~ONIの里~は(株)パンドラボックス【現(株)シャノン】
(株)バンプレスト【現(株)バンダイナムコゲームス】より発売された
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メイア達が転移してから、時間が掛かり過ぎている事で疑問を抱いていたオウランは、時空間の様子を観察していたジャドの部屋に居た。
オウランの部屋とは全く違い、天井と壁は無数の機械とそれを繋ぐ線で埋め尽くされており、床はようやっと人が歩けるくらいの状態のもの。
下あるいは上へ向かう為の昇降機が部屋の片隅にあるものの、専用のものである為に光の壁が筒状に展開されている。
そんな部屋の主であるジャドもメイア達の向かった場所の重点的に調べていた所であったが、こちらは特に慌てた様子は無かった。
予測していたらしく、オウランが来るよりも早くメイアの足取りを辿りつつ、それ以外の動きを捉える計測器の動きも見逃していない。
機械端末を正確かつ迅速に操作出来るその手腕は、まさに羅士達の頭脳、参謀とも呼べるものだ。
「……此処だ。座標も指定完了、と。僕はもう少し調べ物をしなきゃいけないから、オウランが行ってよ」
「言われずともそうする。では、しばらくの間頼んだ」
淡々とした様子で退室したオウラン。
だが彼女がメイアを追って転移した所で、ジャドの表情が不気味な笑みで歪み始めていた。
「この時代に居たんだぁ、ONIが……しっかりと調査しておかないとね~」
機械の、水鏡を思わせる四角い板。
ジャドが見詰めているその板には、あるものが映し出されていた。
そう、メイアが転身して御琴と戦っている姿が。
『ジャドよ、イレギュラーが発生したようだな』
そこへ低く威厳のある声が聞こえ、別な板に一人の男性の顔が映し出される。
鎧で全身を覆っており、鬣(たてがみ)の如き漆黒の髪と蓄えた顎鬚(あごひげ)が丁寧に手入れされているその男こそが、羅士達を束ねる羅将王リョウダイ。
彼の力と人望はかなりのものであり、羅士達のリーダーと誰もが認めて疑わない。
「恐らく、メイアが向かった時代にこそ、我らの最大のターゲット、ONIがいるかと思われます。今、オウランがそこへ向かいました」
『ふ。真に余と並び立つ者とは、相応の武勇を有する者。ONIにそうした者がいるやも知れぬが……いるのであれば、拳を交えたいものだ』
「お言葉ですがリョウダイ様、今回の作戦において、ONIは排除対象。しかしただ単に排除するのではなく、二度と抵抗する事が無いよう、心身を打ち砕くが上策かと」
『分かっておる。だが、余も退屈は好まぬ身。久方振りにその呪縛から解き放たれるとなると、やはり戦う者の血が騒いでしまうものだ。それはオウランも同じはず』
「そのお気持ち、僕も理解出来ます」
メイアと御琴の戦いを見ていた時とは打って変わって、冷静にして主に忠実な参謀の顔でリョウダイと話すジャド。
その変化はリョウダイに気づかれておらず、怪しさも見せていない。
『……時にジャド。この作戦が終わり、計画が実を結んだ暁にはどうするのだ?やはり、病に伏せている妹のエレオスの完治を目指すのか?』
話題が妹の件に移った途端、ジャドの表情が少し重くなり、リョウダイもそれを目にして沈んだ様子になりかける。
少し前から重い病気に掛かって意識を失っており、どんな手を尽くしても目を覚ます気配が無いという。
たった一人の家族を失いたくない、それ故にジャドは行動する。
リョウダイには、ジャドがそう見えていたのだ。
「意識を取り戻し、後遺症も無くすには、他の世界から治療法を探さなければなりません。幸い、今の段階での措置によって、植物状態ながらも安定しています。少なくとも、今回の作戦の間は持つかと」
『……ならば、より一層事を進めなければならんな。取り返しのつかぬ事態になる前に、愚かな現政府を打ち倒し、革命を成し遂げなければ……』
「そのためにも、僕は引き続き最善を尽くしてみせましょう」
『期待している』
会話が終わり、機能している映像が最初の一つだけとなったジャドの部屋。
だが、彼は一旦顔を俯かせたかと思うと、小さな笑い声を上げながら再び端末を操作し始める。
