ONIの里

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隠忍伝説(サイドストーリー)

兄妹の絆 後編

ヒツジさん 作

そこは漆黒の闇が遥か彼方まで広がっている、は上下左右暗闇が広がっている空間に、音鬼丸一人ぽつんと立っていた

「ここが、御琴の心の中なのか…?」

ここが御琴の精神世界だと思うと、音鬼丸は絶句した。そこは漆黒の闇以外、何も無い。

「ここで立ち止まっちゃ駄目だ、御琴を探さないと」

音鬼丸は暗闇の中を走り出す。

「御琴ーー!聞こえていたら返事をしてくれーー!」

どこまで行っても闇は晴れることは無かった、音鬼丸は不安になりつつも、御琴を探していた。

(どこに居るんだ、御琴)

なかなか御琴を見つけることが出来ない音鬼丸は焦りを感じ始める、しかし、




(音鬼丸… 音鬼丸…)

声が聞こえた、その声は御琴にそっくりの声だった。

「御琴…、なのか…?」

しかし、音鬼丸は御琴の声とは少し違うと直感的に思った。

「御琴…、…違う。この声は、“佳夜”、なのか?」

“佳夜”とは、御琴が昔妖怪に攫われ、操られていた時の呼び名だった

「“佳夜”、何故君が此処に?」

(私は御琴のもう一つの人格だ)

「君が御琴を苦しめているのか!?」

音鬼丸は暗闇に呼びかける。しばらくして、返事が返ってきた。

(確かに、私は御琴を苦しめているかもしれない、しかし、私だけでは無い)

「じゃあ、他に誰が御琴を苦しめるんだ!?」

(御琴を苦しめているのは音鬼丸、お前だ)

“佳夜”は冷たく言い放つ。

「僕が、御琴を苦しめているなんて、そんなでまかせを言うんじゃない!」

(ならば、お前は御琴の事を、どこまで知っているのだ? 何を考えているのか全て分かるのか?」

「それは…」

音鬼丸は反論の余地が無かった、御琴の兄だと言っても、最近になって一緒に暮らし始めたぐらいで、御琴もあまり自分の思っていることを喋らなかった。

(お前に、御琴が救えるのか?)

「…救える! 僕が御琴を救ってみせる!」

(甘いな)

「何が!?」

(お前に私の行った事を見せる。見せた後、もう一度同じ質問をしよう)



目の前に何か映像のようなものが流れてくる。

一番最初の映像



深い森の中に立っている“佳夜”は数十人の退魔師や呪殺者に囲まれていた。

“佳夜”を囲んでいる人達は“お前が元凶の主なのか!”“私がお前を止めてみせる”と口々に叫んでいる。

男達の半分は“佳夜”に対して一斉に呪文を唱え始める、残りの男達は槍や刀を構えて突進する。

“無駄な事を…”と呟き、 “佳夜”は両手を前に掲げる、すると何らかの呪いを掛けられたらしく、一斉に男達が苦しみ始める。

“永久に、眠るがいい”

“佳夜”が言い放つと、男達は倒れる、全員絶命してるようだった。

“佳夜”はその場から姿を消した、“佳夜”が姿を消すと映像は消えた。



別の映像が流れ始める。



今度はのどかな村の様子が映っていた、以前音鬼丸が御琴を探す旅の途中に立ち寄った“たがけ村”のようだ

人々は商売をし、畑を耕し、世間話をして笑っている、どこの村にもあるごく普通の村の様子だった

しかし、突然村に地震が襲う、村人は突然の地震にかなり驚いているようだ、村人達は空を見上げ、驚愕する

津波が、村を襲っている、村人達は必死に逃げ惑うが津波は無常にも迫ってくる。

音鬼丸は逃げ遅れた人々が津波によって流されていく様子を見てしまった、あの津波は自分も巻き込まれたのだが実際の津波は大勢の人も巻き込まれていたと知ると、恐ろしくなる。

なんとか津波から逃げ切った人達が、津波の後の村を訪れ、津波に攫われた人たちを探している。
子供が自分の母親を探して泣き叫ぶ声、とある子供が自分の母親らしき人を見つけ、死んだとも分からずに呼び続けている、若い男性が、恋人らしき女性の死体を見つけて、死体を抱いて泣き叫んでいる。

二つ目の映像は、そこで途切れた。

三つ目の映像は、ある城の天守閣で“佳夜”が城主らしき男と向き合っていた。

“お前は何者だ! 私に何をするのだ!”

