ONIの里

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隠忍伝説(サイドストーリー)

ONIΩ ~希望紡ぐ仔らよ~ 

桃龍斎さん 作

最終話 希望紡ぐ仔らよ

全ての世界で、共通したある現象が起きていた。
それは、青空に一箇所だけ暗雲が立ち込めており、紫色の雷が暗雲の内外を暴れ回るかのように光っている。
誰もがその光景を見詰める中、一部の者達はこう考えていた。
これは、自分達と同じように世の為に戦う戦士達が、邪悪なる者と戦っている事を示しているのだ、と。
琥金丸の世界では弥生、常葉丸と静那、そしてリカルドが。
天地丸や音鬼丸、御琴の世界では高野丸、秘女乃、砦角、茨鬼、琴音、妖奇老が。
沙紀や江、螢、響華丸の世界では鈴鹿、弓弦、晴明、もう一人の天地丸、そして響華丸の村の人々が。
それぞれの大切な仲間、家族の無事を祈り、そして生還を信じていた。

朱羅丸の世界でも、それは同じだった。
青緑色の長い髪をした、白い衣姿の少女は、星形の黒い髪をした小さな子供と共に空を見上げ、こう呟く。
「あそこで、朱羅丸さんが戦っている……」
「え?何だって?」
「……ううん、何でもないわ」
別な場所では、狼のように銀髪の一部を逆立てている若者が空を睨んでいたが、彼の後ろにある小さな家から一人、猫耳のような赤毛をしたくノ一が飛び出して来る。
「何か、ヤバイことが起きてそうだね……」
「!?もう、良いのか?」
「まあね。で、あたい達も行くかい?」
くノ一の提案に、別の方角からゆっくりと、法師のような巨漢が姿を見せながら答えた。
「その必要はござらぬよ。朱羅丸殿ならば、そしてその仲間達ならばきっと、戦いに打ち勝ち、戻って来るはずでござる」
「……そうだね」
思い留まるくノ一はそう言って空を見詰めていた。

時空監査局でも、異変を察知していたが、もう一つの異変が鎧禅の耳に届く。
「鎧禅さん、―――番のONIの文明発祥の星にて、複数の時空間移動による降下が確認されました。如何致しますか?」
「……恐らく、全てが終わった後の復興に移っているのであろう。そちらは様子を見ておこう。今は、最悪の事態に備えて待機だ」
「はっ!」
自分の上司も赴いている戦いは、過去最大の規模になっているが、決して絶望的なものではない。
そう鎧禅は考えつつ、目の前の事態収拾に向かった。

三世伝承院では、信長が、そしてもう2人の人物が空の歪みを見据えていた。
片方は緑色の髪をした山伏風の衣服を纏う少女で、もう片方は髪を後頭部辺りで上に纏めた日焼け肌の男性である。
「もうすぐ、全てに決着がつくな……勝てると思うか?」
「きっと勝ちます。北斗丸さん達だけでなく、数多くの人達が力を結集しているのならば、きっと……」
「この勝負で、人間達がどうなるって訳じゃあないが、それでも負けられんぜよ。大和丸達……絶対に勝ってくれ……」
知らぬ者は知らず、事態を知る者はしっかりと見守り、勝利を信じる。
自分達の未来を、戦士達に託して……


天地丸と音鬼丸、琥金丸は魔王に向けて転身しながら駆け、それぞれの拳を繰り出す。
それを魔王は前方に展開した結界で防ぎ、続けて6本の腕で叩き落とそうとする。
だが、その魔王の肩に向けて伽羅が横へ回り込みながら矢を放ち、転身していたミルドが反対方向から炎の飛礫を飛ばした事で攻撃の手が止まる。
「ぐおおぉぉぉっ!!」
魔王が吼えると共に全身から邪気が漏れ出し、弾丸となって天地丸達目掛けて飛ぶ。
「撃ち落とせるだけ、撃ち落とす!!」
邪気の弾丸も伽羅の弓で撃ち落とした事で弾幕が薄まり、音鬼丸が先頭に立って魔王の結界に何発も拳を叩き込んだ。
「うおぉぉぉっ!!」
鋭さと重さ、そして速さを併せ持った毘刹童子の拳は、たとえ手甲が砕けて拳が傷ついても止まらず、結界に亀裂を作り上げる。
その亀裂が修復されようとしたところを、ミルドが両手から雷撃を放つ事で抑え込み、更に彼女自身の繰り出した飛び蹴りが亀裂を拡大させた。
「もう一撃、行くわよ」
静かな言葉と共に空中で疾走したミルドは両手から伸びる爪からカマイタチを発して魔王の6本の腕を止めに入る。
「此処だ!」
結界も6本の腕も止められている今、その気持ちで飛翔した音鬼丸は魔王の下半身に拳を突き刺し、その衝撃を全身にまで行き渡らせる。
底無しの力を持つとされる鬼神の一撃は、魔王の身体を大きくよろめかせるが、怒りの炎も燃え上がらせたらしく、6本の腕から雷撃と炎、そして邪気が一斉に放出された。
「「ぐぅぅっ!!」」
音鬼丸とミルドがそれらをまともに受けた事で吹き飛ばされかけるが、その入れ替わりに天地丸が魔王の鳩尾に左拳を叩きつけ、右拳に無限の威力を引き出す雷撃を纏わせる。
魔封童子の名に違わぬその一撃は魔王の胸部に突き刺さると、内外からの雷撃が魔王の全身を焼き焦がした。
「がああぁぁっ!!」
魔王の咆哮と共に、6本の腕が光を超える速さで振り回され、それらが天地丸の全身に撃ち込まれていく。
「なんのこれしき!!」
全身に力を込めて守りの構えを取っていた天地丸も、そう吼える程の勢いに恥じず、負傷を最小限に抑えていた。
鎧にヒビが入り、身体が青白い血に滲んでも、それ以上は深くならず、まるで鋼鉄の像のように魔王の拳に耐える。
そして攻撃が一瞬だけ遅くなったのを逃さず、伽羅は普通の矢ではなく、法術で作った光の矢を魔王の目に向けて放つと、その矢は真っ直ぐ魔王の目を射抜き、邪気を霧散させる。
「「琥金丸!!」」
「おう!!」
最後は、雷皇童子の疾風と電撃の拳で、その二つが魔王の顔面に炸裂した。
「おのれぇぇっ!!半妖共があぁぁっ!!」
魔王は殴られた状態からすぐに体勢を立て直し、口から凄まじい瘴気を吐きかける。
それはONIの身体を苛むものであり、まともに浴びた琥金丸だけでなく、離れていた天地丸や音鬼丸、ミルドの身体に錆のような傷を作り上げ、動きを封じる。
だが、此処に一人だけ、ONIならざる伽羅だけは瘴気の中で魔王の前に駆け込みつつ、開かれた口に光の矢を撃ち込んだ。
「ぐっ!?あぎゃあぁっ!!」
「まだ!次ぃっ!!」
1本ではなく、数本纏めて何度も矢を放つ伽羅。
まるで流星雨を思わせるその射撃で魔王の全身が光の矢に覆われ、その部分を小さく焼き焦がす。
矢が消えると魔王はすぐに伽羅目掛けて拳を突き出すが、天地丸と音鬼丸、琥金丸が拳の勢いを止め、ミルドがその間に伽羅を抱えて横へ飛ぶ。
「援護、感謝するわ。引き続きお願いね」
「は、はい!」
ミルドが伽羅を上へ放り投げると、伽羅も少し戸惑いつつ、上空からの射撃を行う。
それらが魔王の邪気の弾丸を止めている間に、ミルドが翼を巨大化させて帯のように伸ばし、魔王の腕を全て封じる。
「行くぞ、2人共!」
「はい!」「分かったぜ!!」
今こそ決めるべし。
天地丸を先頭に、3人は魔王の拳の上に飛び乗り、一気にその腕の上を駆け抜け、間合いと見た所で大きく翔ぶ。
「「うおおぉぉぉっ!!」」
風と雷、そして光を伴った3つの拳。
それらは左右と正面の鬼面にそれぞれ突き刺さり、衝撃を全身に行き渡らせて内側から大爆発を引き起こした。
「わ、我が敗れる等、そんなはずがぁーーー!!」
邪気を浄化される中、魔王は倒れると同時に石像となって砕け散り、その欠片も完全に消滅していった。

