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隠忍伝説(サイドストーリー)

幼馴染と一緒に過ごした誕生日

ヒツジさん 作

 夢を見ていた

 西洋式の建物の中に、自分と、長身で牙が異常に発達した男、目の前には息のない琥金丸が横たわっていた。

 中は蝋燭の明かりで照らされているが、それでも暗い。
 
 伽羅は小刀を握っていた、その刃は、琥金丸の血で赤く染まっている

 「よくやったな、我らの同志、伽羅よ」
 
 「はい、吸血鬼様」

 伽羅は勝ち誇ったような笑みで答える。

 「私はこの手で、琥金丸を討ち取りました」
  
 「これで我らの主が復活し、我らの世が誕生するな」

 「ええ、誠に喜ばしい限りです」
 
 

 二人は、不気味な笑い声を放った
 






 「嫌ぁ!!!」

 眠りから覚めた時、伽羅は思わず叫んでしまった、しかし、そこは夢の中の建物ではなく、自分の部屋だった。

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 息苦しかった、全身に汗をかいている、それに、体がひどく重い。

 (何で、私が、琥金丸を、殺しちゃうの…?)

 起きたときは、そう思った。 

 「またひどい夢見ちゃった…… もう何回目かしら」

 伽羅は夢の内容を思い出す、最初に見た頃はぼやけてよく見えなかったのだが、見る回数が増えるにつれて、少しずつ鮮明に見えるようになっていた。

 (けど、こんなにはっきりと見えるなんて、初めてだわ…)

 琥金丸を直接殺す瞬間を見たのは、今日が初めてだった。

 普通の女の子ならば恐怖してしまう夢なのだが、伽羅は違う、

 「わたしが琥金丸を殺すなんて、そんなの無いよね!そうに決まってる!」

 前向きな伽羅は自分にそう言い聞かせた、これ以上考えても駄目だと思った伽羅は、寝間着からいつもの服に着替えて外に出た。

 「今日は琥金丸の誕生日だからおばさんの所に行ってお手伝いしなきゃ」

 今日は琥金丸の15歳の誕生日、大好物のお汁粉を目の前に飛び上がって喜ぶ琥金丸を想像した伽羅の顔から笑みが零れた。

 今日見た夢は、忘れようと伽羅は思った。




 「こんにちは~」

 「あら伽羅ちゃん、いらっしゃい」

 見慣れた琥金丸の家の中は甘い匂いに包まれている、弥生は既にお汁粉作りをしていた、手伝おうとしたがもうすぐ出来上がりそうだ。

 「あっちゃ~来るの遅かったのかなぁ。 私も作りたかったのに…」

 既に出来上がりつつあるお汁粉を見て、伽羅は残念そうに言った。

 「その気持ちだけで十分よ?」

 「すみません、昨日から勝手に“私も手伝う!”なんて事言っといて寝坊しちゃうなんてだらしないなぁ、私って…」

 伽羅は肩をすくめる。

 「いいのよ。 そろそろ琥金丸の稽古が終わる頃だと思うから迎えに行ってもらえないかしら?」

 「ええ!分かりました」

 汚名返上とばかりに伽羅は急に張り切って脱兎のごとく走り去った。

 「うふふ、あいかわらずねぇ」

 伽羅の走り去った後を見て、笑みがこみあげてくる。 




 道場へと行く道、伽羅は道を走っていた。

 「早く琥金丸の喜ぶ顔がみたいわ~♪」

 伽羅は走りながらも再び、お汁粉を前に飛び上がる琥金丸を想像して笑った。

 「お汁粉作れなかった分、引きずってでも早く帰らせなきゃね~♪」

 伽羅は張り切っていた、しかし
 
 
 (伽羅…伽羅…)

 
 微かに自分を呼ぶ人の声が聞こえ、伽羅は周りを見渡したが、周りには誰も居ない。

 「え?なんなのかしら、この声。 どっかで聞いたことあるような・・・・」

 (我らの同志伽羅よ…)

 その声を聞いた伽羅の脳裏に、今日見た夢が頭をよぎる。
 

 「この声!夢の中に出てきたあいつにそっくり!」
 
 夢に出てきた、長身で牙の発達した男を思い出す。
 
 (お前は妖怪、我らの仲間なのだよ、伽羅)
 