それに反応してか、後方の機械が妖しく光り出し、何かの呻き声と、メイア達が転移する時の音が下から響いた。
「……どいつもこいつも、甘い甘い……!敵にも味方にも、ちょ~~っと、意地悪をしようか……この世界、気に入っちゃったし」
「何だって!?御琴が!?」
「そうなんだよ!早くしないと、御琴ちゃんまで……」
天地丸を訪ね、彼と共に家へ帰る途中だった音鬼丸と茨鬼童子は、血相を変えてやって来た里の住人から御琴が子供達を助けに行った事を知らされ、驚愕していた。
子供達の行方不明、誘拐については天地丸も調べていたところであり、姪の危機に彼も心中穏やかではない。
しかしそういう時こそ、冷静になるのが天地丸だ。
御琴が向かった場所も把握し、今居る場所からそこまでの距離、そして里までの距離とを比較、即座に最良とされる結論を導いた彼はすぐにそれを実行する。
「分かった。茨鬼は隠れ里で琴音達を頼む!何が起きるか分からないからな」
天地丸の言う事は、天地丸でなくともごもっともと、茨鬼童子も受け止めていた。
自分達も御琴も居ない今、戦いを経験していない琴音だけでは里を守り切れない。
娘の方は義兄と息子が向かうとあれば、応と答えるべき。
「うむ。気をつけろ、天地丸、音鬼丸。得体の知れない者が相手である以上、油断は禁物だ」
こうしている間にも、敵の魔の手が迫ってくるかもしれない。
だから茨鬼童子はそれだけ伝え、自分は全速力で里の方角を目指して行った。
「音鬼丸、行くぞ!」
「はい!」
自分達も急がなければと、天地丸と音鬼丸も情報にある森へと走る。
ところが森の入口に近づいた所で、2人の行く手を無数の化け物が阻んだ。
一匹一匹の大きさは小鬼程度のものなのだが、両手の爪は猛獣のものに等しく、顔も下級の妖怪ではないそいつらが十以上の数で待ち構えているのだ。
まるで、2人が来るのを予測していたかのように。
「こいつら、まさか御琴を狙って……!」
「音鬼丸、此処は俺が引き受けた。合図をしたら、すぐに……」
全て聞かずとも、伯父を信じて、此処を突破しようと頷き、改めて駆ける準備に入る音鬼丸。
と、そこへ突如上空から閃光が走り、化け物の群れが左右に散らされた為、音鬼丸だけでなく、仕掛けようとした天地丸も手を止めてその光を見据える。
そこに居たのは、2人にとって見覚えのある人物だった。
「あなた達も来たのね。御琴を助けに」
「響華丸!一体どうして此処に?」
「その話は後だ、音鬼丸。そこの2人は、お前の仲間だな?」
響華丸がこの地へ到着すると共に、変化を解いた江と螢も横に降り立っており、すぐさま螢が化け物達に攻撃を仕掛けながら挨拶を交わす。
「初めましてー。螢でーす」
「邪魔者掃除はこのあたし、江とそっちの螢に任せて、あんたら2人は響華丸と一緒に行きな!」
江ももう一方の化け物の群れ目掛けて駆け、両腕の手甲で次々と敵を薙ぎ倒していく。
「さ、行くわよ」
「う、うん!ありがとう、江さんと螢ちゃん」
「くれぐれも無茶はするなよ!」
道がしっかりと開けたところで、響華丸が先頭に立ち、天地丸と音鬼丸もそれに続いて森の中へと入った。
「『こっち側』だと、結構良い伯父貴って訳だな」
「響華丸の転身後と似てるよ。音鬼丸さんって人も。ほいっと!」
化け物は決して弱くないが、鍛錬を欠かしていない2人はそれぞれ水と炎の嵐となって敵陣を駆け巡る。
江の伸縮自在な手甲は大蛇さながらに地面を抉りながら化け物を貫き、螢の投げた扇は炎を纏って舞うように飛び回って次々と敵を焼きつつ切っていく。
それぞれの背後を狙って別な化け物が飛び掛かるが、2人は時には自分でそれらを撃退し、時には相棒が吹き飛ばして自分は前方に集中するという連携で打って出ている。
無駄の無いその動きに、段々と化け物の数が減っていき、残った化け物達は少しずつ後退りを始めると、上空から走った紫色の妖しい光に吸い込まれるように消えていった。
「訓練されてるね~。やっぱり葉樹さんの言ってた通りだ。螢達も御琴さんの所に~」
「わ、分かったけど、一呼吸置けよ。そっちの方が滅茶苦茶疲れるんだよ~」
螢の今の頭では『今はそれどころじゃない。考えるのは後』が一番に働いており、即座に彼女は森の方へと走り出す。
一息吐きたかった江は、螢に引っ張られるような気持ちを覚えながらも渋々それに従った。