魔蛇は大和丸達の剣の攻撃を受け続けていたが、左の髭を生やした赤い蛇が雄叫びを上げると、邪悪な霧が魔蛇の全身を包み込んでそれまで出来た傷を全て塞いでいく。
それ故に大和丸は赤の蛇を斬ろうとするが、攻撃を喰らっても全く傷がつく気配が無い。
しかし、そこへ紛れるように冬夜が放った炎の術を浴びると、僅かながら火傷が入り、十郎太の冷気でも同じ規模で凍傷が入る。
それを見て、夏芽は一つ頷いてスクワントの方を見、スクワントも彼女に秘策有りと見て相槌を打つ。
「皆、もう片方をお願い!こっちはあたしとスクワントさんで倒すわ!」
「任せた!」
「頼むぞ、2人共!」
「夏芽の援護をしっかりな、スクワント!」
「元より承知!」
大和丸と十郎太、冬夜はもう片方の、金の鬣を生やした青い蛇に向けて斬り掛かる。
そちらは剣による攻撃を普通に受けており、その代わりに術はまるで役に立たず、弾かれるだけである事は最初に攻撃を仕掛けた段階で確かめていた。
「一気に叩き込むぜ!」
「ああ!雷神衝波!!」
最初に飛翔した十郎太が剣を青の蛇の胴に突き立て、そこから光の力を流し込む。
青の蛇は苦悶の吐息を吐きながらも、口から冷気の飛礫を吐きかけ、全身から電流を放って十郎太を吹き飛ばすが、彼女を大和丸が受け止め、次に冬夜が大きく剣を振りかぶる。
「奥義!一文字ぃぃっ!!」
横に振り抜かれた剣は光の軌跡を生んで青の蛇の身体に沿った深い傷を刻む。
それを癒そうと青の蛇は口から青白い液体を吐いて傷口を癒していくが、その間に十郎太を下ろした大和丸が剣に光を纏わせて一撃を叩き込む。
「秘剣!滅殺!!」
力一杯振るわれた剣は青の蛇を脳天から両断し、傷口に浄化の光を流し込む事でその禍々しい鎌首を炭化させた。
一方で、赤の蛇の攻撃を受け流していた夏芽はスクワントの水の防壁で守りを固めており、剣を一旦納めて術の詠唱に入る。
「(狙いは、絶対に外さない!全部の想いを、生きる気持ちも一緒に込めて決める……!!)」
詠唱が進む内に夏芽は少しずつ疲労が溜まったような顔になるが、その背にスクワントが放った癒やしの光を受けた事ですぐに元気を取り戻し、詠唱完了と共に大きな光の球を作り上げる。
「この命の光で、あなた達の怨念を打ち消す!!」
両手で光の球を持ち上げた夏芽は思い切り赤の蛇目掛けてその球を投げつけると、瞬時に球は赤の蛇に直撃して飲み込み、赤の蛇を完全に消滅させた。
「最後は、これだな!解除されても怯むなよ!!」
「「転身!!」」
5人は即座に転身して魔蛇の最後の1本に向かう。
魔蛇の残った首、それは黒い鬣と悪魔の角を生やした緑色の鱗と三つ目を持つ蛇であり、その蛇が粘土のように変形して赤い単眼を持つ化け物になると、強烈な怨念の邪気、本来持つべきでない聖なる光、そして赤い熱線が無数放たれる。
「兄さん!!」
「おう!!」
鳳凰の夏芽と白虎の冬夜が前に出て光の盾を張ってそれらを押し止める。
完全に防ぎ切れなかったか、2人の身を纏う鎧の端が砕け散り、露になった肌も鋭い刃物で斬られたかのような無数の傷が入って青白い血が流れ出るが、体力は落ちていない。
そして2人が攻撃を受け止めた所へ、蒼竜の十郎太と黒狼のスクワントが炎の嵐や大津波を駆け抜ける。
魔蛇は次に強烈な竜巻を無数放つのだが、それらを目にしても、炎や津波による傷を受けても2人は止まらない。
「ヤツの攻撃の手を留める!」
「そして俺達の攻撃へ繋ぐ!」
十郎太の両手から冷気が放たれて一部の竜巻を氷漬けにして止め、スクワントの爪が生み出す疾風の刃が逆に竜巻を切り刻む。
一部の竜巻が2人の身体から鎧を一部吹き飛ばし、衣ごとその肉体を切り刻むも、2人そのものを吹き飛ばすには到らない。
4人がそうして魔蛇の攻撃を受け止めている間に、大和丸が真正面から魔蛇目掛けて光り輝く拳を振り上げる。
対する魔蛇は最後とばかりに水で作り上げた龍を彼に襲わせる。
龍は大きな口を開いて大和丸を丸呑みにしたかと思われたが、その内側から大和丸は龍を打ち破り、傷だらけの状態ながら再び光の拳を突き出して魔蛇の単眼に一撃を決めた。
すると魔蛇は大きく悶えて奇妙な悲鳴を上げ、再び三つ目の蛇へと形を変えるが、その開かれた口から花びらのような光を大和丸達に浴びせる。
「!!来たか!」
大和丸が予測していた攻撃、それは鬼神の転身を強制的に解除し、霊力を奪い去る光。
それによって大和丸達は脱力感で身体の重さを感じ、転身が解除されそうになる。
だが、鎧が消えて人間の姿に戻ろうとした所で、その解除は止められ、逆回しのように鬼神の鎧が復活していく。
「「負けるかあぁぁーーー!!!」」
5人の力強い叫びが鬼神の力を最大限に引き上げ、鎧が復活すると共にその背後に5人の鬼神の姿を作り上げる。
大和丸には蒼き狼、十郎太には紅蓮の鷹、夏芽には桃の鹿、冬夜には深緑の熊、スクワントには純白の鬼と、それぞれの剣に宿る者達の鬼神が此処に再臨したのだ。
『『行けぇぇぇっ!!』』
「「おおぉぉぉっ!!』』
10の鬼神が光の矢となって飛び、魔蛇に向かって行く。
魔蛇は再び花びらの光を放つも、それらが逆に消し飛ばされ、遂にはその全身に10の深い傷が刻まれる。
それによって大きく仰け反った魔蛇は、大和丸達が地上に降り立つと同時に光に飲まれて爆発し、跡形もなく消え去った。

