と沙紀の言葉に、螢は明るい表情で答える。
「道鏡が拾った血に、伊月さんが封印してた感情が、魂の欠片がそのまま残ってたのかも。で、それが響華丸の中に全部治まってたんじゃないかな?」
「だからか?司狼丸を救えたのは」
伊月の魂があるからこそ、司狼丸の凍りついた心の氷を溶かせたと見る江。
しかしそれは完全な正解ではなかった。
「ん~ん、それだけじゃないと思うよ。ね、響華丸」
話を振られた響華丸も螢の言っている事を理解出来ていたらしく、微笑で頷き、そのまま螢の説明を聞く。
「伊月さんが滅多に怒らなかった分だけ、司狼丸への愛が血の一滴一滴に沢山詰まってたの。司狼丸を馬鹿にする事への怒りとして。その血が響華丸の身体に組み込まれた事で、響華丸は、本来関係が無いようで、司狼丸が否定されると怒りが込み上げて来るようになった、螢はそう思うよ」
その説明に、鈴鹿はああ、と感嘆しながら空を見上げる。
「!そうだったんだ……あの時あたいをぶん殴っていたのは、響華丸というより、むしろ伊月だったんだね……母親代わりになってた伊月の事だ。弟が理不尽に酷い目に遭ってたら、そりゃああの剣幕になるね……」
「で、伊月の魂があったから、響華丸は司狼丸や時空童子の名前を覚えていた……けど、んな偶然が重なるのか?」
江は再び疑問を抱くが、それを解決する意味合いで葉樹と鎧禅が割って入る。
「有り得ますわ。生命の感情が生み出す力は、時として想像を絶する爆発力となる……今まで様々な時代、並行世界を監査して来た私達は、その法則を導いていますの」
「感情の一部を封印している者程、それを解き放つ時には、神では成し得ぬ奇跡を起こす事も有り得る。時空を遡るという技術は、この時代では神々ですら手にしていなかったものなのだからな。司狼丸の場合は極限状態が鍵となった。伊月の場合もその愛が切っ掛けだったのやもしれんな。霊魂も、自分に関係するもの、即ち血や遺品等を媒介としてこの世に留まる事が出来るからな」
「はぁ……」
何となく飲み込めた江は改めて響華丸を見る。
彼女は何処をどう見ても、普通の少女だ。
自分を理解し、冷静に物事を考えられる、立派な戦士、隠忍である。
彼女が司狼丸を救えた事実を考えると、偶然ではなく必然なのかもしれない。
そんな考えが頭の中に浮かんでいた。
「今思えば、並行世界へ飛ぶ力は、道鏡が望んで発現したものではなく、伊月が望んだ事だと思えるわ」
江だけでなく、この場にいる誰もが抱いている疑問に応える意味合いでそう話す響華丸の言葉に重みを感じた沙紀と鈴鹿は小さく疑問の声を上げる。
道鏡の、自分の生まれた世界において邪魔した隠忍を殺したいという望みに反応して、その力が目覚めたのならば分かる。
だが並行世界と接点の無い伊月が望んだというのは、どういう事なのだろうか。
答えは、響華丸が続ける形で出してくれた。
「司狼丸は独りだった……多くのものを失って、その中でも姉の伊月が一番の望みだったの。そしてその想いが伊月の魂に、私の血を通じて届いた。だから伊月はこう思ったに違いないわ。『司狼丸を助けたい。その為には、彼に、独りじゃない事をしっかりと伝えられる力、光が必要……でも、この世界にそれは見つからない……』とね……」
「あ、そう考えると納得~。司狼丸が時空童子になったのも、『自分の無くしたものを取り戻したい。皆の未来を守りたい』って気持ちから力を開花させたんだと思う。で、未来や過去へ飛べるようになったんだろうな」
螢に続き、江も思い出したかのように声を上げた。
「やっと辻褄(つじつま)が合ったぜ!司狼丸が力を目覚めさせた時、あいつは仲間を守る為に、自分が生きなきゃいけないって叫んでた。で、大通連だったか、その剣を自分の身体にぶっ刺して未来へ飛んだみてえだ。実際本当だけどな」
「……話を戻すと、伊月も私の中を流れる自分の血を通じて、『似て非なる世界から、司狼丸を救える光を、司狼丸を救える仲間を呼ばなくては』という気持ちを力に変えて、私が並行世界へ飛べるようにした、という事よ」
「伊月……」
伊月の想い、そして秘められた力が予想以上である事に感嘆の息を漏らす鈴鹿。
その一方で、響華丸は心の奥から湧き上がる温もりを確かめながら続ける。
「螢の言っていた心の暖かい光を、理不尽な苦しみに晒されている人に分け与える、それが、本来の隠忍の生き方だったのよ。私の、御琴と友達になりたいという気持ち、それは司狼丸のように周囲からの痛みで心が凍りついてしまった人を助けたいという、伊月から託された愛から生まれたものだったわ。そしてその愛は、司狼丸以外にも注がれなければならない」
「そうだね。そのポカポカの光を皆に分ける事が、世界を元気にする一番の方法……」