戦いの途中では見られなかった疲労が螢の行動でドッと出ていたらしく、先程の俊敏さが嘘のようにヨタヨタ走りだったが。
メイアが居る森から少し離れた平原に、オウランは一人駆けていた。
転移して降り立った場所は深い森だったが、メイアの生命反応が離れた場所にある事から、座標のズレが生じている事を知り、彼女の元へ急行していたのだ。
「(次元の歪みが重なっている為に生じた誤差か……これが無ければ、即座に救出出来たのだが)」
人目につかぬよう、町やそこへ続く道を避け、野道を突き進むオウラン。
後十数分すれば目的地に到着すると思われた彼女だが、ふと周囲に何やら異様な気配を感じた為に足を止めて身構えた。
「何者!?」
徒手で構えるオウランの周囲に姿を見せたのは、様々な種類の妖怪であり、数は十を超えている。
その全ての妖怪がオウランを獲物と見て唸り声を上げながら取り囲み、臨戦態勢に入っていた。
「この世界の、妖怪か?余所者の私が狙いだとは……」
行く道に敷き詰められるように待ち構えていた妖怪に、オウランも強行突破を狙って駆け、間合いに入った敵から一体ずつ殴り飛ばす。
彼女の繰り出した拳はまるで鈍器のような重さと刀のような鋭さを併せ持っているのか、殴られた妖怪は鋭い切り傷を刻まれながら骨も砕かれた。
その様子を見て、それまで動かないでいた妖怪達も一斉に動き出す。
オウランに一番近い場所にいる者達から爪牙を獲物に突き立てようと飛び掛かるも、彼女の拳と足はまるで研ぎ澄まされた剣のように輝きを放ちながら風を呼ぶ。
その風が見えざる鋭い刃を作り上げ、妖怪達をバラバラに斬っていく。
斬られた妖怪は次々と倒れて消滅するのだが、次々と奥の方から新手が姿を見せており、全く恐れを知らないかのように順番に攻撃を仕掛けて来ている。
相手の強さはさほど恐ろしいものではない事は手応えから良く分かっていたオウランだったが、彼女の脳裏に一つの疑問が浮かんでいた。
如何に妖怪が存在する世界とはいえ、これ程多くの妖怪がいるのならば、近くの人里を制圧しても不思議ではない。
あるいは妖怪を退治する者達が今この時に動いてもおかしくないはずだ。
なのに此処にいる妖怪は、あくまで自分だけを狙っている。
そう、まるで自分が此処に来るのを見越していたかのように、足止めしているとも取れるのだ。
「ならば、仕方がない……!転身!」
真に突破しなければ取り返しのつかない事になる。
敵に自分達の事が知られる事を覚悟の上で、オウランは力を解き放った。
金髪が獅子を思わせる黄金の鬣となり、しなやかでいて強靭に鍛え上げられた身体は銀色に染まり、その上を土色の甲冑が覆う。
額からは2本の赤い角が伸び、顔は口と鼻が無い銀の仮面に覆われたようなものになったが、紅蓮の瞳は闘神の如き威光を放っているようにも見える。
その姿が、毘紐天・オウランの羅士としての真の姿だった。
「これ以上の手間取りは無用!行くぞ!!」
幾分か増幅された腕力で振るわれた右拳はまるで見えない剣を振るうかのようなもの。
その一閃が前方の妖怪達を一瞬にして上下に両断し、傷口から炎を上げて焼き尽くしていく。
そして鬣が突風で吹き上げられたかと思うと、それがまるで翼のような役割を果たし、羽ばたきに当たる動きで背後の妖怪達を吹き飛ばす。
オウランはその勢いで貫くように翔け、軌道上にいるものはもちろん、左右に居た妖怪達も一瞬にしてズタズタにされる。
そんな様を見る気等無いオウランの目は、ただ前だけを見詰めていた。
「メイア、早まるな……」
転身を終えたメイアは軽く地面を蹴ったかと思うと、物凄い羽音を響かせて突進し、右手を突き出す。
「(!更に速さが!)」
辛うじて目で捉える事が出来たものの、まばたき一つだけで目の前で迫ってきたメイアの針。
いや、その鋭さは刺すだけでなく、斬るべく振るわれている為に、刃と言った方が正しいだろう。
御琴は何とかそれを避けて前髪ほんの数本で済ませ、右の手刀で反撃に転じた。
決して遅くなく、鋭い一閃にメイアも大きな羽ばたきで後退したが僅かに胸部の甲殻が傷つく。
「このっ」
怒りの炎が更に増したメイアの蹴りを、今度は避けずに真っ向から受け止めに入る御琴。