沙紀達は最初、魔人の本体に攻撃を仕掛けていたが、全く手応えが無く、逆に光の槍や毒霧にやられるだけと、防戦に持ち込まれていた。
だが、それは沙紀の術で解毒と傷の治癒を済ませると共に、彼女自身が謎を解き明かす。
「あいつの腕を切り落として!再生出来なくなってから、本体を撃つのよ!」
「!分かったぜ!」
「一点集中か、同時攻撃かは……」
「聞くまでもありませんわ!」
沙紀の指示を受けて、江は彼女と共に魔人の右腕の方へ、朱羅丸と葉樹が左腕の方へ向かう。
右手には刀が握られており、それが振るわれると突風と共に無数の風の刃が襲いかかるが、転身していた江が同じく転身済みの沙紀を抱えて床の中に潜る事で避ける。
「ありがと、江!」
「それほどでもねぇよ」
右腕の真下から飛び出した2人。
江は水飛沫の舞う両腕と尻尾を振り回して魔人の右腕を切り刻み、鱗をその傷口部分に撃ち込んで氷を呼び起こす事で内側をも切り裂く。
「まず一回目!」
仕上げに同時に両手を振り下ろす事で魔人の右腕を本体から斬り飛ばし、右腕自身を氷漬けにして粉砕する江。
沙紀はそれを確認すると、魔人の右肩から再生して伸びた右腕の剣を手甲で受け止める。
「へっちゃら、よぉっ!」
鋭い剣で腕が切れかけるも、強気な声で押し返し、浄化の光を伴った爪で何度も魔人の右腕を切り刻み、最後は大きく蹴りを放って右腕を再び吹き飛ばす。
それによって右の肩口が炎を上げて焼け焦げ、腕が再生する事は無くなった。
一方で転身した朱羅丸が数珠を持つ魔人の左腕からの光線を身体で受け止め、その間を滑り込む形で葉樹が魔人の左手首に一刀、次に飛翔して左肘に一刀入れる。
「地斬突!!」
最後に上腕部に剣を突き立て、刀身からその腕へと地震に似たエネルギーを流し込む。
大地を引き裂くエネルギーは魔人の左腕を内側から燃え上がらせ、粉々に砕くが、すぐさま新しく左腕が再生し、数珠が彼女を殴り飛ばした。
「やらせるかよぉっ!!」
しかし光線が止んだ事で接近出来るようになった朱羅丸が左拳で魔人の左腕の追撃を止め、気弾で魔人の左手から数珠を手放させる。
その数珠は、殴られながらも受け身を取った葉樹の剣で切り裂かれて消滅し、次に朱羅丸が放った振り上げ気味の拳が魔人の左腕を大きく打ち上げる。
「うおぉぉぉっ!!」
雄叫びと共に朱羅丸の連続の拳が魔人の左腕に無数の陥没を作り上げ、最後に光り輝く拳がその左腕を左肩諸共打ち砕く。
これで左右の腕が再生しなくなり、沙紀と江が爪で魔人本体に切り傷を浴びせる事で突破口の開放を確認した。
「最後、皆!行くわよ!!」
「「おう!!」」「分かりましたわ!」
4人は魔人の放った地獄の業火に焼かれ、瘴気の突風にやられて火傷を負いながらも踏ん張り、そのまま魔人に向けて走る。
「蛭子流剣術が奥義!無限斬月!!」
先に間合いに入った葉樹が無数の弧を描いて魔人の全身に切り傷を刻みながら上昇していく。
そして上空へ飛び上がって後退した所へ、朱羅丸が両手から光の球を放って魔人の胴体に命中させ、それを楔として右拳で思い切り胴体を撃つ。
その一撃で魔人の下半身が呻いて全身に傷口が現れて血が流れ出す。
江はその様子を確かめるや否や、両腕を物凄い速さで振り回して魔人の上半身を殴る。
「百蛇繚乱打ァッ!!」
「蓮華浄香衝!!」
最後は、沙紀の光り輝く爪が魔人の頭頂部から腹部に掛けて鋭く光り輝いている切り傷を作り上げ、その巨体を内側から浄化させる。
魔人はその浄化で天を見上げるように諸手を掲げ、足元から走った黄金の光の柱の中、その巨体が上からゆっくりと消滅していった。

邪鬼の繰り出す猛攻は、転身したメイア達も簡単に近づかせないものであった。
無数の蝗、百足が鬼神の力を奪い去りながら噛み付き、口から吐き出す糸で動きを封じるという容赦無い攻撃に対し、既に傷だらけとなったオウランとリョウダイが剣と拳で迎え撃っており、合間を縫う形で鎧が完全に無くなっていたメイアが針で邪鬼の胸や目を狙い撃つ。
オウランもリョウダイも、毒を受けて少しよろめいたのだが、即座に勢いを取り戻して邪鬼の猛攻を押し返し始める。
段々と攻撃の手が緩んだ所へ、最初にリョウダイが突進して体当たりで邪鬼の脇腹に一撃を決め、追撃の衝撃波で自分の周囲の蝗を吹き飛ばす。
次にオウランが剣で斬り掛かり、無数の百足をぶつ切りにしながら糸をかわしていく。
それならばと邪鬼は頭髪の蛇を一斉に襲わせて2人に噛み付かせようとする。
その攻撃を、メイアが割って入り、腕の刃で凌ぐ。
「もう、暴れる必要なんてないわ!止められないなら、眠らせるだけ!」
メイアの刃が閃くと共に邪鬼への連続の斬撃が入っていく。
その傷口から無数の蝗と百足が飛び出してメイアの身体に纏わりつくが、それをオウランが闘気で吹き飛ばし、邪鬼の顎を拳で打ち砕く。
「ありがと、オウラン!」
援護を受けて顔を明るくさせたメイアは大きく飛翔しながら毒針を飛ばし、急降下で邪鬼に接近しながら彼の喉元に一刃の撃当てた。
すると邪鬼も反撃としてメイアに口からの酸を吐き出すが、瞬時に彼女は飛翔してそれを避け、続けて上空からの錐揉み回転を利かせた蹴りを邪鬼の顔面に突き刺す。
「リョウダイ様、真に突破口を開きます!」
オウランがそう言って駆け、メイアが邪鬼から離れると同時に重く、強烈な拳を邪鬼の胸元に突き刺す。
その一撃はかなり効いていたらしく、邪鬼は酸と瘴気、邪鬼を吐き散らすのだが、それをリョウダイが闘気の熱線で焼き払った。
「行くぞ、邪悪なる存在!」
リョウダイがそう言って一歩踏み込み、右拳に力を溜め、突き出す。
するとその拳から闘気を纏った拳型の突風が邪鬼の顎を砕き、大きくよろめかせる。
そこへメイアが腕の刃で舞うように邪鬼の胸部と顔に斬りつけ、無数の百足と蝗も同じように切り裂いていく。
「オウラン、リョウダイ様!!」
「「応!!」」
ある程度攻撃を決めた所で、メイアの合図が出てオウランとリョウダイが飛翔し、3人は一斉に右拳を邪鬼の顔面に決める。
その攻撃で邪鬼の顔が大きく変形すると、顔を中心に段々と邪鬼の身体が光の粒子となり、1分もしない内に邪鬼は完全にその醜悪な姿を失った。


