ONIの里

ここは(株)パンドラボックス【現(株)シャノン】
(株)バンプレスト【現(株)バンダイナムコゲームス】
より発売された和風RPG「ONI」シリーズのファンサイトです。

Index > 隠忍伝説〔サイドストーリー〕 >現在位置

隠忍伝説(サイドストーリー)

大切な人に送る祈り 第二部 ~“兄妹”と言う名の厚い壁~

ヒツジさん 作

琥金丸がいる時代から丁度300年前の同じ時間同じ季節の異次元の隠れ里に天地丸はいた。
 

前回の旅から一年後、彼は自分の妹である琴音と琴音の夫で親友の茨鬼童子、そして共に旅をしたことがある甥の音鬼丸に会いに来た、その日はもう夜が近かった。
 
「琴音、元気にしてるか?」
 
「まぁ兄さん、久しぶりね。」

「ああ、本当に久しぶりだな、茨も元気そうで何よりだ、ところで音鬼丸がいないようだがお使いにでも行ったのか?」

「それがな、天地丸」

「どうした? 茨」

「最近音鬼丸の様子がおかしいんだ、御琴が琥金丸について行ったあと、しばらくは何も変わりなかったがここ最近妙に元気が無くなったんだ」
 
「どんな風に?」

「それがね、最近夕餉を食べ終わるとこっそりとどこかに出かけてしまうのよ、最近いばらが音鬼丸が夜に近くの見晴らしのいい丘に立って一人でたってじっと何かを考えているんだけどなにを考えているのか音鬼丸は話してくれないのよ」

「そうか、気になるな・・・」

「天地丸、一回でいいから音鬼丸と話をしてくれないか?」 

「ああ、分かった、甥の為だ、話を聞いてやろうじゃないか」

「兄さん、よろしくお願いしますね」

「任せとけ、琴音」

天地丸はなぜ音鬼丸の様子が変なのか見当がついた

(多分、あの事を思っているのだろう、そろそろ“これ”を渡す時だな)






その日の満月の夜、異次元の隠れ里近郊にある丘に音鬼丸は立っていた、顔は丘の下にある広い草原を見ているのだが彼の中には草原は目には入ってなかった。

(御琴、懐かしいな、よく二人でこの丘の上から景色を眺めたんだよな…… けど…)

“私の言った通りだな”

“佳夜”の声が聞こえた気がする、もしかしたら自分を慰めるために勝手に作り出した幻聴かもしれなかった。

(“御琴の想いを尊重する”って思っといて、いざとなったらこの様だ、あの時と何にも変わっちゃいない。 “佳夜”に笑われちゃうね…)

音鬼丸はうつむき、眼は開いているが何も見ず、景色と同化する様に立っていた、しかし

「ここにいたのか音鬼丸」

音鬼丸は振り向く、そこにはかつて共に旅をした伯父の天地丸が立っていた。音鬼丸は天地丸を見た後、すぐに目線を戻す、天地丸は何も言わずに彼の隣に立つ。
 
 
二人の間にしばらくの沈黙が続いた。
 
「音鬼丸」
 
「…」

「御琴の事を考えていたのか?」

「…はい」

「そうか」

また二人の間に沈黙が流れた、しばらくその場は穏やかな風の音しか聞こえなかった。


「御琴の事が心配なのか?」

「いいえ」

「嘘をつくな」

「何故分かったのです?」

「顔を見れば分かる。」
 
「そうですか…」
 

月の光でこの丘の風景は幻想的な風景になっていた

「伯父上は、僕のこれから言うことを誰にも言わないと約束してくれますか?」

「ああ、約束しよう」

「ありがとうございます」

音鬼丸は語り始める。

「僕と御琴はよく二人でここに来て、色んな事を話したり考えたり、笑い合って、のんびり景色を眺めて、僕にはその時間が本当に好きでした。あまつみかぼしを倒した後、御琴が帰って父上と母上と僕と平和な暮らしができることになったときは本当に嬉しかったです、御琴といると、なぜか心が凄く満たされるんです」
  