疑問が解けた事もあって、江達は響華丸の覚悟を改めて理解した。
彼女は迷わない、立ち止まらない、揺るがない。
だから、自分達も彼女をしっかりと支えて行こうとも誓うのであった。

響華丸に関する話が終わった所で、一呼吸入り、葉樹が切り出した。
「さて、次は私達ですわね……まず、鎧禅について。彼は時空の歪みの原因を探るべく、先遣としてこの世界に降りたのですが…」
「時空監査局の人って事だね。で、長くこの時代に居たから、螢には『進んだ時代の人かどうか』が分からなかった、そうなの?」
「左様。そしてわしはこの世界の住民を装い、そして運命を切り開ける者を探し求めていたのだ。歪みの原因が司狼丸にあった事、しかし世界を滅ぼそうとしていたのが道鏡であった事を既に突き止めた上でな」
その話に、やれやれと肩を竦めて葉樹は言う。
「だからですのね……突然通信が途絶えたのは。確かに特級犯罪者である道鏡の逮捕をするにしても、様々な力を取り込んだ彼の事、策略を張り巡らしていたから、迂闊に動けなかった、と」
「課長であっても、この事を話す際に敵に気取られてはなりませぬ故。しかし時空の歪みを修正出来る者として、響華丸達3人が自分の前に姿を見せ、彼女らならばあるいは、と考え、一つだけ試練を与え申しました」
試練とは、鎧禅自身の”犠牲”の事に他ならない。
事実、その直後に響華丸と鈴鹿は許し合い、最後は江の頭突き、そして仲直りという結果に落ち着いていた。
即ち、試練を乗り越えた事になったのである。
葉樹も、鎧禅が自爆した意味を捉えていた。
「成程……私と響華丸との戦いもまた、あなたの狙いと?」
「いえ。そちらは無闇に道鏡に自分の存命を知られぬ為の沈黙から生じた弊害です」
それを聞いて、葉樹は改めて理解した。
鎧禅というこの部下は、頭の切れは確かなのだが、自分ですら掴み所が見られない程の、奇抜な男である事を。
手の掛かる部分はあるものの、かゆい所に手が届くという点では益々頼れる男だとも。
「大体は響華丸が話した通りなのは分かりましたし、最初に葉樹さんと出会った時にある程度の話は見えました。でも、時空の歪みを修正出来る、というのはどういう事なのでしょうか?」
沙紀の質問に、待っていたとばかりに葉樹が説明する。
「時空監査条例第三条、『時空間転移を行う者の目的が、私利私欲ではなく、時空間の秩序を保つ為のものであると判明した場合、監査員はその者及び仲間への敵対行為を取り止めなければならない』。今回の件で、響華丸は確かに道鏡の部下だった存在ながらも、彼を阻止する事が判明しましたわ。つまり、彼女とその仲間は、道鏡が発端となった時空間の歪みを修正可能な者である事を、監査局が認めましたの」
「……司狼丸についてはどうなのでしょう?」
一番の気掛かりな事を沙紀が問いかけると、葉樹は小さな笑みで答えた。
「彼の場合、現在は封印状態ですので逮捕・保護が出来ませんが、もし響華丸の話した通りの状態であるならば、彼の罪は不問になりますわ。万一に備えて他の方々が動いているそうですけれども」
と、話が終わって葉樹と鎧禅は改めて本局に報告するとして転移し、響華丸達はそのまま一休みに入った。
誰もが安心と期待を胸に抱き、青空がその証拠と確信している。
時空童子としての肉体は鞍馬山に封印され、そこは凄まじい瘴気の為に近づけないものの、司狼丸の魂が救われているという事。
それは、彼が復活しても最悪の事態になる事は無いという確証であった。
五行軍発足から既に存在していた諸悪の根源である道鏡、彼の計画は、此処に来て初めて狂い始めている。
響華丸が彼の呪縛を打ち破っている以上、野望を完全に阻止出来るのは今より他は無い。
それらが彼女らの疲労回復を速めていた。

静かになった夜の村で、響華丸達は夜風に当たって気持ちを落ち着かせており、響華丸は鈴鹿と、江は弓弦と、螢は沙紀と組で、それぞれ家の前、裏の森、少し高い丘の上に居た。
「……改めて、先日はごめんなさい。あなたを一方的に責め立ててしまった事は、私の傲慢(ごうまん)である事に変わりは無いから……」
鈴鹿と並んで立っていた響華丸の、少し俯きながらのその言葉に、鈴鹿も一つ溜息を吐いて返す。
「しょっぱいねぇ……ま、それはお互い様だよ。あたいの方こそ母親らしくない女で、ごめんな。司狼丸にもキッチリ謝っておいたよ」
「鈴鹿……」
一つ気になった事があった響華丸。
司狼丸を殺した理由は、自分が最強でなくてはならないから、と話した鈴鹿。
あれが果たして建前か本音かを知る必要がある。
螢が真偽を見抜いたのは、鈴鹿の涙についてのみで、目的そのものの真偽は判明していないからだ。