メイアの次なる右の刃、左の拳も篭手に覆われた腕で防いでおり、攻撃を受けた部分には傷が見られない。
転身した彼女は接近戦でも後れを取る事は無く、その重厚感溢れる鎧という外見に相応しい防御力でメイアの追撃を凌ぎ続けるが、ある程度した所でメイアを蹴り飛ばし、距離を取る。
「はぁっ!」
御琴の手から光の矢が放たれ、それらが執拗にメイアを追う。
素早さで勝るメイアも逃げ切れないと見て、右腕の刃で矢を切り払い、その刃から細長い針を飛ばす。
針は毒針で、突き刺さった地面が見る見る内に毒々しい紫色に染まり、草木が枯れて腐り落ちていった。
これが命中してしまえば、鬼神とて只では済まないだろう。
しかし御琴は自身よりも周辺を案じてか、針を避けながらも、攻撃に転じようとはしない。
「待って下さい!あなたは一体どうしてこんな事を……!?どうしてその力を手にしていながら、子供達を攫っていくんですか?!」
「何も知らないのね……やっぱり、あなたも自分は何も悪くないと言い張る……あなたみたいな人達の所為で、こうしなきゃいけないのよ!」
「私達の、所為?」
明らかに、目の前の少女は真っ向から怒りを自分にぶつけている。
それは少しずつ、確実に御琴の心を揺さぶり始めていた。
「自分の胸に聞けば分かる事……でも多くの人達は、その中で都合の悪い部分を偽りとして無に沈め、美点だけを真実として私達を踏み躙(にじ)って来た!そして、あなた達はそれらを見て見ぬ振りをした!」
「あっ……!」
先日見た夢が、関連性が無いとはいえメイアの怒りの言葉と共に頭の中に映し出されていく。
御琴はその夢による恐怖が甦ったのか、それまでの俊敏な動きが鈍り始める。
「(私……多くの人達を……)」
邪神 天津甕星(あまつみかぼし)に操られたとはいえ、多くを傷つけたのは自分。
幸せを奪われた者達の怨嗟(えんさ)の声は夢の中で散々聞かされていたのだが、その声が今この時にも己の頭に響く。
「あなた達が世の中を、本気で正そうとしていれば、私達は失いたくないものを失わずに済んだ!その力を持ちながら、結局は自分とその周りの為にしか使わなかったあなた達に、この気持ちが分かるはずがない!」
「ぐっ!」
燃え上がる怒りで大きく、激しさも増した声と共にメイアは猛攻の末に御琴の防御を弾き、そのまま彼女を直接蹴り飛ばし、木に叩きつけると針の連射で彼女を磔に近い状態にさせた。
「うあぁっ……!」
毒針は直接突き刺さっていないにもかかわらず、刺さった木の幹や地面を通じて毒が少しずつ御琴に侵蝕していく。
その毒は強烈な激痛と、僅かながらも確実な脱力感を彼女に与えた。
だがそれ以上に、御琴の心は罪悪感に苛まれており、精神にも乱れが生じたのか、その身を覆う鎧の端が光の粒子となって崩れていく。
心の乱れは鬼神の力を著しく弱め、時には転身を解除させる事もある。
御琴もそれは重々理解していたのだが、心に仕舞い込んでいたものを誤魔化す事が出来ない。
出来るのは自分の転身が解除されていき、敵が自分に追撃を仕掛けるのを見るだけだ。
「私達は、だからこそ今は悪という名を受け入れて、あなた達への復讐を決めたの。今まで重ねた罪を、そっくりそのまま冥土に持って行って、自分が死なせた存在に土下座して詫びて……!」
相手が動揺し、身動きが取れないならば外しようが無く、確実に致命打を与えられる。
その確信を以て、メイアは右の刃を鋭く伸ばし、雷光を纏わせてから弓を引くような構えに入る。
「その前に、死の直前の激痛を味わってもらうわ。私達が味わった生き地獄よりはずっとマシな方だけれどね……」
狙いは急所から少し外れた部分であり、しかし時間を掛ければ死に至らしめる事が可能と見たメイア。
彼女の怒りの眼差しに、御琴は目を逸らそうにも逸らせず、完全に金縛りに近い状態になっていた。
「(どうすれば……良いの……?)」
心臓の鼓動と共に、鬼神の鎧と鬣も儚(はかな)げに明滅し、新緑を思わせる髪も赤に戻り始める。
脱出しようにも、毒と罪の意識の影響で力が満足に入らない御琴の心が、少しずつ絶望に染められていた所為で身動きが取れない。
それを見て好機としたメイアは地面を蹴り、矢の如く駆けて刃の刺突を繰り出した。
「(やられる……!)」
心の臓か、胴か鳩尾か?