先に仕掛けた尸陰は執拗に響華丸を狙っていたが、響華丸も転身を行いながら攻撃を受け流していき、転身完了と共に左拳で尸陰を殴る。
しかし、直撃をもらいながらも尸陰は微動だにせず、ニヤリと笑って響華丸の左胸目掛けて左手を突き出す。
ならばと響華丸は蹴りで彼女を突き飛ばし、離れた所で御琴が矢の雨を降らせて尸陰の移動先を制限する。
それは尸陰の予想通りのもので、彼女は振り上げた斧を、移動先で転身して横から仕掛けて来たエレオス目掛けて振り下ろした。
「ぐぅっ……重いわねぇっ……!」
歯軋りするエレオスに対し、不敵な笑みと共に衝掌波で彼女を吹き飛ばす尸陰。
エレオスは飛ばされた姿勢から空中で踏ん張りを掛けて止まり、目元に流れて来た血を拭い捨てながら再び尸陰に殴りかかる。
「どおおぉぉりゃあぁぁっ!!」
「プリンセスとあろうものが、何と野蛮な。礼儀作法を学んだ方が良いですね」
連続の拳を斧と左手で防いでいた尸陰は隙を見てエレオスの右手首を引っ張って自分の手元に引き寄せ、体勢を崩してがら空きとなった首目掛けて斧を振り下ろした。
「形振り構ってられない、それがあたしエレオスよ!」
「!?」
返答と共にエレオスは倒れかけた勢いを利用して跳ねるように両足を突き出して斧を弾き、逆立ち状態からの開脚蹴りで尸陰を蹴り飛ばす。
鎧は無傷だが、僅かに掠り傷を頬に受けた事で尸陰は忌々しげにエレオスを睨み、傷を癒すと共に彼女が逆立ちから戻る前に斬り掛かろうとする。
だがその斧は、転身していない螢が投げた扇で受け止められ、離れたエレオスの代わりに螢が両手に持った扇で尸陰との剣戟に持ち込む。
「はい、はい、はいっ!はいぃぃっ!!」
炎を纏う扇が円弧を描き、時には直線を描く、そうした舞の如き螢の乱舞は尸陰の身体に届かないまでも、彼女の攻撃を止める事は出来ている。
だがその状況はすぐに打ち破られ、尸陰の邪気を伴った衝撃波で扇が弾き飛ばされ、斧が螢を両断しようと迫る。
「まだだよ!」
無垢で明るい声と共に転身した螢はその斧を紙一重でかわすと、今度は足刀と手刀で鮮やかに、しかし力強く舞いながら炎の斬撃を尸陰に浴びせる。
「巫女の忘れ形見も、所詮はネズミです!踏み潰されなさい!」
「うっくっ!!」
斬撃を凌ぎきった尸陰の言葉と眼力で凄まじい重圧に襲われた螢は両手を床に突き、そこから彼女の踏みつけを何度も喰らう。
だが十発目になろうとした所でその踏みつけはエレオスの飛び蹴りで止められ、斧も彼女が振るった蹴りで防がれた。
「ありがと!お返し!」
眼力も無くなった事で動けるようになった螢が即座に炎の飛礫を尸陰に浴びせる。
その炎は瞬時に消し飛び、尸陰の顔も無傷であったが、エレオスの繰り出す拳の連打で鎧に小さな傷が入った。
「くっ。憎しみを捨て、蟠りを乗り越えただけでその力を……不愉快です!」
怒りと共に衝撃波と眼力でエレオスの動きを封じ、続けて斧の横薙ぎで彼女の胴を断とうとする尸陰。
その一撃は確かにエレオスの胴に入り、刻まれた傷から青白い血が流れ出たのだが、ほんの数ミリで刃が止まっており、エレオスが不敵に笑いながら斧の柄を掴み取る。
「あたしの内臓を見ようなんて、それこそ一大劫経っても無理な話よ!」
刃を傷口から引き抜き、即座に尸陰を蹴り剥がすと同時に両手から赤と黄金の炎を放つエレオス。
その炎は尸陰の羽ばたきでも消しきれず、止む無く彼女は斧からの雷撃で炎を完全に消し飛ばし、エレオス自身も焼き焦がす。
「っとぉっ!!」
強烈な痛みで動きが止まったエレオス。
それを救うべく、響華丸が光の剣で斬りかかろうとし、尸陰も翼からの瘴気の風で彼女を吹き飛ばそうとする。
「やぁーーー!!」
そこへ、転身した御琴が尸陰に右拳を繰り出した為、尸陰の注意がそちらに向けられ、電撃を止めて衝掌波を放つ。
「今です、響華丸さん、エレオス!!」
「螢も行くよ~!」
予測済みだった御琴は衝掌波を一旦殴った後に真正面からガッシリと両手で受け止め、その間に響華丸とエレオスが、螢の癒やしの術を受けて剣と拳の一撃を尸陰に叩き込んだ。

「ぐぅぅっ!!し、しかし……あなた方は満足に戦えても、司狼丸はどうでしょうか?」
「「!!」」
吹き飛ばされ、血を吐き出した尸陰は口元の血を軽く舐めとり、自分の目の前に司狼丸の透けた姿を映し出す。
それによって響華丸達の追撃の手は止まってしまった。
「これこそが真の切り札ですよ!私を殺した時、司狼丸は私と共に完全に全ての世から消え去ります!既に力が掌中に収まった今、彼は人質として十分な役目を果たしてくれます!それでも私を倒せますか?殺せますか?滅ぼせますか?無理ですよねぇ!?彼の死もまた、私の本懐!既に私の勝ちは揺るぎません!アハハハハ!!」
高らかに笑い続ける尸陰。
だがそんな彼女を、躊躇わず響華丸は思い切り殴り飛ばした。
「ぶはっ!?な、何をするのです!?響華丸、あなたは司狼丸を殺すつもりですか!?」
逆に動揺する尸陰に、響華丸は真っ直ぐな瞳で睨みながら返す。
「あなたが司狼丸の魂を消す、その僅かな間で司狼丸を助けるわ。それに、ちゃんと私達の想いは、司狼丸に届いているはず。その証拠に、あなたが消滅させようと放っている気、押し返されているんじゃないの?」
「!?」
尸陰は自身の中にある司狼丸の魂が、力強く輝き始めている事に気づいていた。
抑え込んでいたはずの魂が、響華丸達の心に呼応して輝きを取り戻しているというのか。
そんな戸惑いを抱く中、彼の声が彼女の脳内に響き渡る。
『俺は、絶対に死なねえぞ……!姉ちゃんと出会えたんだ……今度は神無を取り戻す為に……響華丸と出会う為に……俺も戦うんだ!』
「!!仕方ありません。ならば前言通り、響華丸、あなたを完全に殺してあげましょう!」
完全に怒りで少女の顔から邪悪な形相になる尸陰は大きく羽ばたいて響華丸達に無数の傷を刻み、鬼神の鎧を溶かしていく。
「!?鬼神の力を退化させ、獰猛さを誘発する呪いを……その程度で済ませたですって!?」
攻撃が入っていながら、期待通りの効果が起きない事で驚く尸陰。
そこが付け入る隙となっていたのか、エレオスが一足飛びで彼女の目の前に立ち、燃え上がる拳を連続で浴びせた。
「心の強さが、執念とか前向きな気持ちで、螢の言うポカポカで満たされている限り、あんたの呪いなんてもう効かないのよ!!」
「お、おのれ螢!!退きなさい、エレオス!!」
殴られながらも、雷撃で反撃をする尸陰だが、傷だらけになってもエレオスは殴るのを止めない。
「父者、母者、兄弟の分!同族の分!こいつは司狼丸達の分!でもってメイアとジャドの分!あたし自身の分!ほら退いたぁっ!!」
一撃毎に想いを乗せた連続の拳を浴びせ、最後の一言と共に飛び退いたエレオス。
それは次なる仕掛け手である螢に攻撃を託す証だった。
「皆のポカポカで、尸陰、あなたから司狼丸を助け出すよー!」
すぐさま懐に飛び込んだ螢は炎と光の術、尻尾、蹴り、拳の乱打を浴びせ、尸陰の鎧を砕き始める。
「愚かな事を!あなたを最初に殺すつもりだったのですよ!!」
鎧の破片を無数の邪気の刃と変え、螢に突き刺していく尸陰。
だが、突き刺さった部分から血が滲み出ても、次には橙色の光が溢れ出て邪気の刃を消し去っていく。
「沙紀ちゃんやミルドさん、エレオスさんみたいに呪われてないの。螢は、これが生粋!」
言いながら繰り出されたのは、両手からの温かな黄金の光。
それは尸陰からすれば不快なものであり、鎧の破片が溶かされて翼も焼け焦げ始める。
「よくも……よくもこの私を此処まで汚してくれましたね!死になさい!」
尸陰は素早く斧を振るって螢の首をはねようとするが、その刃は届かなかった。
螢が伏せると同時に横へ転がったのもあったが、逆方向から御琴が斧を受け止めていたからだ。
「あなたはやり過ぎました……ジャドやエレオス以上に……!人を弄んだその罪に、今こそ報いるべき時です!」
斧で手甲が切れ、僅かに青白い鮮血が流れるも、すぐさま斧を弾き飛ばし、至近距離での光弾と拳、そして指から伸びる光の爪で攻めていく御琴。
尸陰はその光の力で鎧が完全に砕け、衣と翼が血で滲んだ事で口の中を切り、全身から邪気の蔦を伸ばして御琴を絡め取り、翼からの呪いの風を直接彼女に叩き込む。
「ぐぅっ!!あぁっ!!」
「やり過ぎたのはあなたの方でしょう、御琴!あなたも、響華丸に司狼丸を救わせる切っ掛けです!来世で絶対に響華丸の心の氷を溶かせないようにしてあげます!」
強烈な激痛、力を喰われる感覚で苦しむ御琴に、尸陰は斧で彼女の身体を覆う鎧を切り裂いていく。
重厚な真紅の鎧は呪いの風で脆く崩れ落ち、完全に表に出た華奢な身体は蔦で締め付けられる事で青白の血が滲み出る。
「はあぁぁ……!!」
だが、御琴は悲鳴を上げず、代わりに凛然とした気合の声を上げて力を解放させ、邪気の蔦を内側から焼き尽くし、呪いの風も消し去った。
「そ、そんな!?闇の手に堕ち、その手を血で染めたあなたが何故この力に抗えるのです!?」
「闇でも光でも、聖でも邪でもある、それが私達ONIなんです!だから、どんな苦しみにも、罪の意識にも、絶望にも負けません!!」
鎧が無くなった事でかえって身軽になった御琴は鋭く、素早く、光輝く拳を何度も尸陰に叩き込み、最後は光で作り上げた弓矢で尸陰の胸元を射抜こうとする。
尸陰はそれを2対の翼で防ごうとするが、矢は光を伴った爆発で翼を焼き焦がし、邪気が混ざった羽根がその光で消滅させられた。