部屋には、数十人の護衛らしき侍が倒れている、どうやら“佳夜”に返り討ちにされたらしい、“佳夜”の隣には、緑色の蒸気らしき物体が宙を彷徨っている。

“行け” “佳夜”が緑色の蒸気に命令すると、蒸気は城主の体を包み、苦しめ始める、徐々に蒸気は城主の体の中に侵入する。

やがて、蒸気が完全に消えた。

“やつがはき”よ、お前はあまつみかぼし様に代わりこの地を支配するのだ”

“佳夜”様、仰せのままに”

城主は、“やつがはき”に乗っ取られた、

この他に、音鬼丸は“佳夜”の行った様々な場面を映像として見せられ、そのほぼ全てが何らかの人物の殺害に直接、間接問わず関係していた。





音鬼丸は絶句している。

「こんな事が…」

(真実を知ったようだな)

“佳夜”が静かに語りかける。

「“佳夜”、本当に君がやったことなのか?」

(ああ)

「これは、御琴がやったことじゃなくて、“佳夜”のやったことじゃないか?」

(お前は何も分かってないな、失望したよ)

冷たい、一言だった。

「え?」


(確かに私のやった事だが、御琴は全て自分が行った事だと思っている)

「そんな…!」

(御琴は、馬鹿みたいに優しすぎる、だから自分の意思でやっていない事も “自分がやってしまった”と思い込んで、その事を誰にも言わずに、一人で御琴は苦しんでいる)

「何で、そんな事を知ってる?」

(私はもう一人の御琴だ、自分の考えることぐらい分かるさ。少なくともお前よりな)


油断していた、双子だから、言えなくても待てば御琴から言ってくれる、その内分かると、勝手に思っていた。

「…最低だな僕は。御琴のことを、何にも知らかった。それなのに、僕って奴は…」

兄として、失格だ…。  心から、思う




(もう一度聞く。お前に御琴が救えるか?)

沈黙が続いた、しばらくして音鬼丸が弱々しく呟く




「正直、分からないよ…」

さっきとは裏腹な、覇気の無い返事だった。

(そうか。ならばお前は御琴をこのまま見捨て、苦しめ続けさせるのか?)

「そんな事できるわけ無いじゃないか!」

(では、どうするのだ)

「…御琴に、僕の胸の内を全部打ち明ける。それで助かるって保障は無いけど、それでも僕は…」


身勝手かもしれないけど、御琴を、


(そうか、見せてもらうぞ、お前が御琴に何を話すのか)

“佳夜”の声はそこで途切れた。


代わりに、御琴の姿が、前方に現れた、少し距離があるようだ。


「あそこか!」

音鬼丸は走り始めた、すると

(“佳夜”の罪は、私の罪…)

「御琴!?」

頭の中で響いた声は、“佳夜”では無く、正真正銘、御琴の声だと音鬼丸は直感した。

(罪を犯したら、必ず罰を受けななければならない…)

「御琴は、何を言っているんだ…?」

音鬼丸は疑問に思ったが、

(罪を償う方法は、私が、死ぬ事)

「なんでそんな事を…!」

御琴の言葉を聞いて、音鬼丸の背筋に冷たい汗が流れた。

(私が死ねば、それで済む…)