それを察していたか、鈴鹿は笑みを浮かべて口を開く。
「……最強でありたかったのは、本当だよ。でも、その最強って意味を履き違えてたんだ、あたいはね。割り切る事も大切、腕っ節も大事、でも、一番大切なのは……折れない心なのさ」
「折れない心……」
「あたいは、自分が折れない心を持っていると思ってた。妖魔で、親子でも情け無用、弓弦の親を食った事を何とも思わない、そうした割り切りで生きてきた……でもね、天地丸、当然伊月の息子の方のね、そいつとの最初の戦いでボッキリ折れて、その時はやられちまった」
ありありと鈴鹿の脳裏に浮かび上がる過去。
その過去は、もはや以前のように笑い飛ばせるようなものではなくなっていた。
響華丸に殴られるまでずっと頭に響いていた、実の息子の泣き叫ぶ声は今はもう聞こえないが。
「それで、司狼丸の事を仲間から聞いた後、何年かして司狼丸が戻って来たのさ。時空童子として、な。その時あたいは、天地丸を打ち破って強くなったけれど、司狼丸が更に強くなった事で、あたいの中の妖魔の血が騒いじまった。弓弦の親を食った時みたいに、殺すって気持ちが湧き上がっちまって……」
「……生粋の妖魔故に、捨て切れなかったのね……」
理由が何であれ、今となっては責める意味等無い。
生き物は植物、動物を喰らって生き、それに感謝はすれど、過度の負い目を感じてはならない、という事を考えれば尚更だ。
だから、響華丸は静かに、何時もの落ち着いた表情で鈴鹿の話を聴き続ける。
「最強になる為には、時空童子を倒すしかない、そう考えて殺した。その途端だったよ。身体の中でジワジワと、痛みが広がったのは……それを他が知っていたとしても、あたいはあたいでありたかった。そして誰にも真意を知られないよう、世捨て人になろうとして……ようやっと世の中から自分を切り離せたと思った所で、あんたが来た」
「……私に殴られるまで、自分自身を偽っていた事にすら、気付かなかったという事かしら?」
もしそうでなければ、既に心を裸にしていても不思議ではない。
響華丸のその考えは当たっており、鈴鹿は頷いてから夜空を見上げる。
「現実の厳しさを教えるのも親の務めと思ってたけど……あんたが教えて、気づかせてくれたのさ、響華丸。それが思い上がりだって事に。いや、あたいは誰かに全部話して楽になりたかったんだ……そして、あたいの考えに、真っ向から違うって言ってくれるヤツを求めて……それがあんただったのさ。人間も妖魔も分かり合える、愛し合える。それが一番だって事を気づかせてくれた、あんた……」
鈴鹿はそう言いながら羨ましそうな表情をして響華丸の方を見た。
その視線を受け止めながらも、響華丸は首を小さく横に振る。
「……最初の頃、正確には、記憶を失って、そこから転身した時の頃はあなたと同じ考えだったわ。自分が人間ではない、妖魔、化け物だと理解した時、自分自身を知る上で人間達の村を、罵声を受けながら出て行くつもりだった。でも、それを人間達は引き留めたの。私が化け物だと知った上で……」
「……優しい奴等だねぇ。司狼丸達がそうした連中に恵まれていれば、あるいは……」
空を見上げながらそう鈴鹿は呟くも、すぐに響華丸が遮る。
「だからこそ、だったと思えるわ。人間も妖魔も、確かに姿は違うし力の差もあるけど、ただそれだけで、同じ生き物だって事を村の皆は割り切っていた。その気持ちが、私にも伝わっていたんだと、今なら思えるわ。同じ生き物である以上、分かり合えるのならしっかりと分かり合う必要がある。生まれや育ちに縛られず、生き方が大事。御琴も、私を敵と知った上で、私の事を知ろうとして、思い切り戦った……分かり合えると信じて、ね」
「分かり合えるってのは良いもんだね、本当に。あたいと人間の方の天地丸の時のように上手く行ったのは数えるくらいしかなかった」
「……私は、ううん、私だけじゃなく、司狼丸も一足飛びに現状を打破したかっただけなのかもしれないわね。けれども江が言っていたように、人間達が妖魔を、隠忍を受け入れるには、とてつもない時間が必要……それまでは、人間という皮を被って生きるか、隠れ里に住んで生きるしかないのかもしれない……どちらにしても、やる事は同じだけれどね」
さっぱりとした割り切りの出来る響華丸。
彼女が時折見せる笑顔を見てみると、やはり身体に伊月の血が流れているだけにと、親近感が湧いてしまう。
そして何より、鈴鹿が抱いたのが、一言で言えばこうである。
腕っ節においては分からないが、精神面では今の段階では響華丸には勝てない。
響華丸は周囲の環境の良さもあったのかもしれないが、成すべき事を冷静に見詰め、戸惑いと迷いを引き摺らず、しかし殺戮を手段とした行動に出ていない。