何れにしても苦痛と共に死が迫ると知って、御琴の涙で潤んでいた目が思わず閉じかけてしまう。
だが、メイアの刃は御琴の何処にも届きはしなかった。
「なっ……!?」
代わりに金属音が響いて、メイアの驚きの声が上がる。
彼女の刃を、響華丸が鋭い一の太刀で弾き飛ばしていたのだ。
「間に合ったようね。本当、間一髪だったわ」
響華丸が御琴の方へ振り返ると共に左手を彼女に向けて翳すと、毒針が左手からの光に照らされて消滅し、御琴は少しずつ身体が軽くなるのを感じる。
転身の解除が止まって再び鬼神の姿に戻れた事から、大分精神も落ち着いているようだ。
それを確かめた響華丸の笑みに、御琴も笑みで返す。
「来て、くれたんですね……響華丸さん……少し恥ずかしい所をお見せしてしまいました」
「でも持ち直しているのなら、それで大丈夫だと思うわ」
動けるようになった御琴は改めて響華丸と並び立ってメイアと相対するが、後ろから2人、天地丸と音鬼丸も駆けつけていた。
「お兄様!伯父様!」
「遅くなってごめん、御琴!」
「響華丸達が来ていなかったら危ない所だったのか。だが、無事で何よりだ」
「っ!まずはあなたから!」
敵の援軍を前に、メイアも思わず舌打ちして後退しながら毒針を放つ。
「今は!」
心の奥から染み出た戸惑いを胸に一旦仕舞い、御琴は右手から光を放って壁に変えて針を防ぐ。
その間に響華丸が刀を納めつつ走りながら転身し、有翼の鬼神・凶破媛子(きょうはえんし)になって左拳をメイアに向けて突き出す。
「!あなたも、そしてそこの男2人も綺麗事で生きる奴等だというの?」
「綺麗事で結構よ」
メイアが右の刃で響華丸の拳を切り落とそうとするが、その拳の周囲に光の膜が出来ていた為に刃が弾かれ、そのまま鋭く重い拳を頬に喰らいそうになる。
「ちぃっ!こいつ……!」
何とかかわしたメイアの頬にうっすらと青白い血が滲み出、拳の勢いで彼女は後ろへと追いやられる。
「その子には何か事情があります!だから……」
「ええ。必要以上には仕掛けないわ」
目の前にいる自分達に似た少女が何者かという検討はついているとはいえ、真意を聞き出さなければならない。
故に御琴の言葉を受け入れた響華丸は、天地丸と音鬼丸の反応も目で確かめる。
「御琴、この子が子供達を?」
「はい。羅士と言っていました。世界を正すために、私達隠忍を倒す事が目的、とも……」
「かつて俺達を襲った響華丸を思い出してしまうな……いや、今は違うのは、分かっている」
攻撃してくる気配は無いものの、瞳からは怒りと殺気を放っているメイア。
それらを感じていた天地丸は一瞬だけその姿を、かつての響華丸と重ねながらも今の彼女を尊重する。
響華丸は否定する気は無かったらしく、小さな笑みを漏らす事で気にしていない事をハッキリと示した。、
「気を遣わなくても良いわ。ともかく、一旦彼女を寝床に就かせておきましょう。話は、それからよ」
荒っぽいやり方だが、この剥き出しの憎悪を押さえ込まなければならないとして、拳に力を込めて駆ける響華丸。
その援護の為に御琴達も動こうとしたが、4人はメイアの後ろから只ならない気配を感じて足を止めて身構えた。
「!これって、もしかして……」
メイアもそれまで放っていた殺気が治まって後ろを見た途端、強烈な熱風が吹き荒れて御琴達4人を数歩程後ろへと退かせる。
その熱風が止んだかと思うと、黄金の光と共に金の鬣を持った鬼神が姿を見せた。
身体付きからも分かるように、少女の鬼神なのだが、御琴や響華丸にはない覇気を放っている。
そんな彼女がオウランだと知っているのは、この場においてメイアただ一人だ。
「姉さ、オウラン……!」
「メイア、かなり無茶をしそうだったな。とはいえ、どうやら通信をしようにもこの世界の特別な力場で妨害されているから仕方のない事だ」
「ごめんなさい。羅士兵達も全滅して、子供達もあいつらの手で逃がされてしまったわ」
「それほどの相手と、認めなければならないようだな……」
メイアとオウランが仲間同士という事実が、2人の名前と共に御琴達にも示される。
それは些細なこととして、オウランはメイアと共に御琴達と相対した。
「お前達が、ONI、つまり鬼神の血や力を有する者か。すぐに退きたい所だが……どうもそうは行かせてもらえないようだな」
「ああ。お前達の狙いが何であれ、子供達を連れ去ったのは事実だからな。解放したからそれで良し、とするわけにはいかない」
何時でも仕掛けられる状態の天地丸の言うように、メイアとオウランのした事は見過ごせないものであり、音鬼丸は御琴が危機に瀕していたのを見ていた事もあって鋭い視線を緩めない。