「っ!!響華丸さん、司狼丸さんを助けてあげて下さい!!」
矢を放って、消耗が激しくなったか、片膝を突きながらも御琴は転身を保った状態で響華丸に向けて叫ぶ。
「その想い、確かに受け取ったわ!!」
即座に応えた響華丸は翼を羽ばたかせて翔び、空へ逃げた尸陰を追う。
「くっ……私は時空を操れます。この傷も、この通り完治出来るのですよ!」
笑みを取り戻した尸陰はそう言いながら諸手を広げると、黒い輝きと共に彼女の全身の傷が癒え、鎧も新品同然に復元する。
だが、響華丸も、御琴や螢、エレオスも、そして戦いを終えて駆けつけた天地丸達もそれを見て動じる気配が無かった。
その理由は、尸陰の次なる変調に現れていた。
「!?力が、完全に戻って来ない?!巻き戻せるはずの力が、傷だけ癒しても、これでは意味がありません!またしても司狼丸の邪魔ですか!」
「言ったはずよ。私達の思いが、司狼丸に伝わっていると!あなたに確定したのは、敗北だわ!」
間合いに入った響華丸は光の剣の両手持ちで斬り掛かり、尸陰の身体に再び傷を刻んでいく。
尸陰も斧と翼で猛攻を掛けるが、響華丸は傷だらけになって、鎧が完全に無くなっても攻撃の手を緩めない事で焦り始める。
「(お、押されているのですか!?この、尸陰が!混沌そのものである私が!?)」
大きな動揺により、自分自身の中の司狼丸の魂が輝きを強め、内側から抜け出そうとしている。
「司狼丸……一緒に頑張るわよ!」
尸陰の動揺、そこを突いて強く響華丸は呼び掛ける。
それと共に、尸陰は心臓の鼓動が大きくなると共に激しい痛みに襲われ、攻撃の手が止まった。
そこへ響華丸は、剣から放した左手に光を纏わせて突き出し、右手の剣で尸陰の斧を押さえ込む。
左手は尸陰の左胸に突き刺さったかと思うと、その辺が光に包まれた穴となり、響華丸の左手はその中で小さく、温かなものを掴み取るのを感じた。
同時に、司狼丸の声が彼女の心に響く。
『ごめんな、響華丸。俺の為に傷ついて……でも、ありがとうな。俺を助けてくれて!』
声を聞き取った所で、響華丸は力を込めて尸陰の胸から左手を引き抜く。
その手には温かい輝きを放つ赤い光の球が握られており、響華丸から沙紀とミルドの手へと飛んで行った。
これで、司狼丸の魂は救われたのだが……
「ぐっ!?フフフ、愚かですねぇっ!!響華丸!!」
それまで動揺で凍りついていた尸陰がニヤリと笑みを浮かべ、斧を思い切り振り下ろす。
人質が居なくなった所で、時空を操る力が完全に自分のものになったのだから、最早邪魔は無い。
そう考えての一撃は、響華丸の身体を両断した、はずだった。
「!?!」
だが、両断出来たのは響華丸の頭の皮一枚だけで、頭蓋骨も脳も傷一つついていない。
響華丸は、その頭頂部から流れる青白い血で顔と鬣を染めながらも、剣を両手持ちにして大きく振り抜いた。
「こ、これは!?一体どういう事ですか!?」
鎧ごと身体を切り裂かれた尸陰に、響華丸は剣の光を強めながら答える。
「私の持つ、並行世界の転移能力こそが、あなたの時空を操る力を抑え込んでいたのよ」
「そうですか……!では、これで純粋に、綺麗サッパリ消し飛ばすまでです!!」
答えを聞いた尸陰は小さな歯軋りと共に大きく翼を広げて下がると、斧を構えて黒紫色の炎を燃え上がらせる。
「怨念の力を、私の力を全て用いたこの滅びの炎!これで現世を滅ぼし、そして来世をも滅ぼしましょう!滅んだ後は私が作り直せば良いだけなのですから!」
平静さを失い、血走った目で睨む尸陰に対し、響華丸は深呼吸と共に鎧を復元させる。
「……皆、私に力を貸して」
静かなようで、しかしハッキリと届いた響華丸の声に天地丸達は応え、自分達の力を光の束として響華丸に送り込む。
それを受けた響華丸は傷が全て塞がり、翼も大きな、純白に輝く2対の翼へと変化し、その身を覆う鎧もまた青みがかった銀の、動きを損なわないながらも全身を覆うものとなった。
「寄せ集めの力で、私を倒せるはずがありません!滅びなさい!」
「……行くわよ。破邪の光剣……!」
嘲け、吼える尸陰の言葉を受け流しつつ、響華丸は手にしていた剣を握り締めて駆け出す。
その響華丸を吹き飛ばそうと、尸陰は黒紫色の炎を熱線と変えて放ち、一瞬にして響華丸を飲み込む。
だが、その熱線は次の瞬間には切り裂かれて消滅していき、中から無傷の響華丸が剣を突き出して真っ直ぐ翔ぶ。
それを尸陰が確かめたのも束の間、彼女は身体を刺し貫かれ、内側から凄まじい熱が急速に沸き上がるのを感じた。
「あ……」
声を僅かに漏らすも、尸陰は己の胸を貫いている光の剣が光を強めて自身を包んで行くのを見る事しか出来ない。
しかも、それはほんの刹那の出来事であった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!」
刹那の後、光に包まれながら尸陰は断末魔の叫び声を上げ、その肉体も魂も光で分解されていく。
眩い光は数秒の間続いたが、それが止むと、尸陰の全てが完全に消滅し、元の凶破媛子に戻った響華丸が天地丸達の方を見て微笑み、天地丸達も頷き合って微笑み返す。
此処に、三世の命運を賭けた戦いが、幕を閉じたのであった。