天地丸は黙って話を聞く。
 
「けど琥金丸さん達を人間界に送るときに御琴が琥金丸と一緒に行きたいと言った時は本当に驚きました、僕は御琴が自分で行きたいならそれもいいだろう、御琴の気持ちを尊重しよう、と思って送り出したのです」

「……」

「御琴と離れたときは少し寂しかったのですけどしばらくは大丈夫でした、しかし、しばらくして心のどこかに何かが足りないのに気がついたんです、月日が流れるにつれてその心の隙間が大きくなって、御琴のことを思うと本当に心が苦しくなるんです、夜にここに来るようになったのは心が苦しみ始めた時からです」

「そうか…」

「僕は何度もこの思いを断ち切ろうと努力しました。けど御琴のことが忘れられなくて彼女のことを思ってしまうのです、叔父上、僕は考えてはいけないことを考えてしまったのかも知れません……」
 
天地丸は音鬼丸の顔をじっと見つめた、音鬼丸の目には涙が溜まっていた。


「お前は御琴の事を愛しているのか?」

「妹としては、御琴は本当に大切な人です」

「妹としてではなく、一人の女としてだ」

「…僕は…」

「すまない、変な事を聞いてしまったな、それ以上は答えなくていい」

「はい」

そこまで聞いて天地丸は予想が当たったと確信した、当然あまり嬉しくない結果だが。

(やはり、音鬼丸は御琴を…。 無理も無いか、命懸けで助けて、おまけに音鬼丸は年頃だ、もしも音鬼丸と御琴が兄妹では無かったら二人は…)

なぜ音鬼丸が苦しんでいるのか、天地丸は即座に理解する。

(“兄妹”と言う名の厚い壁が、音鬼丸を苦しめているのか…)

しかし、伯父として、音鬼丸をこのまま放っては置けない。

「兄が自分の妹の事を大切に思うことは悪いことでは無い」
 
「………」

「ましてやお前の場合生まれてから十五年、妹と全く面識が無かったのにも関わらず会いたいと願い、御琴を探すに長い旅をして、命懸けで御琴を救い出した」

「………」

「15年間お互い会えなかった分お前は御琴に兄としての優しさを与えた、その優しさを受け取った御琴は本当にお前に感謝していた。お前は御琴にとって最高の兄だ」

音鬼丸の苦しみを解決するには御琴への想いを昇華させるしか方法は無いと天地丸は判断した。

「しかし、僕はもう御琴に会えることが出来ません、もう御琴に対して何も出来ないんです。僕にはそのことが本当に悔しくて哀しくて虚しいのです……」

「そんな事言うな!」

「……!!」

ようやく音鬼丸が自分を見る。

「御琴が300年後にいるから何も出来ないなんてそんな自分勝手な事言んじゃない!」

「なら、僕は何をしたらいいのですか?」

天地丸は音鬼丸の眼をじっくり見て

「無理に自分の気持ちを押し込む必要は無い。御琴の事を絶対に忘れるな」

「御琴の、事を…?」

「御琴は自分にとって大切な人と思い続けろ、その思いはいつか御琴に届くはずだ、御琴はお前の“半身”だからな」

(そう思えば、何とかなるだろう…)

音鬼丸は何かを考えているように見える、すぐに音鬼丸は口を開いた。


「……叔父上」
 





「何だ?」






「……ありがとうございます」





「ああ」



(どうやら、分かったようだな)