「ならばお前達の名を聞かせてもらおう。相手の名を知ってから戦う主義でな」
「……俺は天地丸だ」
オウランの求めに、先程のやり取りから彼女の性格を推測した天地丸はしばらく間を置いた上で応じ、御琴達も警戒心を解かずに名を名乗る。
「僕の名は音鬼丸……!」
「私は御琴と言います。2人は私の伯父と兄です」
「響華丸よ。御琴の友、これでどうかしら?」
最後に響華丸が締めれば、再び目に怒りの炎を燃やし始めたメイアを制しつつ、オウランは前に一歩進み出て構えを取る。
だが制されたメイアも頑なに戦う事を望んでいたのか、終始御琴達を睨みつつオウランの横に並び立とうとしている。
「2人で戦おう。もしかしたら、オウランでも油断は……」
「確かにそうだな。だが、出発前にも言ったように無茶は避けろ。今回は手ぶらで帰るつもりで戦う、良いな?」
「うん……」
並みならない力を秘めていながらも、慢心の一欠片も無い気概。
それだけで、天地丸は真っ先にオウランを油断禁物の強者だと見抜いていた。
「オウランか……メイアもさっきの毒針を見るに、力とは別な意味で厄介だな。均等に2人で1人に当たるか?」
「いえ、伯父様。メイアという子は私だけで戦います。伯父様とお兄様、響華丸さんはオウランを……大丈夫です。何とか行けれます……!」
御琴の胸の奥には、まだメイアが突き立てた刃の如き言葉の痕が残っている。
だが、それを理由に怖気付く訳には行かず、御琴はダメ押しの活入れに己の頬を強く叩いてみせた。
「直に響華丸の仲間が駆けつけて来る。それまでは攻撃を凌ぐ事に専念するんだ」
「分かりました」
天地丸の許しを受け、御琴は改めてメイアと向き合い、先手を取った彼女の放った毒針を瞬時にかわしながら、光の矢を放つ。
「行くぞ、2人共!」
「はい!」「ええ」
片方の攻撃を合図として、天地丸と音鬼丸が転身し、天地丸を先頭にして3人がオウランに向かう。
「生半可な気持ちでは挑まぬさ……!」
迎え撃つオウランも、牽制として響華丸が放った光弾を左手だけで叩き落とし、最初に間合いに入った音鬼丸の右拳を蹴りで受け流す。
そこから接近した響華丸の蹴りも蜻蛉(とんぼ)返りで回避し、最後に天地丸が放った右の剛拳に自分の右拳を合わせた。
「むっ……」
「おおおっ!」
衝突の瞬間、天地丸が僅かに押すと同時に左拳を突き出せば、飛ばされまいとオウランも足を踏ん張り、左の掌で彼の拳を受け止めた。
「これは……成程!」
手甲にヒビが入り、そこから青白い血飛沫が僅かに上がりながらも、オウランは感嘆と共に鬣を大きく靡(なび)かせ、その風圧によって天地丸を押し返す。
「!鬼神の力を、使いこなしているようだな」
「そういうお前も、見たところ4人の中で最年長か。熟練の度合いが拳の重さにも出ている」
鬣の靡きによる真空の刃が僅かに鬼神の甲冑を傷つけるも、冷静さを崩していない天地丸は数歩下がった地点で制動を掛け、入れ代わりに前に出た音鬼丸が左右の拳を交互に突き出す。
「音鬼丸……こちらもこちらで、油断は出来ないな!」
紙一重で音鬼丸の拳を避けたオウランの肌と甲冑が小さく切れ、反撃として彼女が繰り出した踵落としが鉄鎚の如く音鬼丸の頭上に下ろされる。
音鬼丸も下から突き上げるように右拳を振り上げてオウランの踵落としを受け止めるが、上から振り下ろして来たその攻撃は重く、受け止めた右拳が僅かに悲鳴をあげた。
「つぅっ……」
2人は一旦離れるが、音鬼丸の拳が僅かに青白い血で滲んでおり、それを覆う手甲にヒビが入っている。
そうした手応えを確かめる間も無く、響華丸が光弾を無数放ち、それらから更に光の矢を放たせた上でオウランに蹴りを繰り出す。
「!響華丸……この攻撃、他の2人とは一味違うな……!」
「私の破邪光弾は、こうした使い方が出来るのよ」
「だが効き目が弱ければ無意味も同然!」
オウランの拳が煌めいたかと思うと、光の速さで連打が繰り出されて響華丸の光弾と光の矢を撃ち落とし、迫って来た連続の蹴りをも弾く。
それによって響華丸は大きく仰け反ったかと思うと、勢いを利用しての回し蹴りを一閃の如く叩き込む。
「っ!お前はさしずめ、速さと鋭さを……だが軽いな!」
蹴りを腕で受け止めたオウランはその体勢から懐に入り込み、響華丸の鳩尾目掛けて左膝を突き刺した。
「ぐぅっ!?」
強烈な一撃に攻撃の勢いが止まった響華丸は、そのままオウランの右拳を胸元に受けて吹き飛ばされる。
そこへ天地丸と音鬼丸が彼女を受け止めた事で、背後の木々への激突は免れた。
止めた途端の勢いは、2人の腕力を以てしても十数歩分下がってようやっと止まった程だが。
「大丈夫か、響華丸!」
「何とか、ね……」