尸陰が消滅しても、時空の果ての地は神殿が崩壊した以外は何ら変わらない様子であった。
その海辺で、響華丸達は司狼丸の魂と改めて対面し、ミルドが彼の横に立って説明に入った。
「これで、彼を縛るものは無くなったわ。時間を彼の生まれる前、正確には地球が出来る辺りまでに遡れば、前世からの輪廻の環に戻す事が出来るの。私が責任を持って送り届けるわ。ただ、そう悠長には出来ないから、あなた達とは此処でしばらくのお別れになるわね」
その説明に、誰も反論する事は無く、司狼丸も受け入れていた。
後は、他で知りたい事があるくらいで、沙紀が積極的に訊く。
「もし、転生が終わって私達と出会ったら、今この時の記憶はどうなるんですか?」
「輪廻の環に入った魂は、余程の事が無い限り前世で得た記憶を全て失ってしまうの。たとえピッタリ前世と同じ姿で生まれたとしても、今日の事を覚えているという保障は出来ない」
「……それでも、私達が現世同士で出会えば、思い出は作れるんですよね?この現世限りだとしても」
「ええ。それは間違いないわ」
「なら、一安心です。司狼丸が私達の現世で元気な姿で戻って来るのなら、私達は待ちます」
しっかりと笑顔になる沙紀。
司狼丸も安心した様子で彼女を、そして響華丸を見詰める。
『響華丸、お前には沢山苦労を掛けちまったな』
「ううん、私が望んでやった事よ。それに、あなたには転生後には色々とやらなければならない事が山積みだもの。苦しい時はお互い様よ」
『はは、そうだな。でも、螢も本当にありがとう。響華丸とお前が居なかったら、俺……』
「ん~ん。さっき巫女さんが、司狼丸に伝えてって。『助けられなくて、ごめんなさい』って」
響華丸、螢、司狼丸の間に、江も割って入る。
「あたしも謝らないとな。あの時、金剛が現れた時のお前を助けようと何かしてれば、余計な手間踏まずに済んだって思ってる」
『いや、江も、あの巫女も悪くない。ただ、俺の心が弱かっただけさ……俺は、あの時から独りだった。俺自身、悲しいって気持ちを乗り越えようとしていれば、もっと良い結果が待っていたはずなのに』
少し俯きそうな司狼丸に、響華丸は笑顔で諭す。
「取り戻せるわ。私達がその手伝いをする事も出来る。あなたは、もう独りなんかじゃないし、私が絶対にそうさせないから……」
「私も。私が手に入れた幸せを、司狼丸にも分けなきゃ。だから、そんな顔しないで。笑おうよ、司狼丸」
沙紀にそう言われては、言うとおりにするしかない司狼丸。
自分が良く外道丸に言っていた事を、自分自身が痛感していた。
沙紀には敵わない。
一番のしっかり者である彼女だからこそ、幸せを手に出来たのだとも、
『……ありがとう、皆……俺、響華丸達が居たおかげで、幸せになれる気がする……!神無達を取り戻せる気がする……!だから、そのためにも俺は、行かなきゃ』
「うん。さよならは、言わないわ」
これは永遠の別れではなく、司狼丸が真に隠忍として精神的に成長したが為の、彼の門出。
だから沙紀も、司狼丸も笑顔で言葉を交わした。
「司狼丸、私達の現世で会えるその時を待っているわ。そしてその時も、私はあなたの力になってみせる」
「ポカポカも分けるよ~」
「心配すんな。苛めるヤツはあたしが懲らしめてやるよ」
響華丸、螢、江も笑顔だ。
その笑顔が終わらない内に、司狼丸は勇気を奮ってこう締める。
『じゃあ、皆……またな!』
「ええ。また会いましょう、司狼丸」
挨拶が終わり、司狼丸が光の球になった所でミルドはその球を手にして瞬時に姿を消す。
それから十秒もしない内に彼女は戻って来た。
「司狼丸の魂、キチンと輪廻の環に戻したわ。後は現世での再会を楽しみにしていなさい。さて、続きは監査局本部で話すわ。此処も何時まで持つか分からないもの」
響華丸達はミルドの促しに応じて久遠に乗り込む。
既に乗っていた時貞達の身柄はミルドが預かる事になるという説明の後で、久遠は時空監査局へと戻った。

