ONIの里

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隠忍伝説(サイドストーリー)

~ONI~現代~ 新隠忍伝説~

novc 作

第2話 サボるとね

「~ということです。つまりここには過去分詞が入るわけですから…………」
 教壇で先生が英語の授業をしている。
「……むにゃ……」
 席の一番後ろの席で机に突っ伏している輩――男子が居る。
 いや気分が悪くて突っ伏しているのではない。
 寝ているのだ。
 幸せそうな笑顔で時折小声で寝言を言うが、きっと愉しい夢でも見ているのだろう。
 寝顔は、まだ幼さの残る顔つきで可愛い方だ。

 男子の席の真横の席は女子が座っている。
 寝ている男子を一心不乱に見つめている姿は、まるで好きな人を見ているのかと一瞬錯覚させるが、そのまとっている雰囲気から違っていることは、すぐにわかる。
 かなりの迫力である。
 どれぐらい迫力があるかと言えば、耐性がなければ思わず土下座してしまいそうなくらいに迫力がある。
 現に彼女と男子の席の周りの生徒は、彼女の雰囲気に飲まれて恐怖しているから。
 彼女はおもむろに消しゴムを取り出し、寝ている男子に狙いを定めた。

――起きなさい。

 と意味の込められた消しゴム投擲。
 けれど、男子は運が良いのか、はたまた起きているのか――なんと交わしたのだ。
 小さく寝返りをうつ形で紙一重という絶妙なタイミングで。
 表情は、ほとんど変わっていないが、それでも微妙に不快の意を表していることは分かる。今度はシャープペンを投げようとして――
 
キーンコーンカーンコーン!!

 今日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「ふうっ……今日の授業は終わりっと!!ああだりぃ……」

 こうして男子は、チャイムを目覚まし代わりに目を覚ました。
 自分の席であんぐりと大口を開けながら欠伸をし、大きく伸びをしながら、せっせと帰る準備に入る男子。

「ほう~飛鳥(あすか)くん。私の授業がそんなにダルいわけ?」

 いきなり先生――女性の英語教師に突っ込まれる。
 年齢は20代後半と見受けられ若い先生である。
 腕を組みながら笑みを浮かべて優しい声をかけているが、じっくりと見ると、組まれている腕は震えているし、笑みは口元がひくついているし、声は不自然な猫なで声。
 どう考えてもここから導き出される答えは――

「いっいえ!!決してそのようなわけでは!!」

 “飛鳥くん”と呼ばれた生徒は、かなり焦りながら答えた。
 明らかに女性教師は怒っているから。
 そして女性教師の雰囲気もさることながら、隣の席の女子の呪い殺しそうな視線を感じて、必死に言い繕う。
 うかつなことを口走れば、そりゃぁもう長い長~いお小言が待っていると直感したからだ。
 いや、恐らくパンチの一発は貰うと確信している。

「全く君は……1回寝ると、どんなことしても起きない癖に、終了チャイムの音には即座に反応するのね」

 先生はかなり困った顔をして“飛鳥くん”に言う。
 もう諦めているようにも見える。

「いやあ。照れるなぁ~ははははは」

 と“飛鳥くん”は笑い出した。
 横の席の女子の視線が『呪い殺しそうな視線』から『呪い殺す視線』に変わったことを付け加えておく。

「褒めてません!! …………全く…………」
 女性教師は“頭痛がするわ”と言いながら“飛鳥くん”の横の席の女子に目を移す。

「瞳(ひとみ)さん」

 声をかけられた女子生徒は、キョトンとした顔で女性教師を見つめ返した。

「飛鳥くんのことが気になるのは分かるけど、あなたもそのせいで授業に集中できていないわよ」

「…………はい」
 “瞳さん”は、少しの間のあと先生に答える。
 実際に授業に集中出来ていないことを理解しているのだが、譲れないものがあるという答えと受け取れた。