「伯父さんと僕の2人がかりでもこの威力……!でも、その割には……」
音鬼丸が抱いた疑問は、響華丸が少し苦しそうに息をしていただけで、行動に支障を来すものではない点。
それはオウランも同じだが、答えは彼女の左肩にあった。
その装甲が僅かにひび割れており、響華丸の方は鎧が砕けたものの、鳩尾と胸元に小さな青白の痣が出来ていたくらいである。
「刹那の攻撃に合わせた事で、私の拳の威力を削いだというのか……!」
「軽い事が仇になると思ったのが、過ちだったわね、オウラン」
2人の支えから降りた響華丸は息を整え、鎧を再構築させてから翼を広げる。
それはオウランが瞬時に繰り出した鬣からの風に備えたものであり、翼から光の粒子を伴った疾風が放たれた。
結果、双方の攻撃は中間でぶつかり合い、上昇気流となって上へ登りながら相殺(そうさい)し合う。
その光景にオウランは歓喜に己の笑みを漏らす。
「何れもなかなかの腕前……我が力を高める相手にとって、不足無し!これほどの敵を打ち倒せずして、我々羅士の理想は貫けぬな!」
「羅士……御琴もメイアから聞いたそれは、お前達の軍あるいは一族の名前か。だが、力だけに溺れれば己の身を滅ぼすぞ」
「力無しで正義を掲げ、そのまま潰されるよりは万倍マシだ。弱ければ負け、負ければ多くを失う。強い場合よりも、ずっと多くな。天地丸よ、貴様はその拳でどれほど救い、どれほど救えなかった?」
忠告に対して真っ向から抗うオウランに、天地丸も僅かに唸ってから返す。
「この両手で掬い上げた水とそこから零れ落ちた分、それぞれを雫としての数と言わせてもらおう」
「小気味良い返答!」
天地丸は内面も熟練している、そう知ったオウランの歓喜は彼女の闘志を高め、熱を伴った気を放出させた。
一方で、御琴とメイアは天地丸達の姿が確認出来る場所で戦いを続けていた。
御琴は針を回避しつつ接近し、霊力で威力を高めた左拳と、霊気で形成した右の爪を繰り出しており、メイアも右の手甲からの刃と左拳の爪で応戦する。
どちらの攻撃もキレがあり、僅かに相手の髪、頬、肩等を掠めていき、しかし身のこなしも相応な分、直撃する気配が全く無い。
メイアが毒針を放とうと御琴の眉間に刃を突きつければ、御琴もそれを左手で弾き、彼女が右手から霊力の弾をメイアの腹部に叩き込もうとすれば、メイアもその右手首を掴んで引っ張り、霊力を霧散(むさん)させる。
御琴もその引っ張りで倒されないようにメイアの手を振り払い、蹴りを牽制として放つ。
一見すれば互角であり、実際もまた互角だった。
毒針が外れているものの、掠めた部分から火傷めいた痛みが走り、力が僅かに抜け出るのを感じていた御琴。
それでも内面は先程の戸惑いをしっかりと抑え込んでいる事で身体が重くなるという事は無い。
メイアの方も着実に御琴の疲労蓄積を狙って毒針を彼女の足元に撃ち込んだりしているのだが、こちらは内心焦りを見せていた。
「(さっきとはまるで動きが違ってる……しかも、殺意が込められていない。それが余計、頭に来る!)」
メイアの怒りの眼差しが再び御琴の心を貫こうとするも、御琴も自我をしっかりと保って受け止めるような眼差しで返す。
「(躊躇っている訳には行かない……!響華丸さんとの戦いを思い出して!)」
脳裏に浮かんだ、自分と響華丸との戦い。
それが御琴の気持ちを蝕んでいるものを抑え込み、枷(かせ)が緩んで鋭さを増した蹴りがメイアの脇腹を捉えかけた。
「!!このぉぉっ!!」
「!?しまっ……」
勢いを殺し切れずに飛ばされたメイアは受け身を取りつつ毒針を連射する。
その反撃に、僅かに反応が遅れた御琴は肩や太腿に針を受けてしまう。
「くぅっ……でも、このくらいなら!」
消耗が激しくなるその毒針に、敢えて己の力を注ぎ込む事で浄化を行う御琴。
それが功を奏したらしく、毒針は数秒もしない内に消え去り、息が上がりかけながらも彼女は足を踏ん張り、深呼吸と共に徒手の構えを取り直した。
「(ONIの力を喰らう毒針に耐えた!?さっきは手も足も出なかったこの子が、どうして……!?あの響華丸って子の存在が、そこまで……!?)」
攻撃の効果が薄い事に、今度はメイアが動揺する。
それを逃さなかった御琴は瞬時に彼女の懐に入り込み、両の掌を押し当て、衝撃波で突き飛ばした。
「くはぁっ!!」
隙を突かれたメイアは反撃もままならずそのままオウランの方へ叩きつけられ、追った御琴はちょうど天地丸達と共に2人を挟み撃ちにする状態に入る。
「間に合ったー!」
「心配無用ってとこだがな」
そこへ江と螢も合流した事で、三方を囲まれるオウランとメイア。
これで勝負は着いたと見たか、オウランはメイアが立ち上がるのを確認すると、右拳に光を纏わせ、鬣を炎のように揺らめかせながら闘気を放出し始めた。