監査局本部では、鎧禅が敬礼して出迎え、弥衛門が自分の研究成果が無事に戻って来た事に満足しながら出迎えていた。
そして広大な大広間で、ミルドは伽羅、冬夜、時貞を伴って話をする。
三世伝承院の今後も含めた、重大な話を。
一つは、既に琥金丸達にも話した、伽羅と冬夜の今後について。
当分、あるいは二度と会えなくなるかもしれないという事は確実で、それには大和丸、十郎太、スクワントも少し残念そうな顔をしていた。
数珠丸は夏芽が持つ事になったのだが、やはり名残惜しいというのが本音だった。
「また会えたと思ったら、か。仕方無いとはいえ、何だかな……」
「だが、受け入れなければならない。こうした別れは、ね」
「これもまた、運命かもしれない……」
しばらくして、3人は笑顔を作り、夏芽も涙を拭って笑顔になった。
「伝承院に行っても、頑張れよ!夏芽はしっかりと守るからな!」
「私達は、冬夜の分も私達の世界を守り続けて行く。約束しよう」
「タミアラや一族のような犠牲を無くす為に、俺も戦い続ける。お前が夏芽を守ったように……」
「兄さん、あたしの事を何時でも思い出して良いけれど、兄さんは兄さんが一番やりたい事をやって。それが、きっと自分自身の為にもなると思うから」
4人の言葉と笑顔に、冬夜も零れそうな涙を拭き取りつつ笑う。
「はは、まるで夏芽が母さんみたいだな……分かった。兄さん、頑張るからな。大和丸も、十郎太も、スクワントも、頼むぞ」
大和丸達と冬夜とのやり取り、それに並行して琥金丸と御琴は伽羅と話していた。
「……もう、やるべき事は全部終わったか?」
「……後一つだけ。御琴、辛かったら見なくても良いのよ?」
何を成すべきか、御琴には皆まで言わなくても分かっていた。
それ故に、彼女は首を横に振って伽羅の言葉にこう返す。
「いえ、見届けます。それが、私に出来る一番の事です。目を背けていたら、一生後悔するから……」
「……ありがとう……じゃあ、琥金丸……」
「……っ」
御琴と、隣に立っていた響華丸が見守る中、琥金丸と伽羅はゆっくりと見詰め合い、顔を近づけ、そして唇を重ね合わせる。
長いような、短いような、数秒か数十秒か分からない、静かなる接吻。
それが終わると、どちらからともなく離れ、気持ちがスッキリした伽羅は明るい笑顔で琥金丸を見、琥金丸も落ち着いた様子で伽羅を見詰める。
御琴はその一部始終を見届けていたが、胸が特別不思議な感覚に襲われる気配は無かった。
それは伽羅が瞳を以て、御琴に後を託すと伝えていたからであろう。
そうして二組の最後の対話が終わった所で、伽羅と冬夜はミルドの横に立つ。
「さて、今後だけれど……引き続き三世伝承院はこの世界の見守りに入るわ。もし三世の秩序を脅かす存在が現れた時は、また来るかもしれない。後、2人も私も、来世まで生きられる程物凄く長命って訳じゃあないから、来世でまた本当の意味で会えるはずよ。そこは、宇宙の創造主の意志によるけれどね」
「となると、この場でもさよならは言えないな」
「そうですね」
転生した時にもし出会い、別な運命が待っていたとしたら、その時自分達は良き道を選ばなければならない。
その考えが一致した伽羅と冬夜は笑顔を明るくして手を振る。
「琥金丸、御琴……次に会ったら、その時は本当の友達よ!だから、またね!」
「ああ。また会おうぜ、きっと!」
「はい、伽羅さん!」
「皆。次に会う時も、またずーーっと後になるな。それまで元気でいろよ!」
「冬夜もな!」
「その約束もしっかりと果たそう」
「兄さんも、元気でいてね!」
「再会の時に備えて、真に強くなろう。ガーディアンとして」
これでもう、悔いは無いとして伽羅と冬夜はミルドの方を見る。
琥金丸達も大丈夫だという事を目で示したので、ミルドは伽羅と冬夜の手を取り、光に包まれて転移を始めた。
「あなた達との出会いで、私も果たすべき事を果たせたわ。その礼も言わせて。そして、この現世をあなた達に託すわ……それが、三世伝承院の結論でもあり、意志でもあるから」
転移によって姿が消えようとする刹那、琥金丸、御琴、メイア、エレオスはハッキリと見た。
ミルドの、少女に相応しい可愛らしい笑顔を。
今この時、彼女も自分を縛っていた枷から解き放たれたのだろう。
そう誰もが確信するのだった。


ミルド達が伝承院へ戻った後、葉樹がこれからの事を話した。
メイア、オウラン、リョウダイは正式に時空監査局日本課の局員になり、現世での時空の動きを監視するという任務に就くという事だ。
そして、エレオスについては鎧禅が説明を行う。
「彼女の王国に住む者達が一斉に戻って来て、王国再建に着手しているようだ。そして、王家最後の一人であるエレオス、貴殿には是非戻って来てもらいたい、との事だ」
その話に、エレオスは豆鉄砲を喰らったかのような顔になったが、次には大きく、苦笑を伴った溜息を吐く。
「ったく。過去の戒めとかから解放されたから、それで流刑期間終了って事にするわ。指導者が居ないと国纏まんないし、此処は王家として一肌脱がないと行けないわねぇ」
「え?それじゃあエレ、もう地球を……」
かつての約束は、もう完全に薄れている。
それでも、メイアはエレオスの今の気持ちを知りたく、エレオスも正直に語る。
「帰る場所が甦った以上、そこを立て直すのが一番よ。それに、故郷に錦並みの良いお土産が出来たんだもの。それを使って、父者を全部の面で超えた、立派な王になる。葉樹、あんたはどう思うの?」
「……本来は取り締まるべく監視員を送りたい所ですが……今回の事態収拾の功績に免じて、外部へ一切の武力行使・侵略行為を行わないという条件付きで認めますわ。違反した場合は、しっかりと懲罰を与えますわよ」
「ん。寛容な対応、痛み入りますわ」
突然の丁寧な言葉遣いに全員が笑い出し、エレオスの方も鼻で笑いながらうんうんと頷く。
後は、今後も何かあったら、響華丸達に協力を求めたりするという事で話が纏まり、全員が元の時代、元の世界へ変える事になった。

「葉樹。あんたの親父さん、立派なサムライだった事を改めて伝えるよ。そして、隠忍として険しいけど、誰かの為に守る為の戦いを続けて行くぜ」
「応援していますわ。あなた達のこれからが明るくなる事も祈りつつ……」
しっかりと、強く握手をする朱羅丸と葉樹。
不思議な縁を感じる中、2人は剣士としてもお互いに認め合っていた。
「沙紀、あんたが見せたあの新しい転身から、一つだけハッキリした事があるわ。呪いを解くのは、本人の心次第って事よ。まさかあたし以外にも呪いを解いた奴がいるなんて、正直驚いたわ」
「私も、あの時の無我夢中さが、ああなるなんて思っていなかったわ」
「……あたしが持っていなかった、憎しみを抑える心と、そのしっかり者な部分で、これからの仲間達を守って行きなさい。それがあたしの、あんたに伝える事よ」
エレオスは沙紀と言葉を交わし、良きONIの後継者として彼女に期待し、江もその話に興味を抱く。
「って事は、あたしも響華丸達と同じ型になれるって事か。こりゃ貴重な話だぜ」
「偶然っていうより、必然ね。心の強弱、美醜で姿かたちが変わったりする。尸陰の呪いは、心に作用して変容が生じるってのが、あたしなりの推論。そしてそれを活用して、王国再建に持っていくわ」
「あんたは普通に頑張り屋だからな。きっと、親父さん達を超えた良い国が出来そうだぜ」
新しい時代が、それぞれの世代で始まろうとしている、そんな会話が3人の間で交わされていく。
「大和丸、短い間だったけど、訓練とか楽しかったぜ。また会える時が来たら、その時も宜しくな!」
「おう!俺達の世界に来たら、船旅に連れてってやるぜ!楽しみに待っていろよ」
同じくらいの年齢、同じような内面を持つ琥金丸と大和丸は拳を軽くぶつけ合って笑い、スクワントもリョウダイと共に天地丸から様々な助言を受けていた。
「鬼神の力は、腕力に非ず、か……思えば俺も、腕力に頼っていたのやもしれない」
「羅士も鬼神と同じ。余は今後、武勇に偏らず、治世も考えなければならんな」
「大切なのは、身も心も強く、逞しく、な。それが出来れば、きっと守りたいものもきっと守れる。傷ついても何度でも立ち上がる、その心も忘れるなよ」
「……肝に銘じよう」
「流石に生粋の鬼神。その言葉、後世にも伝えて行こう。余の時代に、二度と悲劇が起きぬようにする為にも」
響華丸は御琴、十郎太、夏芽、メイア、オウランと話していたが、少女に相応しい内容になっていた。
「改めて訊くけど、御琴、本当にあれで良かったのね」
「はい。前からずっと、伽羅さんと話していましたから。それに、キチンと告白も出来ましたし」
「わ~!良いな~……あたしってば、アビスに目を付けられる事をしちゃったから、色々大変だわ」
「だからといって、私に抱きついても、ねぇ……」
事あるごとに何故か十郎太に抱きつく夏芽。
そんなやり取りに、音鬼丸と螢も入って来た。
「でも、女の子同士って、良いのかな?僕は男だから分からないけれど……」
「ん~……男同士とか女同士だと、色々と不憫みたい。子供産めないかも」
「……べ、別に私はそんなつもりじゃなくて、御琴とは親友であって……その」
響華丸が何時に無く赤面し、それに釣られて御琴、十郎太、夏芽も顔を赤らめる。
親友の間柄、そして女性でもカッコいいから良いという理由の付き合い。
似て非なる関係の中、メイアがボソッとこう漏らす。
「でも、私達の時代で行なっている研究の結果次第で、もしかしたら……」
「ま、待てメイア」
咄嗟にオウランが、珍しく落ち着かない様子で遮るので、響華丸達は我に返ってメイアの方を見る。
メイアも、ちょっとしまったと思いつつ、照れながら誤魔化しに入った。
「あ、あの、皆も立派な旦那さんとか、彼氏が出来たら良いな、って……」
「ん~……気になるけど、螢が知るにはもうちょっと後という事で~」
「何が何だか分からないけれど……僕も何かあるかも……うん。きっと何かが起きる……」
女性陣の話の中、たった一人の男である音鬼丸が呆然と、魂を抜かれたかのように立ち尽くす。
そこへ、大和丸、琥金丸、朱羅丸が彼の左右から軽く肘で突いて来た。
「ようよう、モテモテじゃんかよ!十郎太はともかくとして」
「全く、沢山の女に囲まれて羨ましいぜ、こいつぅっ!」
「本当、綺麗な妹さんもいるし、この幸せ者ぉっ!」
「ち、違います!僕はそんなつもりで此処に入って来ているんじゃないんですって!」
音鬼丸も顔が真っ赤になっているので、全員がドッと笑い声を上げるしかなく、音鬼丸自身もしばらくして明るく笑う。
平等な笑い声、それが一番の幸せだという事を誰もが理解しながら。
そうしてしばらくの談笑が続いた後、響華丸達はお互いに再会を約束してそれぞれの世界へと帰って行った。


