隠忍伝説(サイドストーリー)
御琴ちゃん危機一髪?
novc 作
「これ受け取って下さい!!」
いきなり御琴の前に差し出された一通の手紙。
その手紙を差し出しているのは、同じ里に住む御琴と同い年くらいの男の子だった。
手紙の宛先には『拝啓 御琴様』と書かれてある。
その字からして並々ならぬ決意が感じられた。
「えっえっ!?」
唐突な出来事で困惑する御琴。
しばらく手紙を眺めていた後、ハッと思い出したように相手の顔を見た。
「お願いします!!」
男の子は御琴と目が合うと、もう一度念を押すように告げた。
その目はまっすぐ御琴の目を見ている。
あまりに真剣に見つめられるので、御琴は照れてしまい顔を真っ赤にして相手から背けてしまった。
その姿があまりにカワイイので、相手の男の子は思わず見とれてしまう。
一瞬の沈黙。
しかしその沈黙は、このシスコン兄さんによって破られた!!
「み~こ~と~!!!!!」
土煙を上げ音鬼丸は御琴に向かって走ってくる。
顔には青筋が立っており、うかつに近づくと……うわぁ~考えたくねぇ……
とっとにかく御琴に近づくハエ共を蹴散らすため音鬼丸はやって来たのだ!!
ちなみに双子というのは、何故か分からないが相手の事がなんとなく分かる事が多い。
ましてや隠忍である音鬼丸兄妹は、普通の人以上に感じ取る事が出来た。
御琴の異変を感じ駆けつけたのだ。
「お兄様!!」
急に音鬼丸が駆けつけてきたのでビックリする御琴。
音鬼丸から異様なオーラが発せられている。
間違いなくオーラに呑まれたら……止めておきましょう。
男の子は身の危険を感じると一目散に逃げ出した。
一方御琴はどうする事も出来なくてオロオロしてしまう。
音鬼丸は御琴の目の前で立ち止まると、周囲を見渡し威嚇する。
例えるなら……そう飢えた狼のようだ。
「定吉の奴……油断も隙もあったもんじゃない……」
音鬼丸は御琴にラブレターを渡そうとしていた男の子の事を思い出していた。
そして周りに危険が無いかどうか確かめると、御琴の方を向いた。
その血走った目を見て御琴は思わずビックリする。
ビックリしているつかの間、音鬼丸は御琴の両肩に手を当てると
「なにかされなかったか!?」
と御琴の顔に自分の顔を思いっきり近づけて叫んだ。
御琴はなんの事だか分からず唖然としてしまう。
しかしすぐに状況を把握すると、くすっと微笑んで
「なんにもされてませんよ」
と兄をなだめるように言った。
その御琴の顔を見て初めて音鬼丸は、いつもの柔和な表情に戻った。
それを見て御琴は
「まったくお兄様ったら」
と少々呆れ気味に言うと
「だって……さ」
と歯切れの悪い口調で御琴にそう言った。
苦笑いを浮かべながら。
一方その頃
定吉は友達のところに逃げ帰っていた。
ちなみに大勢いるわけでもなく定吉を含め3人しかいない。
「……今日も失敗か……」
定吉の帰還を見て、一人の男の子が声をかけた。
「ああ太平、今日も後もう一歩のところで音鬼丸に邪魔されたよ。」
定吉は声をかけてきた男の子に答えた。
「やっぱり音鬼丸か……アイツがいる限り御琴ちゃんに近づけないぞ」
太平と呼ばれた男の子は、もう一人の男の子に向かって言った。
「……やっぱり最大の難関は音鬼丸か……アイツとは昔、一緒に旅していたから分かるけど、そりゃ御琴ちゃんに対する思いは異常と言って良いほど凄まじい」
もう一人の男の子がそう答えた。
「そうか雁木丸」
定吉は、もう一人の男の子に声をかける。
もう一人の男の子=雁木丸は溜息をついた。
ソレを見た定吉は
「こうなったら3人で協力して告白しないか?」
と進言すると
「そうだそうだ」
太平もそれに続いた。
「……そうだな。サシの勝負じゃあ~負けが見えてる。こうなったら協力し合うとするか!!」
雁木丸がそう言うと、みんな拳を握りしめ天に向かって突き上げると
「俺たちは負けないぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
と一致団結していた。
ちなみにその頃の音鬼丸と御琴は……
「もうお兄様!!私の事ばっかりじゃなくて、もっと自分の事を考えないと!!!」
「う~ん……だってさぁ~」
と、たわいもない会話をしながら帰宅していた。
翌日
音鬼丸は、母にお使いを頼まれ帰宅途中のとき、太平に呼び止められた。
「お~い!!音鬼丸~こっちこっち」
「なにか用?」
「いいからいいから、こっちこっち」
手招きされるままに着いていく音鬼丸。
そして……
「今だ!!」
「うわっ何をする!!」
「速く押さえ込め!!!」
…………
………
……
「悪く思うな音鬼丸」
雁木丸がそう言った。
ちなみにココは使われていない倉庫である。
「ウグウグ」
音鬼丸は猿ぐつわを噛まされ、紐でグルグル巻にされていた。
「これも御琴ちゃんに愛を告白するため!!」
太平が続いた。
御琴と告白と言う言葉を聞いて音鬼丸は殺気立ち始める。
「そんな怖い顔をするな音鬼丸。終われば解放してやるよ」
定吉が言うと雁木丸が
「というわけで、御琴ちゃ~ん待っててねぇ~」
と言うと三人で倉庫に鍵を掛けて出て行った。
「ウグググ(みっ御琴ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ)」
「あっ御琴ちゃんが来たぞ!!」
いつも御琴が薬草を取りに行く道で、3人は待ち伏せしていた。
「音鬼丸の邪魔は無いし……今日こそ!!」
太平が拳を握りしめ熱くなっている。
「いいか……御琴ちゃんが誰を選んでも恨みっこ無しだぜ?」
定吉がそう言うと二人が頷いた。
「よし行くぞ!!!」
雁木丸の合図で3人が飛び出した!!!!