だが、嫉妬を抱こうにも抱けなかった。
本当の意味で、鈴鹿の妖魔としての心が折れてしまっていたから。
それに、負けたのは今であって、これからは自分がその負け分を取り返せば良いだけ。
故に、鈴鹿は笑う。
真に強くなろう、真に最強になろうという前向きな意志と共に。
「あたいも、何時までもグジグジしてらんないね。じゃあ、寝るか」
「ええ。まだ全てが終わった訳ではないから」
先の、鎧禅の寺では良く眠れなかったが、今夜は気持ち良く寝れる。
片付けるべき問題の一つを、良い形で片付けられたのだし、それに付随する問題も丸く収まったのだから。
響華丸も鈴鹿も、そう考えて家の中へと入った。

同じ頃、江と弓弦は虫の声を聴きながら、互いに向かい合った状態で目を閉じていた。
2人の脳裏では今、激しい戦いが繰り広げられている。
手の内の読み合い、そして術や武器を駆使した戦い、それらは実際に行っているものではなく、相手の持つ気を感じ取り、自分の頭の中で想像、戦闘を脳内で行うという仮想的なものだ。
冷や汗が双方の顔に流れる中、どちらからともなく目を開いて一息吐いた所で、戦いは終わる。
「魔喰いの弓とは、本当に物騒で厄介な代物だぜ……大きく避けたりしねぇと、掠っただけで焙(あぶ)り焼きだ」
「お前の方も、鱗を使った撹乱(かくらん)がなかなかのものだな。魔喰いの矢の特性を利用して、軌道を逸らすとは……」
江がどっかりと胡座を掻いて笑う中、弓弦も微笑と共に汗を拭う。
「何より、殺気が抑えられてるじゃあねえか。あんた、元々はあたしら妖魔を敵としてたんだろ?」
「ああ。親の仇だからな。今も許すつもりはない」
笑みを消した弓弦の言葉に、江も真顔になっていた。
「……鈴鹿か?仇は」
「何故分かった?」
「鈴鹿の名前を最初に出した時、あんた眉間に皺を寄せてたろ?そん時、ほんの一瞬だけ殺気が雷みてぇに一気に出て来たのを感じたんだ。だからさ」
その推理に、流石と唸る弓弦。
不思議と江に対しては嫌悪感を感じられなかった。
「……沙紀に、色々と教えられてな……本当ならば彼女も突き放すはずだったが、それでもなお沙紀は付いて来た。私の師の教えに真っ直ぐ従っていたのだ。もっとも、彼女が五行軍と戦った理由は、生きる為だったがな」
「正しいぜ、それもな。自分が死んだら無意味、そういうもんだよ、戦いってのは。戦いそのものに、正しいもクソもねぇ。自分の信じたいものを、貫きたいものを信じる、それで良い、だろ?」
「単純だな、お前は」
「あんたの半分も生きてねぇからな。で、愚問だけどさ、仇を討たない理由は何だ?」
愚問と断ったその問いに答える事は、弓弦からすれば容易いものだった。
もっとも、それは沙紀の存在あったればこそ、なのだが。
「無意味だと知ったからだ。鈴鹿を殺しても、父や母は帰って来ない。世の中が良くなる訳ではない……それと、先のお前の推理について、一つ言っておきたい事がある」
「お?」
真面目な性格故の表情で区切る弓弦の話、それは江の予想以上のものだ。
「私の放った殺気、あれは確かに鈴鹿に対しての怒りだが、私の親を食った事ではなく、私や沙紀を、そして実の息子であるはずの司狼丸を欺いていた事に対して、だ。司狼丸を殺すと奴が言い出した時、その真実を知ったのだ」
今でもそう言い切れるという事は、殺しはしないが、一生弓弦は鈴鹿を許す事は無い、という事でもある。
それを受け入れた上で、江は間を置いてから口を開いた。
「不器用な姉ちゃんだなぁ、鈴鹿は。嫌われたり憎まれる役を買いやがって。息子は寂しがり屋で泣き虫、母親は意地っ張りで泣き虫。罪な親子だぜ」
「……司狼丸とも会ったのか?」
「ああ。実はな、小さい頃、斬地張の一員だった頃に魔具作りの名人ん所を攻めたんだ。そこに司狼丸と鈴鹿、後一人ガキ、多分そいつが晴明だろう、その3人が居た。で、天地丸と鈴鹿や司狼丸のやりとりを遠目で見たのさ。親を知らないあたしでも、親子の理想の形ってのは分かる。色々と見てきたからな。親は子を導くけど、涙に応えてやれるのが理想……キツイ事ばっか言われて逃げ場を失えば、抑え切れねぇ感情で周りをぶっ壊す……それをどうにかしてやるのも、戦う奴の器量じゃねえかって思った。そして、弱い者苛めが嫌になって、斬地張を出ていったのさ」
この男も自分と似ている。
己のその時の立場に疑問を感じ、その答えとして斬地張から出たという行動は、自分が五行軍から抜けた事と良く似ていた。
弓弦はそう感じ取り、同時に江と自分との違いを見出す。
憎しみに囚われず、涙に応えられるような存在。
それは妖魔への復讐心を抱く自分とは違う、隠忍故の心だと思いながら。