「退くぞ、メイア」
「う、うん」
前言通り、長居と深追いは無用として、素直にメイアは従う。
彼女自身も、これ以上戦った所で形勢は覆せないと見ていた。
「天地丸達よ、後日再戦だ!」
「!皆、備えろ!!」
強烈な攻撃と閃光が来ると悟って、天地丸が叫ぶ。
それに従って全員が守りの態勢に入るのと、オウランが右拳から眩い光を放つのはほぼ同時の出来事だった。
光は熱と風の刃を伴って周囲を切り裂き、防御の上から御琴達を傷つけ、そのまま辺りを数秒間覆い尽くした。
しばらくして光が治まり、視界を取り戻した御琴達だったが、既にオウランとメイアの姿は無く、御琴達の側も誰一人欠けた様子は無い。
転身と防御の同時実行が間に合った江と螢も、御琴達4人より負傷が目立つが、別段深い訳ではない。
「つぅ~~……逃げるんだったら目眩ましだけにしとけっての!」
「でも、強過ぎる訳じゃないのが分かってちょっと安心~。はい回復~」
敵の気配が無いと見て、転身した状態で素早く全員に癒しの術を掛ける螢。
それによって傷も癒えて体力も回復した御琴達はようやっと一息吐いて転身を解いた。
「羅士か……あのオウランという女は、まだ本気を出していないようだ。恐らく、これからの戦いは更に厳しくなるだろう」
「伯父さん……」
まだ険しさの残る天地丸の顔。
オウランとの戦いだけでなく、彼女の仲間あるいはその上にいる者達の強さを推し量った彼の心は穏やかなものではない。
御琴もまた、抑え込めれたとはいえ、心の奥底がヒリヒリ痛むのを感じていた。
「(今は戦うしか、それでしか道が見えない……でも、それだけじゃダメ……胸の奥が、火傷を負ったみたいで、苦しい……)」
不安が残る彼女だが、そんな時だからこそと見抜いていたらしく、響華丸が優しくその右手を握る。
「!響華丸さん……」
「嘘を吐いたり、無理をする事なんてないわ。自分で頑張れる時は自分で頑張って、どうしようもない時には、私達を頼って」
「……ありがとう、響華丸さん」
通じ合った仲故に、お互いを見ようとする気持ちも並ではない。
それ以上に、響華丸の手が嬉しいくらいに温かいものだった事で、ようやっと御琴は笑みを取り戻した。
かつては助けて温もりを与えた少女に、今度は自分が助けられて温もりを受けている。
自分は一人じゃないという事を、此処で再認識出来たのである。
「……あ~、その、まず場所を変えて色々と話そうぜ。取り敢えず区切り付いたみたいだからよ」
「早く早く~。螢達、何処へ行けば良いの~?」
しばらく沈黙が続いたので、痺れを切らして江が沈黙を破るも、螢は流石に行き先が分からないと動きようが無いのか、歩き出す様子が見えず、代わりに兎のように飛び跳ねるだけ。
「な?火の玉っ娘な螢ですら、この状態だぞ。ま、ある意味安心……ムゴォッ!?」
皮肉を言った事がまずかったらしく、彼女が袖から放った白い布が江の口に巻きつき、項辺りで独りでに蝶々結びになった。
怒らなくても、それに相当する行為を螢がするのは、江からすれば予想外の事であったのだから、彼も戸惑うのみ。
「悪口は喧嘩の元だよ」
「ム、ムゴゴ、ムォゴゴ~~」(訳:うっ、わぁったよ。悪かったから早く戻してくれ~)
ニコニコして白帯を操る螢と、ピッタリ張り付いた布に苦闘する江のやり取り。
微笑ましいそれを見て、天地丸もようやっと笑い出し、これで全員の緊張感が完全に解れた。
「ぷっ、ハハハ。響華丸の仲間も、俺達に負けてないな」
「ええ。この2人は本当に頼もしいし、今回もしっかりと力になってくれるから」
伯父の陽気な笑顔を受け、音鬼丸も皆を待たせまいと行き先を示した。
「じゃあ、隠れ里へ行こう。父上や母上達が心配しているに違いないから、安心させないと」
謝罪の声も聞き取れて、かつ次に自分達が何処へ行くかが分かった事で螢は江の口の布を解き、それを呼び戻して袖の中に仕舞う。
「はーい。江、二度と悪口を言ったら『めっ』だよ。今回は此処までで許すけど、螢の悪口は離れててもすぐ耳に届くからね。螢は怒らないけど、他の人が怒ると困るよ~」
「ぷはぁ……はぁ、はぁ……ホント悪ぃ、螢。今度から気をつけるよ。音鬼丸だったな?案内頼むぜ」
息苦しさもあって疲労が溜まったのだろう、江も懲りたらしく、荒い息をしている。
そんな彼の呼吸が落ち着いた所で、御琴達は森を出て、隠れ里へと帰還した。
里では茨鬼童子と琴音が帰りを待っていた所で、子供達は無事に帰って来ており、敵が襲って来た気配も無かったようだ。
しかしその場での安心も束の間であった。
新たな敵との戦いが、まだ始まったばかりだったから……