～ＯＮＩの里～

隠忍伝説（サイドストーリー）

俺にとっての兄貴

　……俺は昔、すぐに失敗する落ちこぼれ忍者だった。
ふっ今では「最強の男。天地丸様」なんて言われているけどな。
信じられないだろ？
昔の俺を知っているのは…………今では彩蔵兄貴だけだ。
後の里のみんなは、昔の俺のことを知らない。
従兄弟である高野丸ですら知らないから……

いつも失敗して……里のみんなに笑われ……虐められたよ。
孤児だったからな。
そのことで余計に俺は虐められた。
そんな中で俺に唯一優しくしてくれたのは兄貴だった。
昔から兄貴はなんでも出来て、里一番って言われてたっけ。
けど、逆にそのことで里のみんなから一歩引かれてたんだと思う。
親友と呼べる子はいなかったんじゃないかな。
特別扱いばっかり受けていた記憶がある。
孤児ということで、相手にされなかった俺とある意味、同じ境遇と言えるかもしれない。
そんな俺と自分を重ね合わせて見ていたのかな？

虐められて、泣かされて、里の外れで泣いていると兄貴がやって来て、いつも『天地丸！！いつまでも泣いてんじゃねぇ！！！』と怒るんだよ。
で、俺は決まって『……ヒック……ヒック……だって！！』て言うんだ。
そしたら兄貴は俺の前にしゃがみ込んで頭をなでながら『ほんとにおまえは泣き虫だなぁ～』って。
でも、その頭に置かれた手が暖かくて、くすぐったくて、すぐに泣きやんでしまうんだ。
それを見た兄貴は『じゃあ行くか』って行って俺の手を引っ張って連れて行くんだ。
思い出すと懐かしいな。

あるとき、いつも通り里外れで泣いていたら、兄貴が来て頭をなでてくれた後『……毎晩努力してるんだ。いつかその結果がでるさ』って言われたときはビックリしたな。
いつも慰めてくれる兄貴に一歩でも近づきたくて、毎晩こっそり修行していたのを兄貴が知ってたから。
思えば、そこからかな。
修行が好きなんて言い出したのは。

そう言えば兄貴に『兄貴も泣くの？』って聞いたことがあったっけ？
なんで聞いたか覚えてないけど、兄貴がなんて答えたかはしっかり覚えてる。
こう言ったよな。
「男は涙を流さないもんだ！！かっこ悪いだろ！！！けどな心の底から嬉しい、悲しいと思ったときだけは泣いて良いんだ」
って答えたんだ。
「なんで？」って聞いたら。
「これが俺流の生き方だ！！」
って言ったな。
今から考えると、答えになってないけど、その頃はそう言った兄貴が格好良くて、必死に真似しようとした。
気がついたら、泣き虫じゃ無くなってたな。

それからいろいろあって、俺にも家族が出来た。
血の繋がった家族が。
生き別れだった妹の琴音との出会い。
俺とは似ても似つかない、可愛らしい娘だからビックリしたよ。
兄貴は『努力家なところがにてる』とか言ってたけど。

従兄弟である高野丸との出会い。
顔がそっくりでよく間違われたっけ。
昔は髪型も同じだったから余計にな。
そのことでかなり高野丸にも迷惑をかけた。
まあ、あの性格だから、気にしてないようだけど。
ああ、それからとんでもないじじい、妖奇老とも血が繋がってると知ったときは焦ったな。
フフ。
でも、ああいうのでも、一応は血の繋がった祖父さんだから大事にしないとな。
琴音が結婚して……相手が茨鬼と知ったときはビックリしたけど、アイツが幸せならそれで良いと思った。
それからしばらく経って甥と姪ができた。
あのとき、ついに俺も叔父さんになったわけだけど、実感が無かったなぁ。

もう昔からは考えられないくらい家族が増えたよな。
こんなに増えるなんて昔は想像も出来なかった。
けどな兄貴。
血が繋がってないとはいえ、俺にとって…………兄貴も立派な、かけがえのない……大切な家族だぜ。
琴音、高野丸に相談できないことも、兄貴になら相談できるし……困ったときはついつい兄貴に頼ってしまう。
もしかしたら、血のつながりなんて、ほんの些細なことかもな。

いくつになっても、俺にとって兄貴は兄貴。
これからも……宜しく頼むぜ兄貴！！！！！