「それ以上言ったら駄目だ!」

もう少しで、御琴のところまで辿り着く、音鬼丸は更に走る速度を上げる、そしてついに




「御琴!」

音鬼丸は御琴の所まで辿り着いた、音鬼丸は御琴の向いている方向に回り込む。

「大丈夫か!御琴!」

御琴は立っていた、眼には光が無く、眼の色がいつもより霞んでいる。

「しっかりするんだ!」

音鬼丸は御琴の肩に手をかけて揺さぶった。

「“佳夜”の犯した罪は、私の罪」

しかし御琴は音鬼丸の存在に気づいていないらしく、ぼそぼそと喋り続けている。

「罪を犯したら、罰を受けなければならない。だから私は…」

「…御琴…」

音鬼丸は御琴に近づき、そっと、優しく抱きしめた。御琴の肌は、氷の如く冷たい。

「僕の話を、聞いてくれないか?」

御琴から返事は返って来なかった。

「御琴、僕は君の事を、何にも知らなかった。それなのに僕って奴は、御琴の全てを知ってる振りをして、勝手に自分は御琴にとって良い兄さんだろうって、勘違いをしていた」

音鬼丸は静かに御琴に語り続けた。

「僕は、君に色んな事をしてあげたけど、それって全部僕の勝手な自己満足だったって、ここに来てから気づいたんだ」

「……」

御琴は、何も喋らなかった、しかし音鬼丸は、自分の言葉が御琴に届いていると信じ、喋り続けた。

「御琴が苦しんでいる時も、僕は何も知らず、何も出来ずに君を苦しませた、本当にごめん。僕って、本当に最低な兄さんだよね…」

目には、涙が溜まっている、音鬼丸は自分の言葉が御琴に届いていないのかと、とてつもなく不安になった。しかし



「そんな事、ありません」



御琴は、ゆっくりと喋り出す。

「御琴…?」

驚く音鬼丸を他所に、御琴は自分の胸の内を語り始める。

「私が“佳夜”であった時、お兄様達にとても酷い事をしてしまいました。自分が“佳夜”では無く、”御琴”である事を思い出した時、私は不安になりました。」

「え?」

音鬼丸は静かに尋ねた

「私の行った事に怒っていると思い、私を嫌っているのではないか、と思っていた時期がありました。しかし、お兄様は私に様々な事を教えてくれ、私を大切にして下さりました。」

御琴の声は、少しずつ明るくなっている。

「お兄様がどのような気持ちや考えで私に接して下さったのか分かりませんが、お兄様は私にとても良くして下さいました、その事に私は感謝しています。それに、本当に嬉しかったです。」