「御琴ちゃん!!」
3人は御琴の行く先を遮るように立ちはだかった。
「えっなっなに?」
いきなり3人も目の前に立ちはだかったので困惑する御琴。
そんな御琴にお構いなしに
「御琴ちゃん好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
3人声を揃えて告白した!!
ってこれが告白って言えるのか?
ストレートで良いかもしれないが、もう少し雰囲気ってもんがあるだろう~
御琴は唐突過ぎてなにがなんだかわからない。
しかし3人は目まで血走って……例えるなら発情期に入った猫……
御琴に迫る!!!
「さあ、御琴ちゃん誰を選ぶの?」
「僕だよね?」
「おいらだろ?」
3人は御琴の気持ちなんか考えず、さらに詰め寄る。
御琴は圧倒され後ずさりするも、下がった分だけ近づかれた。
もうどうしようもなくなって泣き出しそうになった瞬間
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
もの凄い轟音がした。
4人はその轟音に顔を受けると、その方向に巨大な光の柱が建っていた。
それは音鬼丸が閉じこめられている倉庫の方向だ。
「みぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
その声が聞こえたと同時に、一つの影が盛大な土埃と共に近づいてきた。
妹のピンチの時に現れる方といえば、そうこの人『音鬼丸』!!!
しか~し今回の音鬼丸は、ただの音鬼丸じゃありません!!!!
「なっなにぃぃぃぃぃぃぃぃ毘刹童子だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
雁木丸が、思いっきりビックリして叫んだ。
やって来たのは、毘沙門天の力を受け継ぐ『毘刹童子』!!!!
今回の音鬼丸はいつもより気合いが入っております!!!!!!
「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ御琴になぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁにしやがるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
そして、雁木丸・定吉・太平に拳を打ち込みまくり、盛大な音と共に吹っ飛ばす!!!!!!
…………3人はお空の彼方に消えていきました…………
「大丈夫か御琴?」
不埒な3人を吹っ飛ばした後、音鬼丸はすぐに御琴に駆け寄った。
しばらく目の前の何が起こったかわからなかった御琴だが、事態が飲み込めると音鬼丸に走り寄り、そして音鬼丸に抱きついた。
「なっなに御琴?」
音鬼丸はいきなり抱きつかれたので逆にビックリしてしまう。
御琴はさらにギュっと抱きしめ、こう告げた。
「……怖かったお兄様……」
「なにかされたのか!?」
―――もし御琴になにかあったら、地の果てまでもあいつらを追ってやる
音鬼丸はそんな事を考えた。
…………流石、妹の事になると性格まで変わるのね君は。
「ううん……なにもされてない」
その言葉を聞いて安心する音鬼丸。
安心したところで転身を解いた。
転身を解いた音鬼丸の顔を改めて御琴はまじまじと見つめる。
音鬼丸の顔はまだ心配そうな表情をしていたが、優しさにあふれていた。
御琴は改めて兄が私の事をどれだけ思っていてくれるか、分かったような気がした。
そして御琴は音鬼丸の耳の元でそっと囁いた。
「お兄様だぁぁぁぁい好き」
あとがき
…………妄想と言う名の野望と書いて『夢』と読みます。
とにかく、音御の話が書きたくて、その思いのままに書いたらこうなりました。
いえ、身体が勝手に書いたんです。
手が……手が……勝手に書いたんです。
ですから僕は悪くありません(爆)
冗談はさておき、「お兄様だぁぁぁぁい好き」ってこのセリフを御琴に言わせたくて書いたと言っても過言では無いこの話。
結構前から考えていたんですよね~。
本当は別の音御話考えていたんですが、予想以上に長編になったので、こっちが先にお目見えしました~。
きっと御琴はモテモテでそれを守るのが兄の日課だと勝手に考えております。
天地丸も場合によっては、御琴のガードしているかもしれません。
で、次回の小説の予告ですが……まだどれを公開するか考えてません(爆)
きっと濁酒シリーズが最有力だと思いますけど……
それ以外に別の酒ネタで考えている奴があるんですが……なっなんと新隠忍伝説以外で初めてと言っていいほど『シリアス』な展開です。
もう一度言います『シリアス』な展開です。
酒ネタでシリアス……さあどんな話でしょうか(笑)
きっと皆さんが予想もしていない展開……だと思います。
……勘の良い方なら分かるかも……
novc
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