「……もういいわ。それじゃ今日の授業はここまで。それじゃ次回の授業までに、ここを訳しておいてね」

 そこまで言うと女性教師は“じゃあ、このままSHRね”と言って黒板を消す。
 どうやら女性教師は担任教師でもあるようだ。
 消された黒板には連絡事項を記載していく。
 忘れないように手帳に書く者。関係なしにクラスメートとしゃべる者と様々。
 “飛鳥くん”は、いそいそと鞄に荷物を突っ込んで帰宅準備は万全にしていく。
 一方“瞳さん”は手帳に連絡事項を書き終えたらしく、同じく鞄に荷物を詰め込んでいた。
 女性教師がSHRの開始を宣言すると、生徒たちは黙って女性教師の顔を見る。
黒板の連絡事項を説明しSHRの終了を宣言すると、日直が号令をかける。
号令後は、一目散に帰ろうとする者、部活動に勤しむ者とバラバラに行動していく。

 “飛鳥くん”は一秒でも早く机から離れようと立ち上がる。
 だってこの場所にとどまることは良くないから。
 いつだって恐怖は、すぐ近くにある。

――しかし、机から離れるより早く“飛鳥くん”は何者かに服の襟首を捕まれた。

 錆びた鉄の門を開けるような感じで、ゆっくりと“飛鳥くん”は首を後ろに廻す。
 首を後ろに廻して目に入ってきたのは、あまり表情には出ていないが、目を見れば怒り心頭とわかる女子――“瞳さん”が居た。
 当然、服の襟首を掴んでいるのも“瞳さん”。

「飛鳥丸」
 “瞳さん”の声は相手を威嚇するには充分な声だ。
 “飛鳥くん”は恐怖に顔を引きつらせる。

「どうして真面目に授業を受けないの?」
「いやね、昨日夜更かししすぎて眠くてね」
 そう答えた“飛鳥くん”に対し“瞳さん”は、今度は微妙な変化ではあるが眉間に皺を寄せる。 

――しまった。

 と、“飛鳥くん”が思った時はもう遅い。

「それ、どういうことか聞かせてくれる飛鳥丸?」
“瞳さん”は逃がさないとばかりに襟首をつかんでいる力を強めた。
彼女が彼の本名――飛鳥丸――と呼ぶときは、かなり怒っているときだ。


――才神と尼宮は、いつ見ても飽きないぜ。
 クラスメートの誰かが言った。

“瞳さん”はその声をした方をチラっとだけ見たが、気にせず“飛鳥くん”の襟首をつかんだまま廊下に向いて歩き出す。

 “飛鳥くん”の名前は才神 飛鳥丸。
現代の感覚で言えば名前の飛鳥丸というのは、はっきり言えばダサイ。
 “~丸”って名前は、付ける事じたい希有であろう。
 理由はある。
 彼の一族の男子には代々「~丸」と付くことが決まっているらしいのだ。
 “通字”というものをご存じだろうか?
 簡単にいえば、一族で共通する一字を、名前に用いることである。

 例えば、足利将軍家は“義”の字が“通字”にあたる。
 この“義”の字。清和源氏の直系から続く由緒ある“通字”だ。
 清和源氏の有名な武将を思い浮かべて頂きたい。
 義経、義仲、義朝、義賢、義家、義光、……上げればキリがない。
 また分家である足利家、新田家、佐竹家、畠山家、細川家、等にも“義”の字が多く使われている。
 足利義満、義政、義輝、義昭……新田義貞、義兼、義房、佐竹義重……等々。
 桓武平家で言えば“盛”、徳川将軍家で言えば“家”となる。

 この場合、才神家の男の“通字”は“丸”になる。
 いい加減現代にはそぐわない字だとも思われるのだが、付けられてしまったモノは仕方がない。
 手続きをすれば名前は変えられるが、飛鳥丸本人は別段気にしていないから、変えようとも思わない。
 むしろ、手続きが面倒なので、そっちの方がイヤなくらいだ。
 回りからは、下の名前まで呼ぶのは、めんどくさいらしく『飛鳥(あすか)』と呼ばれている。


廊下から下足室まで襟首は捕まれたままだった。
道中、二人を見た知人・友人は――またか、といった感じで微笑ましく眺めていた。

「早く靴、履き替えて」
下足室まで来てやっと解放される飛鳥。

「はいはい」
「“はい”は一回」
「はい」

飛鳥が場を明るくしようとおどけてみせるが、“瞳さん”には通じず、語気を強め睨みつけられた。

 体格的に飛鳥は小さい。
 まだ本格的な成長期を迎えていないのか、飛鳥の身長は155センチくらいしかなくスマート。
 高校一年生の男子にしても小さい方だ。
 顔も幼さが残っていて、可愛いと表現されることもある。
 髪は、全体はミディアムヘアーで、サイドやえり足はラインを出していない。
 前髪で目が隠れると言う長さではなく目よりやや上。
 目はキリっとしている。