音鬼丸は天地丸に感謝の言葉を言った、その言葉は、何かを悟ったと音鬼丸は天地丸に言ったように聞こえる。



「僕はもう少しここに居たら帰ります、父上と母上にはそう伝えてください。」
 
「ああ」

天地丸はそこから立ち去ろうとする寸前

「音鬼丸」

「なんでしょう?」

「御琴と別れる直前、手紙を渡された」

「手紙、ですか?」

「ああ、お前に宛てた手紙だ」

「僕に…」

天地丸は懐から一枚の紙を取り出し、音鬼丸に手渡す。

「読むか読まないか、自分で決めろ」

「はい」

天地丸はそこから立ち去った

(お前が泣いていた事は黙っていよう。強くなるんだ、音鬼丸)







音鬼丸は御琴の手紙を読むのを少しためらった。

(何がかかれているんだろう…。何か嫌な予感するな…)

その“嫌な予感”とは何かと聞かれると、音鬼丸は自分でも上手く説明できなかった。

しかし手紙を読まずに破り捨てたら御琴に対して失礼だと思った音鬼丸は意を決意し手紙の封を切る。既に周りは暗くなっているのだが、月明かりが非常に明るく、問題なく手紙を読めた。

御琴の字は、相変わらず細くて綺麗で読みやすい。



「拝啓 音鬼丸様

この度、自分勝手な行動をして、本当に申し訳ありません。
琥金丸さんを好きになった理由と、お兄様の生きる世界から300年後の世界に残った理由をここに記します。

今思えば、最初、なぜ琥金丸さんを好きになったのか分かりません。
初めて会った時、何か変な感じがして、二回も助けられ、もっと彼の事を知りたい、一緒に居たいと思い、付いて行きました。

時が経つほど琥金丸さんへの気持ちは強くなりました、しかし私は過去の人間、琥金丸さんは未来の人、いつか別れなければならない、それが運命だと思っていました。
全てが終わったら、私はお兄様達のいる世界に戻り、琥金丸さんへの想いを、ずっと胸の中に、ほんの少しの後悔の思いを残して生きていたでしょう。

しかし、伽羅さん(伽羅さんとは、琥金丸さんの幼馴染で、琥金丸さんに想いを寄せていた人です)が、死ぬ間際に私に言い遺した事が,
私をこの世界に残ることを決心した一番のきっかけです。

伽羅さんは私に“琥金丸を、お願い…”と言い遺しました。

伽羅さんの事を思うと、帰る訳にはいかない、伽羅さんが居なかったら、私はこの世界に残る決心が出来ませんでした。

わがままかもしれないのですが、自分の心に、正直に生きようと決めた事です。

お兄様に謝罪の言葉を送ります。この度の御迷惑、誠に申し訳ありません。    御琴」




追伸

書くべきか迷いましたが、最後の機会ですのでここに書きます。

実は、私が倒れて意識を失っている時に見た夢に出てきた人は、お兄様だと知っていました。

お兄様は私に“御琴には、君を思ってくれる人、大切にしてくれる人、そして、 愛してくれる人がいる”と言って下さいましたが、お兄様も、様々な人たちに愛されていますよ?

お父様やお母様、私を助けて下さったお兄様のお仲間…。そして、私もお兄様の事を、大切に思っています。

先ほどお兄様に謝罪の言葉を送りました、傲慢かもしれないのですが、感謝の言葉を送りたいと思います。

お兄様、本当に、ありがとうございました。いつまでも健やかで、平和に、幸せに暮らせるようお祈り申し上げます」










音鬼丸は一度見た後も、繰り返し手紙を読み続けた

(御琴は、こう思っていたのか…)

全て暗記してしまうのではないかと思うほど何回も読み直す。

(“佳夜”、御琴の優しさは全く変わってないよ、“佳夜”から見れば馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、僕は御琴の優しさがちっとも変わってないことを知ることが出来てとても嬉しいよ)

御琴からの手紙を大切に折りたたみ、懐に入れる。

(ありがとうございます伯父上、僕は何をすればいいかが分かりました。ありがとう御琴、僕は何を考えればいいか分かったよ。)

音鬼丸は決意を固めた表情で、満月を見上げる。



この伝説の感想はこちらへ
作者  さん