ここまで聞くと元に戻ったようだったが

「しかし…」

突然、御琴の声が暗くなる。

「私は大勢の人達を殺し、津波で沢山の人を死なせて、信之助様の兄上を妖怪にし、お兄様達を危険な目に会わせました…」

「…」

「“佳夜”の罪は、私の罪です。だから私は罰を…」






音鬼丸は、ここが御琴を救う最後の機会だと悟った。

「それ以上、言っちゃ駄目だよ」

「しかし…」

「君は、一人で色んな事を、背負いすぎているんだ」

「…」

「御琴には、君を思ってくれる人、大切にしてくれる人、そして、 愛してくれる人がいる」

「え…?」

「砦角さん、高野丸さんと秘女乃さん、父上と母上や伯父上。みんな御琴の事を大事に、大切に思ってくれる」

音鬼丸は少し間を置く。

「もちろん、僕もね?」

「お兄様…」

「御琴は一人じゃない、支えてくれる人が沢山いる。だから無理しないで、言いたいことを言って、少しだけわがままを言ったり、甘えても良いんだよ?」

音鬼丸の眼から涙が零れた。

「それに、君は僕にとって、大切な、たった一人の妹なんだ…」

「…」

「だから、君には生きて欲しい」

「…」

「僕が、一緒に付いてるから…」





暗闇の世界に、光が入り始める。

氷のように冷たかった御琴の肌が少しずつ、熱を取り戻したことを感じた。

「ありがとう、ございます…」

自分の背中に、御琴の腕が回ってきたのを肌で感じた。

音鬼丸は顔を左に向けると、御琴と眼が合う。御琴の眼を見ると、光が戻り、綺麗だった。

「また、お兄様に救われましたね?」

「御琴…」

「お兄様がこの世に存在していなかったら、私はずっと孤独のままでした…」

「ありがとう、御琴。君の笑顔がもう一度見れて、本当に嬉しいよ」

音鬼丸は、本当に安心した。しかし御琴の顔を見ると、何かを我慢しているように見える。

「ねぇ御琴?」

「はい」

音鬼丸は、御琴が何を我慢しているかが即座に分かった。

「泣いても、良いよ。沢山、沢山ね?」

今までに無い、優しい口調で音鬼丸は喋っている。

しかし御琴は躊躇っている、音鬼丸はもう一度話しかける。

「僕が、側に居るから…」

「…はい」

御琴の、初めての慟哭を、音鬼丸は聞いた。

最初は、すすり泣き程度だった、しかし徐々に泣き声が大きくなっていた。音鬼丸の胸元に顔を埋め、御琴は、悲しみと、喜びの混じった涙を流している。






(まさか、本当に救えるとはな)

“佳夜”の声が頭の中に響く


(御琴が何に苦しんでるのか知る事ができたのは“佳夜”のおかげだよ。本当にありがとう?)

音鬼丸は心の声で“佳夜”に呼びかけてみる、すぐに返事が戻って来た。

(何を馬鹿なことを、私はお前の為にしたのではなく、全部自分の為にやったことだ)

(けど、“佳夜”は僕に色んな事を教えてくれたじゃないか。その事を教えてくれなかったら、僕は御琴を救えなかった)

(自分を大切にしない人間が、どこに居るのだ?)

(それも、そうだね?)

音鬼丸は“佳夜”の主張に何処か納得した。

(まあいい、さようならだ、音鬼丸。もう二度と話すこともないだろう)

いざ“佳夜”と喋れなくなると思うと、寂しく感じる。

(さようなら、“佳夜” 幸せにね?)

(お前も、御琴を苦しめた私に“幸せにね”なんて言葉を吐いて、つくづくお前は馬鹿みたいなお人良しで妹思いだな。顔だけじゃなく優しさの強さもお前達は瓜二つだ)

(褒め言葉として受け取っておくよ)

“佳夜”の強烈な皮肉を音鬼丸は軽く聴き流した。

(最後に聴きたい事がある)

(聴きたいことて何?)

(お前は、御琴を妹としてではなく、女として愛しているのではないか?)

突然であったが音鬼丸は冷静に考え、答えを出す。

(…御琴は、僕の大切な妹だ。それ以上の事は思ってないよ)

(ふふふ…。 そうゆう事にしといてやろう。その優しすぎる心と御琴を想う心、自らを傷つけなければ良いがな)

(え?)

(いつか分かる時が来るだろう。さらばだ、音鬼丸)

意味深げな笑いの後、“佳夜”は別れを告げる、それ以降“佳夜”の声は聞こえなくなった。

(僕が泣いてる所、“佳夜”に見られちゃったかな?)