「……優しい男だな、お前は」
再び笑みの戻ってきた弓弦の言葉に、江はカラカラと笑い声を上げた。
「優しい、と来たか。単に弱い者苛めと汚ぇやり方が大っ嫌いなだけさ。そういうあんたも優しいと思うぜ」
「お前ほどでは無い」
そう言葉を交わした所で、2人は先の疲労が回復したと判断し、村の方へと戻っていった。

満点の星空の下、螢と沙紀は星を見上げながら草原の上に腰を下ろしていた。
「綺麗なお星様~。螢達のお喋りを、一緒に聴いててくれるんだね~」
「ふふ、そうみたい。本当、こんなに素敵な星空を見るのは、久し振りだわ」
見るだけで、気持ちが落ち着いてしまう、そんな夜の空。
ただ、沙紀は都で聞いた話を思い出した途端、顔が俯き始める。
「……聞いたわ。あなたのお母さんの事……」
螢も視線を星空から前方へと下ろし、真顔で言う。
「何時か、そうなる日が来るのは分かってた。都の人達は何て話してたの?」
「妖魔に襲われて、貴方を守る為に死んだ、って……」
「そういう事に、螢がしておいたの。でないと、皆の笑顔が永遠に消えちゃうから。だから、思い切って嘘を吐いたんだ」
「嘘?」
螢の言葉に、沙紀は最初どういう事か分からなかったが、段々とその意味が分かるにつれて、全身が冷え始めるのを感じていた。
もしかしたら、螢の母親を”実際に殺した”のは……
「響華丸も江も居合わせてて、でも2人共皆に言わない事にしたの。螢が、お母さんを殺した事」
「!?」
やはり、予想はしていた。
そうであって欲しくないと願っていた。
だが、事実を螢自身が打ち明けてしまった。
沙紀はその現実に直面した途端に、自分の全身を流れる血が固まったような感覚を覚え、全身が震える。
自分の事でありながら他人事のような言い回しのようで、しかしそれは感情欠落故の、彼女らしい言い方ではあるのだが、やはり信じられなかった。
既に許し合えたとはいえ、司狼丸が鈴鹿に殺されたという過去を思うと、それが茨の如く沙紀の心に絡みつき、痛みを与える。
「道鏡の部下の、影屍っておじさんが使った術で、お母さんは死ぬまで人を襲うようになっちゃったの。お母さんは、人を殺し続けてしまう呪いに苦しんでて、助けを求めてた。だから螢は助けるしか、殺すしかなかった。そうしないと、沢山の人の笑顔が消えちゃうから……」
「螢……」
掛ける言葉がそれしか見当たらない沙紀、そして前へ進み続けるように話を続ける螢。
「そんな時も、お父さんが死んだ時と同じで、螢は泣けなかった。怒れなかった……ああいう時、多くの人は何も出来ずに動けなくなったり、怒って自分を見失ったりするんだよね?でも、螢は……躊躇わなかった。やっぱり、泣けないから、怒れないからだと思う……」
螢は、喜々として誰かの命を奪ったりはしない。
しかし愛する者との戦いを、迷いながら行うという気配が無かったというのは本人の口から明らかだった。
彼女の一番の寂しさは、その”他の人とは違う感情の持ち主”である事だ。
人間、妖魔という関係ではなく、怒りと哀しみを持たない、そうした感情を得られない為に、他の人達とは僅かにズレ、距離感があるという事を、螢自身が自覚している。
たとえ、周りの人達が螢に良くしてくれているとしても。
だが、その代わりとして誰かの怒りや哀しみに敏感で、その感性に救われた人がいるというのも事実だ。
そう感じた途端、沙紀は身体の震えが治まった所で螢を横から優しく抱き始めた。
「ふえ?」
「……誰かの感情を感じ取れるなら、誰かの怒り、哀しみを理解出来るなら、それでも良いと思うわ。そうした痛みを理解出来るから、人も妖魔も前に進める……鈴鹿さんの心の氷を溶かす切っ掛けも、あなたなんでしょう?」
不意の温もりに面食らった螢も、安心感が湧いたのか一呼吸置いて頷く。
「……うん。響華丸を止めようとした時、鈴鹿さん、凄く泣いてた。弓弦さんの親を食べた事にも、司狼丸を殺した事にも、皆に嘘吐いて強がっていた事にも、後悔して、ごめんなさい、ごめんなさいって何度も……」
螢が見抜いていた鈴鹿の本心に、今此処で気づいた沙紀は再び星空を見上げる。
「……演技じゃ、なかったのかもね……あの時弓弦に命乞いしたのは……」
「自分でどうする事も出来なかった事があったから、その悔しさで一杯だったんだと思う」
「地獄門が開いた時の事、か……あの後、独りでに地獄門は閉まったみたいだけど……でもその後の災厄でこの世界が……」
螢の母の件から落ち着いた沙紀の言葉を繋ぐように、螢も沙紀の方を見て続ける。
「江が言うには、全部道鏡と大凶星八将神がやった事だったみたい。それを全部、司狼丸の所為にした事で、司狼丸の心からポカポカの心の光が無くなったんだと思う。ん~ん、他の隠忍達も、妖魔を否定する人達に苛められて、心の光が消えていっちゃった。お母さんも、そうなりかけてて、お父さんが助けてくれたの」