 一方“瞳さん”こと尼宮 瞳(あまみや ひとみ)。
 飛鳥の幼なじみ。
 身長は160センチくらいで飛鳥よりもちょっと大きめだ。
 細身ではあるが、痩せすぎではない体型。
 ダイエットとは無用な感じがする。
 顔は、鼻筋が通っていて可愛い部類に入ると思う。
 髪は、セミロングの前上がりのワンレングス、簡単に言うとたらした髪を同じ長さに切りそろえたもので、鎖骨のちょっと下まで長さがある。
 目元は、パッチリしていて活力を感じるが、静かな口調で話すせいか、落ち着いた女の子として見られる事が多い。




「で、カラオケボックスに来ましたと」
「ここなら密室の上、防音もある程度されてるから」

瞳が言った。

「みっ密室!!女の子と二人っきり!!これは……エッチな」
「で、なんで夜更かししすぎたの?」

――ボケさせてすらくれねぇ!!
飛鳥が心の中で突っ込んだとき、瞳の突き刺すような視線に

「えっと昨日公園で妖魔が出没しまして」

と正直に答えるしかなかった。

「そうだったのですが……てっきりいつものごとく、夜遅くまでゲームでもされていたのかと思っておりました」
瞳は今までお説教してやると雰囲気を出していたが、飛鳥の言葉により態度を一変させた。

「詳しく話をお聞かせ下さい。飛鳥丸さま」
姿勢をただし、カラオケボックス特有のソファの上で正座する瞳。

「あっうん」
“飛鳥丸さま”と言われ一瞬、眉をひそめるも、飛鳥は瞳に昨日、公園で起こったことを話した。


…………
……

「そのようなことが……吸血していたとのことですが……種族はいったい何だったのでしょう?」
「さぁ、吸血する種族って言えば、ヴァンパイア、磯女、ヒノエンマ、とか有名どころだけでもいっぱいあるからなぁ~」
「まさか確かめなかったのですか?」

突き刺さるような瞳の目に飛鳥はたじろぐも

「いやね、先に巻き込まれた二人を助ける方が先立ったし、倒した後は記憶消す方が先だったしさ」

とまで言うと、瞳は盛大なため息をついた。

「まったく、結果オーライだから良いものの、妖魔の分析も立派なお勤めです」
また微妙な変化ではあるが眉間に皺を寄せる。 


「これで術が効かなかったりしたら、どうするおつもりだったのですか!?飛鳥丸さまは迂闊すぎます!!」

――あちゃ~スイッチはいっちゃった
飛鳥は思うも、瞳のお説教は止まらない。

「だいたい、勤めは仕方ないとしても、今日の学校での態度は何ですか!!それでも才神家の一門ですか!?授業中に寝てしまうなんてなさけない!!それもかなりの頻度で寝ていますよね!?お世話をする私の立場にもなって見て下さい!!今日、また私まで先生に注意されたじゃないですか。だいたい飛鳥丸さまは」

――今日は、どのゲームしようかな
と、飛鳥は聞き流していた。

「飛鳥丸さま!!聞いているんですか!!」
聞き流しているのを見逃す瞳ではない。
すでに飛鳥に仕えて数ヶ月。
癖は、なんとなくわかってきた。

「飛鳥丸さまが、このような生活をされていては、“夏樹”様に申し訳がたちません」
と言って、まだまだお説教を続けようとする。

「分かった!!分かったから!!そこで母さんの名前を出すのはやめい!!」
このままだと、瞳は実家に連絡をする。
間違いなくする。
となると、色々とめんどくさい。
せっかくの慣れてきた今の生活を崩したくない。

――とにかくなだめるんだ。
そう判断し飛鳥が瞳をなだめようとしたところ


「あれ、また夫婦漫才!?」
なんて脳天気な声が聞こえた。



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あとがき
つうわけでリメイク版 第2話 をお送りします。
なんか以前のキャラとは性格が違う部分もあります。
設定変更の為なんですが……

これに懲りずまだまだ書いていきますんで宜しく御願いします。
novc