ONIの里

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隠忍伝説(サイドストーリー)

幸せ

温羅さん 作

あてのない旅路を行く琴音は、人里離れた山奥で、野宿をすることになった。
薪を拾い、火を起こし、横たわった古木に腰を下ろす。
日は既に落ち、闇だけが辺りを支配する。
だが、恐怖はなかった。
普通の娘ならば、身体を丸め、ガチガチと振るえているのだろう。
山賊が出やしないか。
野犬に襲われたりしないか。
そして、妖怪に食われたりしないか。
そんなことを考えながら。
しかし、琴音にしてみれば、そんなことはまったく恐怖の対象とはならなかった。
むしろ、何故そんなことが怖いのだろう、とも思う。
「私にも、妖魔の血が流れているからかしら」
目の前の炎を見つめ、呟く。
旅を始めて、もう一年近くなる。
だが、彼女の探し人は、未だに見つからない。
自分の腕を切り落とした男の妹になど、会いたくはないだろうな。
見つめる炎が、涙で滲む。
「真柴さん…………………………………………」
想い人の名を口にし、目を閉じる。
そして、『幸せ』だった、あの日を思い出した。

その日の琴音は、いつになく浮かれていた。
『幸せとは、こういうものなのだ』と、心から思っていた。
かつて最強と呼ばれた鬼・慈空の娘だということで、彼女は里の皆から可愛がられた。
同年代の子供たちに比べ、何不自由ない生活を送れたと思う。
だが、『幸せ』であったか、といえばそうではない。
生まれてすぐに母親は亡くなってしまったし、父の顔など、面影すら記憶にない。
三年前までは、自分に兄がいることすら知らなかった。
決して表情に出すことはなかったが、彼女はいつも『孤独』を感じていた。
だから、『独り』でいるあの人に惹かれたのだろうか、と琴音は思う。
自分が感じた『孤独』を、彼も感じているかもしれない。
だから、彼のことを知りたいと思った。
彼の感じる『孤独』を、消したいと思った。
そして、自分の『孤独』も。
たとえそれが、傷の舐めあいであろうとも。

初めて彼に話し掛けたとき、彼は思い切り琴音を拒絶した。
それから何度も、琴音は彼につきまとった。
皆が『奴に関わるな』と忠告するが、琴音はまったく耳を貸さなかった。
『思い立ったら後には引かないところは母親そっくりだな』、というのは育ての親である村長の言葉だ。
実際、自分でも何故これほどまでに彼のことが気になるのかわからなかった。
ただ、本当になんとなく、傍にいたいだけなのだ。
誰かを好きになるというのは、こういうことなのかもしれない。
昨日よりも今日。
今日よりも明日。
声を掛ける度に、接する度に、想いは強くなる。
そして、相手のことを理解していくのだ。
次第に、彼がどうして琴音を拒絶するのかもわかっていった。
彼も、琴音と同じ想いだったからだ。
だが、その想いを伝えることができないでいただけだった。
いつも仮面を着けている為、その表情を読み取るのは至難であったが、自分に向けられる眼差しの優しさで、そう信じることができる。
彼を好きになって良かったと、琴音は思った。
「………真柴………」

「……俺の名だ」
そう言って、そっぽを向いた彼が、とても可愛らしく思えた。
ようやく自分に心を開いてくれたことが嬉しかった。
この刻が、永遠に続いと欲しいと願った。
暗い夜道の中、不意に見つけた小さな松明のような、この『幸せ』が。

あの『幸せ』を、もう一度感じたい。
目の前の炎を見ながら、琴音は思った。
必ず、彼を探し出す。
そして、彼と共に生きよう。
それが、どんな苦難の道であろうと、自分の『幸せ』は、そこにしかないのだから。
「真柴さん…………必ず……必ず、あなたを見つけます」
琴音は、夜空を見上げた。
星は、琴音の想いを具現させているかの如く、優しく輝いていた。

琴音と真柴が出会うのは、これより数ヶ月後のこと。
その後、彼女が『幸せ』であったかどうか…………
それは、また、別の物語である。




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作者  さん