「……外道丸も、もう少し早く心の光を理解していたら……」
一番の悔いはと問われたならば、外道丸が人間達への憎悪を爆発させた事、それを自分が止められなかった事と迷わず答えたであろう。
だが、悔いても、憎んでも何も解決しないと理解した上で、沙紀は決意していた。
死んでしまった彼等の分も、自分達が生きていくという事を。
その思いが報われつつあるという真実としてか、螢がそこで紡ぐ。
「でも、全部の人間がひどい訳じゃないって事を、響華丸が示してくれたんだ。心の光は強弱はあるけど、皆の中にちゃんとある。それを分かち合う事が出来れば、きっと人間も妖魔も仲良くなれる。螢はそう信じてるの。沙紀ちゃんも、そのポカポカを弓弦さんに分けれたおかげで、今の2人が居るんじゃないのかなあ」
螢も声に明るさが戻っており、沙紀も気持ちが楽になって来たか、笑顔が戻ってきた。
「ありがと……そうね。何時かきっと、皆仲良く暮らせる。そのためにも、頑張らなきゃね。司狼丸達の分も……司狼丸が安心して、笑顔で帰って来れる事、私達が笑顔で迎えられる事を目指して」
「うん。螢も、響華丸達の力になって、道鏡の悪い事を止めさせなくちゃ。帰ろ~」
話に区切りが付き、もう遅くなったと感じたか、螢はすっくと立ち上がり、沙紀の手を引っ張って丘を降りようとする。
「あははは、本当に相変わらずのせっかちさんね、螢は」
「時間は待ってくれないよ~」
和かな2人は、そのままクスクス笑いつつ村の方へと駆けて行った。

それから数日後。
休息の後、道鏡らを探すべくあちこちを動いていた響華丸達。
収穫も異変も今日まで起きず、一先ず情報整理しようと隠忍の村に戻ってきたのだが、里の入口に入った途端、突然青空が赤くなり始め、所々暗雲に包まれながら雷鳴が鳴り響いた。
「!?これは、馬鹿な……!」
「この悪寒……地獄門が開いた時と同じ……いや、それ以上だよ!」
「でも、司狼丸の力で八将神は倒されたはず……一体何が……?!」
弓弦が驚愕し、鈴鹿も寒気を覚える中、沙紀もあってはならないと信じていた邪悪な雰囲気に戸惑いを感じ取る。
里の子供達が怯え、母親達もそれを宥めながら震える中、螢が上空のある一点の異変を見て指差す。
そこ太陽の代わりと言わんばかりに、赤黒い球のようなものが空に浮かんでおり、禍々しい輝きを放っているのが見えた。
「あ、あれ!あそこに物凄い勢いで邪悪な、どす黒い気が集まってる!」
江も只ならない気を感じて僅かに全身が震える。
「鞍馬山での邪気とどっこい、いや桁外れだぞ!」
「!!あの方角は……富士山!?」
弓弦の言うように、富士山の上空にその球が浮かんでいた。
そしてその意味を、一番に理解したのは響華丸だ。
「あれは地獄門だわ……道鏡は、地獄門と一体化して、そのまま地獄、この世界へと自分を広げていくつもりよ」
「自分を広げる!?つまり、この世界全部があいつになっちまうってのか!?」
「ええ。この世界を自分と融合させる事で人間や妖魔を、全ての生き物を滅ぼすだけじゃなく、並行世界をも飲み込むつもりだわ……」
冷や汗が絶えない中、響華丸はもう一つの事実に気づき、全員に聞こえるように言う。
「急ぐわ。彼の放つ邪気にあてられて、獰猛(どうもう)な妖魔や獣達が暴れているはず!守りの弱い人里を、人間達を救わないと!」
鈴鹿は舌打ちして武器を構える。
「……もう一暴れしないとダメって事かい!なら、分担して動くよ!あたいと沙紀、弓弦はこの里を守る!他の退魔師達もこの異常な様子に気づいているから、響華丸、あんたは江や螢と一緒に世話になった村とかへ助けに行きな!退魔師の足が間に合わない場所だと尚更だろ?」
「分かったわ。飛べば遠い場所でも数十分で辿り着けるはず」
そう言いながら響華丸が転身すると、江と螢はそれぞれ小さな蛇及びネズミの姿に変化し、響華丸の肩に飛び移る。
変化の術でも、小動物に変わる術は初めてとばかりに沙紀は目を丸くして声を上げた。
「!?そんな変化の術を身に付けてたんだ……」
「まあ、潜伏とか小さい場所への探索の為に我流で覚えたんだけどな。螢も同じ事考えてたのか」
「うん。流石に2人だと、転身した響華丸でもちょっと重いかな~っと思って独学で~」
「助かるわ、2人共。さあ、行くわよ!」
準備は万全とばかりに翼を羽ばたかせた響華丸は江、螢を肩に乗せたまま飛翔し、そのまま自分の過ごした村の方へと飛んで行く。
それを見送る鈴鹿達も、顔を合わせて頷くと、村の若者達と共に行動に移った。

森に囲まれた村。