徐々に強くなってくる御琴の腕の力を感じ、音鬼丸は少しだけ、御琴を抱きしめる力を強くする、音鬼丸の顔には涙が流れた跡が残る。

意識が遠くなる、もう少し、この華奢な体から感じる温かさを抱きしめていたいと、音鬼丸は思った。


























気が付いたら、そこは高野丸の家だった。

「御琴!」

目覚めた音鬼丸は慌てて御琴の側に座った、秘女乃が優しく音鬼丸に語り始める

「大丈夫よ、体温も元に戻ったし、呼吸もしっかりしているから」

「良かった…」

音鬼丸は御琴の寝顔を見て安心した、気持ち良さそうに御琴は眠っている。

「ありがとうございました、高野丸さん、秘女乃さん。」

音鬼丸は二人に向かって頭を下げた。

「良いんだよ、音鬼丸」

「そうよ? 私も御琴さんが元気になって安心したんだから」

二人は笑顔で音鬼丸に答えた

「今日はこのまま寝かせておいてあげよう、今日は泊まっていくかい?」

「いえ、適当に宿を探して泊まります。」

「本当にそれでいいの?」

「ええ、御琴をお願いしますね?」

音鬼丸はどこかぎこちない様子でそそくさと高野丸の家を後にした。

「きっと、御琴さんの寝顔を見て、急に恥ずかしくなったんでしょうねぇ」

「ああ、そうみたいだね。」

二人は音鬼丸が出て行った後をのんびり眺めていた。


「秘女乃?」

「なぁに?」

「音鬼丸って、やっぱり面白いね?」

「ええ♪」

音鬼丸の出て行った様子を思い出し、二人は笑いを上げる。





翌朝、体調が回復した御琴はなぜ高野丸の家に居るのか分からなかった、どうやら、宿屋で意識を失った頃からの記憶が無いのだろう。

「本当に、ご迷惑を掛けてすみませんでした。」

御琴がぺこぺこと二人にお辞儀をする

「いいのよ御琴さん。久しぶりにあなた達に会えて嬉しいんだから。」

「私も、高野丸さんと秘女乃さんに会えて嬉しいです、そうですよね?」

御琴はいつもの笑顔が戻っていた。

「ああ、もちろんだよ」

音鬼丸は御琴の笑顔を見て

(ああ、やっぱり御琴は笑顔が一番だなぁ…)

と兄馬鹿ぶりを発揮していた。

「御琴、今日も墓参りに行くのかい?」

「はい、それが今回の目的ですから」

高野丸は相変わらず爽やかだ。

「御琴さん? また遊びに来てね?」

「はい!秘女乃さん」

「高野丸さん、本当にお世話になりました」

「ああ、琴音さんと茨鬼さんによろしく伝えといて、ちゃんと御琴を見てるんだよ?」

「もちろんです!」

音鬼丸は妙に張り切っていた

「御琴、そろそろ行こう?」

「はい、お兄様」

「二人とも、道中気をつけて」

「また遊びに来てね?」

「高野丸さん、秘女乃さん、さようなら!」

「お世話になりました~」

別れを告げると、音鬼丸と御琴は高野丸の家を後にした。

「何か、心配ね…」

「え?」

秘女乃が心配そうに呟く

「何が心配なんだい、秘女乃?」

「あの二人は仲が良すぎるから、お互い本気で好きになったりしないかしら?」

「心配要らないよ、音鬼丸にそんな度胸無い、それに純粋に妹としてしか見ていない、万が一好きになっても彼は奥手だからね?」

「それもそうね~」

秘女乃がのんびり言った、高野丸は“そんな事が起こりませんように”と心の中で願う。







高野丸の家に泊まってから数日後

音鬼丸と御琴は墓参りを終え、異次元に帰る途中の人気の無い広い見渡しの良い街道を歩いていた、左には川原、右には林が見え、林の置くには丘があった。。

「御琴、大丈夫?」

「今度は本当に大丈夫です」

「よく眠れたみたいだからね」

「ええ、良い夢も見ましたし」

「どんな夢なの?」

音鬼丸は何か嫌な感じがした。

「暗闇の中に私一人だけ立ってたんです。」

(も、もしかして…)

「周りは見渡す限り真っ暗で、怖くて不安でしたが、誰かが私の所に来て…」

そこまで聞いて音鬼丸は妙な罪悪感にを感じた、一部始終知っているだけに余計罪悪感を感じる。

「あぁ…。 改めて思い出すと恥ずかしいです…」

御琴の顔を見ると、うっとりとした表情で頬を紅く染めている

「誰かが私を、抱きしめてくれました…」

(や、やっぱり…)

