隠忍伝説(サイドストーリー)
いやあ~お酒ってほんと怖いですね♪
novc 作
ある日の夜。
天地丸と高野丸は京のお茶屋(芸者さんのいるところ)で酒を酌み交わしていた。
「へぇ~昼に御琴がそんなに暴れたんですか?」
「ああ……まさか転身までするとは思わなかった」
微笑みながらの高野丸の発言に天地丸は微笑みながら答えた。
「でも毛虫でそこまで動揺するなんて、可愛いじゃないですか」(
「隠れ里を壊滅させそうになってもか?」
そう言って二人同時に笑う。
「でも可愛いんでしょう?」
「……まあな」
天地丸はしばしの沈黙の後、照れながら答えた。
「おやおや。普段はそんなそぶりを見せないのに。お酒のせいですかね」
高野丸は、からかうように言う。
「よう~お二人さん。盛り上がってるじゃねぇか」
後れての来訪者が現れた。
「あっ砦角」
「よう高野丸。秘女乃は相変わらず家事はできねぇのか」
そう言って高野丸と天地丸の側に座った。
「はい……相変わらずですよ。でも一生懸命やってくれますから長い目で見て上げないと」
「あのじゃじゃ馬が嫁ねぇ~そう思わねぇか天地丸?」
そう言って天地丸と砦角が笑った。
「ひどいな~。でも確かにじゃじゃ馬でしたからね」
そう言って高野丸も笑う。
「それよりも遅いぞ。今日の飲み会主催者だろ」
「わりぃわりぃ。ちょいと野暮用でな」
天地丸の言葉に砦角は悪びれた様子もなく応える。
「それにしたってお茶屋で集まることはないじゃないですか。家でるとき秘女乃に散々怒られたんですからね。私というモノがありながら、そんなとこ行くなんて」
高野丸は両手を頭につけ、鬼の角のように指を伸ばした。
「そりゃ悪かったな。けどよ酒呑むなら女が多い方が良いじゃねぇか。それよりも土産だ」
砦角はそう言うと、瓶を高野丸と天地丸の前に置いた。
「これは?」
怪訝な顔で天地丸が言う。
「ああ、これは俺が作った濁酒(どぶろく)だ」
「なるほど。うむ。なかなかの出来じゃないのか?」
酒の匂いを敏感に感じ取り天地丸が答えた。
忍者であるが故、毒薬などを見分けるため嗅覚が発達しているのだ。
「おお。今年のは自信作だ。味見してもらうために今日は集まってもらったんだからよ!!まっ飲んでみてくれ」
そういって、瓶に中に入っていた柄杓(ひしゃく)で天地丸と高野丸の杯に注ぐ。
すぐに飲み干す天地丸。
「うむ。味も良い。これは上物だ。だがかなりキツイな」
天地丸は感心しているようだ。
だが高野丸は飲むのを躊躇っているように見える。
「おいどうした?まっ飲めよ!!」
砦角はそう言って無理矢理、高野丸に飲ませた。
「ゲホゲホっ」
かなりむせている様子の高野丸。
「おい。そんなに無理に飲ませることも」
「まあ、気にすんな」
天地丸は砦角の言葉に苦笑いを浮かべた。
「だがな、高野丸って下戸だぞ」
「ああ知ってるさ。でもおまえと飲んでただろ。てっきり飲めるようになったのかと」
当然と言う顔する砦角。
そうして
「もうらにするんですか、さいかくぅ~(なにするんですか砦角)」
できあがった高野丸がいた。
「あの酒は、特別なんだ」
「なんじゃそりゃ」
「原料は神泉草だけ。添加物は一切使用していない」
「…………なんとなく解ってきた」
「名付けて丸天印(まるてんじるし)の秘伝酒だ」
天地丸は右手で『丸の中に天の字が書いてある瓢箪(ひょうたん)』を掴み、砦角に見せつけた。
―――えっえっ、ここは笑うところなのか?そうなのか?でも『丸天印(まるてんじるし)』だぞ。しかもご丁寧に瓢箪にまで細工してあるんだぞ。
心の中で唖然としてしまう砦角。
「でだ。この酒は悪酔いはしない。酔っても『ほろ酔い』くらいしかならないんだ。それどころか『鬼の毒気』を抜く事すら出来る薬にもなる」
―――おい。本気ですか?……本気ですか!?真面目な顔して話してるよぉ~
さらに心の中で突っ込む砦角。
「そんな、秘伝酒すら高野丸は100倍に薄めて飲んでいたんだぞ」
「なんでぇ。飲めるようになったわけじゃないのか」
砦角は、とりあえず天地丸の事はほっておいて、高野丸が飲んでいた酒に口をつける。
「かぁ~。水と変わんねぇじゃねぇか」
「だろ」
「こりゃ濁酒はキツすぎたな」
砦角は頭をかきながら参ったな。というような顔をしていた。
「さっきからぁ~らにはなしているんれふかぁ(さっきからなにはなしているんですか)」
できあがった高野丸が、天地丸にもたれかかってきた。
「高野丸。落ち着け」
「いやぁ~れふ(いや~です)」
「おいおい。まだ飲むのかよ。止めとけ!!」
天地丸に抱きつきながら、濁酒を飲み続ける高野丸を見て、砦角が諫めた。
「だってぇ~これおいひんでふよぉ(コレ美味しんですよ)」
そう言って、まだまだ飲み続ける高野丸。
数刻後
「あっまてまてぇ~」
千鳥足で芸者を追いかけ回す高野丸がいた。