そこでは既に暴走した妖魔と村人達との戦いが始まっていた。
「此処を落とさせるな!響華丸が帰ってくる場所だからな!」
「分かってるよ、父ちゃん!」
子供も手にした農具で近づく妖魔や獣達を打ち払い、弓矢等で空からの妖魔達を射抜いていく。
「ウガァァッ!!」
しかしその防衛線を打ち破るように、地中からも妖魔が飛び出して来ており、それへの対応に次々と人が回されていく。
結果として数の面で押されていった村人達だが、誰もが恐怖と面向かう意味合いで果敢に迎撃していた。
そうした守りを掻い潜るように妖魔の一匹が子供を狙って飛び掛かり、子供もそれに気付いて身構えたその時。
上空から閃光が走ったかと思うと、3体の異形が降り立ち、次々と立ち塞がる妖魔を打ち破って行った。
転身した響華丸達だ。
「勢いで転身しちまったが、このまま全部叩き潰すぜ!」
「はいは~い!子供達のお守りと怪我人の手当はお任せ~。江は地面の方をお願~い」
「おうよ!響華丸、あんたは空のうるさい奴らを蹴散らしてくれ!」
「ええ。2人共、気を付けてね」
2人は響華丸の言葉を受けて散開し、江は地面を潜っては地中の妖魔を引きずり出して切り裂き、螢は火の玉を無数飛ばして近づく妖魔達を焼き払い、弾幕を潜った者へは手刀と蹴りの連撃を見舞う。
響華丸は空を駆け、その風圧で飛ぶ妖魔を切り裂くが、一際大きな妖魔には右手に呼び出した光の剣で切り裂いていく。
数十分後、妖魔の一団が全滅した所で3人は村の入口で合流したのだが、そこへ村人達の声が掛けられた。
「帰って来たんだな、響華丸!」
「その人達、お姉ちゃんのお友達?ありがとー!」
「こんな状況で、本当に助かるぜ、響華丸が戻って来てくれてよ!」
暖かな声に、響華丸も笑顔で返しつつも、すぐに表情を引き締め、視線を敵の妖魔へと向ける。
「ただいま、皆。もう少し落ち着いた時に会いたかったけれどね」
響華丸からすれば聞き慣れた感謝の言葉は、江からすればくすぐったいものだったらしく、妖魔の顔のまま苦笑して村人達を見る。
「普通なら化け物呼ばわりするはずが、この対応とは……ったく、こいつらの心は何処まで広いんだか」
「何処までも広いさ。この戦いは妖魔とか人間とかは関係無い。生きている者達全員が、地獄とか滅びとかに打ち勝つ為の戦いなんだ。そうだろ?」
響華丸の到着で意気上がる村人達。
怪我人は螢の術で手当を受けており、螢は子供達と共に近づく妖魔達を迎撃しながら、時折笑顔を見せる。
「この村の人達は、皆ポカポカだね~。螢や江の、妖魔の姿を見ても、怖がってないし」
「あのお兄ちゃんは響華丸姉ちゃんの次にカッコイイし、お姉ちゃんも可愛いから」
「どもども~。南都で幸せを届けた螢の、地獄払いの舞をとくとご覧あれ~」
鮮やかな舞は次々と敵妖魔を切り裂き、村人達を鼓舞させる。
それに負けじと江も自分より大きな妖魔を鱗と水の弾丸による弾幕で蜂の巣にしながら、両腕を鞭のように振り回してズタズタにしていく。
「さあ、目覚ましの攻撃をタップリと味わいなよ!あたしを止めようとする奴等は大歓迎だぜぇっ!!」
その豪語に呼応して、次々と地上の妖魔は江に集まって来る。
「ついて来いザコ共!!」
ある程度引き寄せた所で江の両腕が唸りを上げ、妖魔達を薙ぎ倒して行く。
その上空を、光輝きながら響華丸が無数の妖魔を撃ち落としていた。
「破邪光弾(はじゃこうだん)……行って!」
伊月の記憶から見出した、彼の父が得意としていた術。
それを響華丸は、光の矢を放つ十数の球という形で再現させ、迎え撃つ。
そうした攻撃が続いて更に数十分、妖魔達の数はまだ増える一方だった。
「ん~……このままだと、道鏡の所には何時まで経っても行けれないね~」
「区切りで休めるにしても、流石に世界が地獄に変わろうとしているから、簡単には行かせねぇって事か!」
「突破するしかないみたいね。そして一気に地獄門を叩く……行く方法はあるわ」
一旦地上に降りた響華丸の横に江と螢が立った所で、3人の目の前に光の柱が降りた。
中からは葉樹と鎧禅が姿を見せており、2人の姿が完全に見えた所で柱はゆっくりと消える。
「此処だけが唯一孤立した村、ですわね。またしても地獄門が開くとは、道鏡は紛れも無く特級犯罪者……無視出来ませんわ」
「わしらも加勢するぞ、響華丸達!」
「時空監査条例第三条補則、『場合によっては、時空の歪みを修正する者達に対して、武力面での協力も許される』。それに従って、ですわ」
問われるよりも前にそう説明する葉樹。
「おお、あなた方も!」
村人達はその増援も響華丸の知り合いと認識し、受け入れている。
その態度を受けて、クスリと葉樹は笑いながら響華丸を見た。