それから、しばらくの時が流れて……


―――――――――

私達が司狼丸と再会し、この時代での戦いを終えたのは、尸陰達との戦いから数ヶ月後の事だった。
前世としての記憶は覚えていなくても、司狼丸は私の事をしっかりと覚えてくれている。
司狼丸が鞍馬山での封印から次に目覚めた時、色々あったらしいけれど、無事に全てを終えられた事は確かで、この時代も平和に近づいている。
八将神や道鏡、十二邪王が倒れても、平和を退屈に感じたり、平等を認めなかったりして、他者を虐げる人間、再び人間達を脅かす妖魔が現れたりしているから、完全な平和という訳ではない。
もっとも、本当の意味での平和とは、悪い事が何も起きない事ではないと思っているけれども。
あれから私は凶破媛子として、忙しい毎日を送ってはいるけれど、時々御琴達と出会えるから辛くなんかない。
ただ、ミルド達が姿を見せるという事はもう無いと思う。
それが何だか、寂しい。
平和というのは、寂しさも付き纏うのだろう。
争いが全く無い世界では、自分達は守るための力を、大事なものを失ってしまう。
御琴がエレオスに対して言っていた事は、そういう事でもあると、私は思う。
そのエレオスは、王国の女王として国をしっかりと治めており、もう二度と過去の過ちを犯さないようにしているという。
オウラン達は監査局局員として頑張っているらしく、事務や雑務等にも追われているようだが、元気との事だ。
彼女達の今後の頑張り、私も期待しよう。
そう、大和丸達も、時空監査局に入って、海路を使ってあちこちの世界を警備しているそうだ。
彼等は船旅に慣れた身だから、如何なる困難という荒波も乗り越えていけるだろう。

司狼丸、そして彼が伊月と共に探し求めていた神無が戻って来ており、彼等や沙紀、弓弦、鈴鹿の笑顔が更に明るくなっている。
伊月と外道丸は戻って来れないけれど、私達の中で2人は生き続けている。
いや、2人だけじゃなく、これまで関わってきた人達は、心の中で生きているのだ。
それを忘れずに、私は今後も戦い続ける。
司狼丸が戦わなくても良い世界、それが叶わないものだとしても、少なくとも彼が悲しまない世界にしていきたい。
江や螢も、私と一緒にこれからも戦ってくれる。
御琴達も自分達の世界で頑張っているのだから、負けられない。
この記録を読んでいる人がいたら、この事を忘れないで欲しい。
人間も妖魔も、信じ合えば、許し合えば、絶対に分かり合えるという事を。
妖魔の横暴も、五行軍の妖魔狩りも、斬地張の暴走も、憎しみがぶつかり合って起きた悲劇なのだから。
私は、誰もがそれを理解し、平和に一日でも、一秒でも早く近づける日を望んでいる。


響華丸

―――――――――

「……終わり」
鳥が朝の囀りを続ける中、小さな筆で一枚の半紙にそう書き切った響華丸は、墨汁が乾いたのを確認して半紙を巻物とし、それを用意した筒の中に入れ、棚に仕舞う。
それを終えた所で、外から子供達の呼ぶ声が聞こえた。
「響華丸お姉ちゃーん!司狼丸お兄ちゃんと神無お姉ちゃんが来たよー!!」
「後から沙紀お姉ちゃん達も来るってさーーー!」
「はーい!今行くわー!!」
子供達にそう答え、響華丸は外出の仕度をする。
横では長老が楽しげな笑顔でそれを見送りに入っていた。
「これからが楽しみで、少し険しくなるかのう」
「ええ。だからこそ、私は今日も頑張ります!」
温かな長老の言葉と視線を背に受けて、今日を始める響華丸であった。



数多の困難を越え、今此処に、真の救いがもたらされた。

怒り、憎しみ、悲しみこそが己の向き合うべき相手であり、乗り越えるべき壁。

それを果たした時、人は、隠忍は真に人間の心を手にし、如何なる困難も乗り越えられる強さを得る。

強さとは、力とは、決して相手を捩じ伏せ、欲する全てを手に入れる為のものではない。

自分達が持つ想いが、如何なる苦難にも決して屈しない事を、その想いが形だけではない事を示す為の因子である。

時空童子が一度殺されたのは、取り戻したいものを取り戻す為だけに力を求め、絶望したからなのかもしれない。

凶破媛子が道鏡の枷から解き放たれたのは、自分の持つ想いを貫き通したからなのかもしれない。

真意は本人しか分からないが、我々も忘れてはならない。

ONI達が戦いの中で手にしたものを、失ったものを、そして貫いてきたものを……


この物語は、零から始まり、Ωへと到った隠忍伝説……
しかしΩから紡がれる物語もまた、誰かが別の話として織り上げていく。
それは、君の役目かもしれない……


隠忍伝説二次創作

響華丸伝  ~完~


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あとがき

とうとう、ONIΩも今回で完結となりました。
オールスター系で、名前は伏せましたがアニメ版のその後という感じの雰囲気も書いたり、最終決戦という事で、王道な雰囲気を進めて行きましたが、如何だったでしょうか?
尸陰が段々と小物化してしまったのは、『如何に力があっても、覆されたり思い通りに行かない時、つまり敗北した時の事を理解しなかった』からである、と考えて頂ければ。
まあ、終わって見ると自分もまた、ONI好きであり、変身ヒロイン好きでもあるんだな、と思っています。
ただ、流行りに乗っかかった事もあって、女性陣の会話でちょっとだけ踏み込んでしまいましたが。

ともあれ、これで響華丸の絡む物語は完結です。
なので、締めも相応なものにしていきました。

今後も商業・二次創作問わず、ONIの作品が出て来るのを祈っています。
最後に、この私の作品をご愛読頂き、誠にありがとうございました。

それでは、また何処かで……

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