「ほうら捕まえたぁ~」
芸者に抱きつく高野丸。
芸者は「きゃっ止めて下さい高野丸さん」なんて言いながら、それでも楽しんでいるようだ。
「……まさか高野丸がこんなにまで酔うなんて……」
あまりの豹変ぶりに驚く天地丸。
「そうか?まっ確かにアイツから芸者を呼ぼうって言い出したときはビックリしたが」
そう言いながら砦角は、芸者を右肩に抱きながら左手で酒をあおる。
「高野丸……もしかして結婚生活が辛いのか」
「はははっありえるっ!!なにしろ相手はあの『じゃじゃ馬』だからな。毎日ベッタリだと気が疲れるんじゃないのか」
と砦角は豪快に笑う。
一方高野丸は、まだまだ砦角の酒を呑み続ける。
「もう止めとけ高野丸」
天地丸が杯を取り上げた。
「え~かえひてくだはいよ~(返して下さいよ~)」
そう言って天地丸から杯を取り返えそうとする。
「今日のおまえは飲み過ぎだ。こんなキツイ酒ガブガブ呑んだら体に悪い」
「だってこれ、ほんっ~とうにおいひんでふから(本当に美味しんですから)」
「もう今日はやめておけ。……やれやれ。いつもは呑んでもここまでおかしくならないのに」
天地丸は、何故これほどまでに高野丸がおかしくなったのか疑問でならなかった。
いつもは、あまり呑まないし、それも通常よりかなり薄めて呑む。
呑んでもすぐに酔ってしまうが、いつもより明るくなる程度だ。
たまに秘女乃とラブラブモ-ドに突入するけど。
「もういいれふもん(もういいですもん)」
高野丸は酒をあきらめ、芸者の方に抱きつきに行く。
「あ~れ。おやめ下さい」
「良いではないか良いではないか~」
そう言って高野丸は芸者を押し倒した。
スゥ
「あなた。いつまで呑んでる……の」
秘女乃がふすまを開けた。
秘女乃は中の情景を見て絶句する。
固まる天地丸と砦角と高野丸。
汗を滝のように流し始める高野丸。
段々と青ざめる高野丸。
ムンクの叫びのような顔になる高野丸。
「うふ。あ・な・た。いえ高野丸ぅ。いつまでその女狐を押し倒しているのかしらぁ」
にっこりと微笑む秘女乃。
しかし体から発せられるオーラが、怒りを現していた。
怒りのオーラをまといつつも菩薩の顔をした、この若奥様は一歩、また一歩と旦那様に近づいてくる。
「おい天地丸帰るぞ!!」
「ああ」
「じゃあ、高野丸達者でな」
「えっちょっと待って」
高野丸が捨てられた子猫のような瞳をして、訴えるが
「これにて失礼。霧隠れ!!」
「ああ~そんな殺生な~」
高野丸号泣。
ガシッ
首根っこを捕まれふるえ出す高野丸。
「覚悟は出来てるんでしょうね♪ た・か・や・ま・るぅ」
これから行われる、それはそれは凄惨な粛正を甘んじて受けることを決意した。
……………………
…………
……
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
この夜、京の都は絶叫に包まれた。
「はあ~高野丸には悪いことをしたな」
高野丸を見捨ててきて、良心が痛む天地丸。
「さすがにな。でもあのままいたら俺達まで被害を被る所だった」
「ありえる。特におまえはな砦角」
「そうなんだよ~」
「これからどうするんだ」
「異次元にでも行って、隠れ里で呑み直さないか」
「こんな夜分にか」
「どうせ茨鬼は起きてるだろ。味見もしてもらいてぇし」
背中に担いでいる瓶を天地丸に見せた。
「おまえ持って帰ってたのか」
よくそんな隙があったなと感心した。
「これは自信作だからな。いろいろと意見を聞きてぇ」
自慢げな顔で言う。
「わかった。じゃあ今から行くか」
「どうせおまえは甥と姪に会いたいんだろ?この叔父バカが」
「いいからとっと行くぞ!!」
そう言って、異次元の入り口がある方向に行く天地丸。
「おい。まてよ。まったく素直じゃねぇな~」
砦角は微笑むと天地丸についていった。
しかし、この隠れ里に向かった事がさらなる悲劇を生むのであった。
あとがき
というわけで、なんか中途半端な終わりになってしまいました。
久々にギャグ(と勝手に思っています)を書いたnovcです。
ちなみに時代設定は「ONIⅣとⅤ。天地丸と砦角が天竺から帰ってきた直後」ということになっています。
秘女乃に怒られる高野丸を書きたくて、書いたらこうなっちゃいました。
ちなみにこの物語は序章です。
つぎがいよいよ本番。
最も書きたかった話。
ええ、御琴再登場です♪
御琴でまたギャグがやりたくて、この長い前フリがあったと言っても過言ではない。
というわけで、次回はもっとギャグになる予定です。
ノリ的には「いやあ~お酒ってほんと怖いですね♪」を越える勢いを目指したいですね。
それでは次回作で。
この後高野丸がどうなったか知りたい方はこちらへ
novc
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