「不思議なものですわね……響華丸の出現で、此処まで人間と妖魔との間の溝が埋まろうとは……さあ、私と鎧禅が此処を守りますわ。あなた方3人は地獄門へ向かい、道鏡を打ち倒すのですわ!」
「分かったわ、葉樹。あなた達も無理の無いように……」
「良し!一気に大将首だ!!」
「頑張ろ~!」
後顧(こうこ)の憂(うれ)いは無しと見て、響華丸達はそのまま空を飛んで富士山上空へと向かった。
それを見届けた所で、葉樹は細身の剣を抜き、鎧禅は錫杖を手にして妖魔の群れと相対する。
「……父上、あなたは人類を救うという、理想を追い求めたが故の過ちを犯してしまいましたわね……ならば、それを教訓としたこの葉樹の戦い、此処に示しますわ!」
「さあて、この世界でのわしの最後の大仕事と行かなくては!」
「皆、この人達に後れを取るな!」
「「おー!!」」
村人達も一丸となって妖魔達に向かって行った。

富士山上空に浮かぶ赤黒い球体=地獄門。
そこへ真っ直ぐ、響華丸達は向かっていた。
行く手を阻む妖魔達は彼女の攻撃で蹴散らされていくが、球体からも黒い槍のようなものが放たれており、それらを掻い潜りながらの強行突破である。
「しっかり掴まってて……3人の力で、球体の、地獄門の内部へ突入するわ!」
「任せろ!」
「お父さん、お母さん……ちょっとだけ螢達に力を貸して……」
響華丸だけでなく、変化していた江と螢の身体が光り輝き、3人は一つの光の矢となって地獄門へ飛ぶ。
そして砕けるような音と共に結界のようなものが破れ、そのまま地獄門の入口を突破した。

地獄門の内部、正確には地獄そのものなのだが、そこは正しく、この世のものではなかった。
転身を解いた響華丸達が降り立ったその地面は湿り気があり、空気も瘴気が混じっていて普通の人間は即死してもおかしくない程のもの。
響華丸達が平気なのは、隠忍は隠忍でも、心を強く保っている隠忍だからなのだろう。
うねうねと動く青と赤紫の斑(まだら)模様の空、それと同じ色合いの壁や床もやはり生き物のように蠢(うごめ)いている。
そんな不気味な空間を見渡しながら螢は周辺の敵の気配を探る。
「此処が、道鏡のお腹の中って事だね」
「で、その心臓に当たる場所に、道鏡の本体が居るんだな……?闇牙や影屍、でもって配下の妖魔やら亡者と一緒に」
「そのようね。確かに私達を倒すには打ってつけ。でも、倒されるつもりは無いわ。さて……本当はこれ、飛ぶ前に沙紀達の村で2人に言っておきたかったけれど……」
と、前へ歩こうとした江と螢を呼び止める形で響華丸は続ける。
「……私の、自分自身の過去を知る為の旅から始まった、この戦いに付き合ってくれてありがとう。あなた達2人も、御琴と同じ、大切な友達よ。仲間であると同時に、ね」
素直な気持ち、それを伝えたかった。
本来、確実に交わる訳では無かったはずの仲間。
江も螢も、知識や心の面で自分を支えてくれた。
だから、そんな2人に、今此処で、改めて感謝したい。
そんな響華丸の気持ちは狙い違わず2人に伝わっていた。
「……へっ。何を言い出すかと思えば、当然な事言いやがって。ま、最後まで案内するぜ。こんな地獄の奥深くじゃなく、良い未来への道をな!」
「えへへ、お友達って呼ばれると気持ち良い~♪螢も、2人の役に立てて嬉しいよ~。だから、その嬉しいを長く続かせる為に、もっと頑張るね~」
2人が笑顔でそう言うので、響華丸も小さく笑う。
「緊張感がおかげで解れたわ。さあ、これが最後の決戦よ……!誰一人欠ける事無く、全員で生きて帰りましょう!私達を待っている人達の所へ!」
「おうよ!地獄の奴等相手って聞いて、気合が入るぜ!!」
「地獄で苦しんでいる人達に、浄化の幸せをお届け~!」
地獄の瘴気が辺りを包む中、それを吹き飛ばすように、心の光を照らす3人は前へ、赤紫の大地の果てへ続く道を歩き出した。




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あとがき
色々と判明した事実、それらを整理しまして決戦前という今回にしました。
司狼丸が時空を飛ぶ力を持つのであれば、伊月もそれに似た力を持つ、というのは姉弟という設定を考えて組み込みました。
ONIシリーズで良く見られた、人間達の隠忍に対する恐怖というものは無いという展開は、『妖魔も人間も同じ生き物』という考えが定着していたから、という理由で行いました。
しかし今回は本格的に日本全土が地獄になるか否かという状態にし、最終決戦に相応しい舞台作りに。

次回が決戦の時!ご期待を!!

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