「夢の筈なのに、その感触は鮮明に覚えていて、その事を思い出すと、胸がどきどきします」

「みみみみ、御琴…?」

御琴を抱きしめたのが音鬼丸だと本人は知らないようだったが、それでも音鬼丸はかなりうろたえている、今思えば、あの時自分は“よく御琴を抱きしめられたな”と思う。

恐らく、御琴の生命の危機と言う機会だからこそ出来た芸当だ、もう一度同じ事をやれと命令されても絶対に出来ないだろう、と音鬼丸は思った。

「今までは、眠るのが怖かったのに、その不思議な夢を見たら安心して眠れるようになりました。  …お兄様?」

「あううう、ええ?」

動揺する音鬼丸。

「どうしたのです? そんなに慌ててしまって。高野丸さんの家に何か忘れ物をしたのですか?」

「いやいやいや、そんなことは無いよ」

首や手を必要以上に振って音鬼丸は否定する。

「…?」

「そっか、良い夢を見たんだね? うんうん、よかったよかった、本当に良かった」

誰がどう見ても不自然な作り笑いを音鬼丸は浮かべ、そんな音鬼丸の顔を御琴は不思議そうに見ている。

「…お兄様っておもしろい御方ですね?」

「あはははは…。 行こっか?」

「はい♪」

げんなりして元気の無い音鬼丸と普通に元気そうにしている御琴は歩き始めた、しかし御琴は音鬼丸に近づいて

「…ん?」

しばらく何が起こったか理解できなかった、しかし自分の右手を見ると。

「みみみみ御琴!!!????」

驚くことに、御琴は音鬼丸の手を握っている、傍から見たらどっからどう見ても恋人同士だ。

「あわわわ… こんな所見られたら恥ずかしいよ…」

そわそわし、再びうろたえ、顔を紅くする音鬼丸に御琴は笑顔で答える。

「大丈夫です、周りには誰もいませんから、恥ずかしがらなくてもいいですよ?」

「う、うん…」

御琴の手は本当に温かかった、心臓がいつもより速く鼓動を起こして苦しいが、不思議に悪い気分ではない。

「こうゆうのも、たまにはいいかなぁ…」

どうやら開き直ったようだ、そうでもしないと一歩でも前に進めない。



「お兄様?」

「なんだい?」

二人はお互いの顔を見詰め合う。

「本当に、ありがとうございます」

「?」

「私は、お兄様が私の兄様で、本当に嬉しいです!」

「ほ、褒め過ぎじゃない?」

「いいえ、思ったことを言っているだけですよ?」

(御琴は、僕が御琴の心の中に入ったって事、気づいちゃっているのかなぁ…?)

御琴の心の中に音鬼丸が入った事を当の本人が知っているかどうか分からなかった。



御琴の心の中に入った時を思い出すと、“佳夜”の最後の質問を思い出す。

“お前は、御琴を妹としてではなく、女として愛しているのか?”

(“佳夜”。ただ一つ言える事は…)

存在しないはずの人物に心の中で話しかける。

(僕は、御琴の気持ちを尊重する、それ以上の事は思わない。僕の思いは…)



その時は、その時だ。















音鬼丸は正直にそう思ったが、音鬼丸が御琴の思いを尊重しようとする機会は意外と早く来る事を、音鬼丸はこの時、微塵も思っていなかった。



 *~あとがき~


この話を書くきっかけは単に「音鬼丸×御琴」で何か作りたいな~って理由なんですが、もう一つあります

“大切な人へ送る祈り”と“幼馴染と過ごした誕生日”を修正したいと思い、先に後者のほうを修正したんですが、ちょっとした思い付きで“幼馴染と過ごした誕生日”は“大切な人へ送る祈り”とリンクさせちゃおう!って事を思いついたのですが、そう考えると音鬼丸と御琴の方もフォローしなきゃいけないんじゃないかって思って書きました。
この話はONIⅤで琥金丸が天地丸や高野丸たちの居る時代に来る数ヶ月前の話です。

「御琴の精神世界に“佳夜”の人格が存在する」と言う設定は公式では無いので悪しからず、「音鬼丸は朝に弱い」って設定は「何か一つぐらい欠点が無ければ!」と言う発想です。

やっぱり心理描写とか言い回しをなるべく被らない様にしたりするのが大変でしたが、最後の音鬼丸と御琴の掛け合いは本当にスラスラ打てて楽しかったです。
「兄妹」って言う壁が分厚いなぁ… そっちの方が二人にとって良いのか…

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作者  さん