 「私が・・・・妖怪?」

 今まで走っていたが、その声を聞いて止まり急に伽羅の顔が青白くなる。

 (そうだ、お前は妖怪だ)

 「嘘、そんなの絶対に嘘よ!」

 耳を手でぐりぐりと塞いだが、その声は容赦なく伽羅の頭の中に入る。

 (お前の使命は琥金丸をわが主の生贄とすること…)

 突然、残酷な運命を知らされ、伽羅は愕然とした。

 「できないよ…琥金丸を生贄になんてできないよ」

 (お前は琥金丸を我らの所までおびき寄せ、琥金丸を討ち取る、それがおまえの使命なのだよ)

 「嫌、嫌、嫌、嫌、もう話さないで、どっか行ってよ、お願いだから!」

 (お前は妖怪だ、お前の使命は琥金丸を)

 「それ以上言わないで!どっかに行ってよ!」

 (いつか、自分が妖怪だということを分かる日が来るだろう、その日まで待ってるぞ)

 それ以降。吸血鬼の声は聞こえなかった。
 


 伽羅はその場に力が抜けたようにしゃがみ込んだ、吸血鬼の言葉が、頭の中を駆け巡る。

 「私が妖怪…………琥金丸を………殺す………?」

 吸血鬼の言った事を忘れようとしたが、吸血鬼の言葉が頭を離れなかった。

 「琥金丸を…殺す……私にはそんなこと…… 絶対にできない……出来ないよ……」

 (いいえ、お前は琥金丸を殺すのよ)

 「!!」

 今度はしゃべってもいないのに。自分の声が聞こえる。

 「あなた、だれなの…?」

 (私はもう一人のお前)

 「もう一人の…私?」

 伽羅はぼう然とした。

 (お前は妖怪、琥金丸とは相容れぬ関係。 ましてや結ばれることなど絶対にできはしない)

 「違う、私は人間、琥金丸のことが好きなの。ずっと一緒に居たいの!」

 (そう思っているがいい、いつか私がお前の精神を全部乗っ取ってやろう)

 頭の中に響く声は冷たく言い放った

 (そして、お前は自分の手で、愛する琥金丸を殺すのだ、こんなに滑稽な事は無いだろう。その時を楽しみにしているがいい) 

 声が途切れた。

 涙が、溢れてくる、自分が、自分ではなくなる、その事実を、伽羅は知ってしまった。 

 「嫌………私が妖怪なんて……」

 (私、どうすればいいの?琥金丸…)










 琥金丸は大急ぎで村に帰る途中だった、なぜなら、今日は自分の誕生日で大好物のお汁粉をたらふく食べれるからだ。
  
 「おっ汁粉おっ汁粉~~~!!!汁粉が俺を待ってるぜ~♪ 今日の俺は誰にも止められないぜ!」

 人目も気にせずに琥金丸は、いつもよりの笑顔で、必要以上に大声で歌っていた。 

 「村まで後もう少しだ!」

 しかし、少し離れたところにうずくまっている伽羅を、琥金丸は見つけた。

 「あんな所で何やってんだ?」

 不思議に思った琥金丸は、近づいて話を聞こうとした。

 「伽羅?」

 伽羅に声を掛けると、顔を上げた、しかし、伽羅の表情を見て、琥金丸は驚く。

 「琥金丸……」 
 
 めったに泣かない伽羅が、涙を流していた、あまりない出来事に、自分の誕生日のことなど忘れてしまった。
 
 「どうしたんだ?こんなところで。何か嫌なことがあったのか?」

 「………」

 琥金丸は驚きつつも、何とか伽羅を元気にさせようとした。

 「言ってみろよ、俺が聞いてやるから」

 (琥金丸…ごめんね…)

「…私…もう…琥金丸に…会えない…」

 「え?」

 普段より小く、震えたような声で伽羅は告げた、伽羅の唐突な言葉を聞いて、琥金丸は混乱した。

 「さようなら」

 伽羅はそう告げると、何処かへと走り去った。

 「ってちょっと、どこ行くんだよ!伽羅!どうしちまったんだよ!」

  琥金丸は叫んだ、しかし、伽羅に別れを告げられた途端、追うことも、何も出来なくなった。
 
 彼は呆然と立ち尽くす。
 
 (どうすればいいんだよ、伽羅、俺はお前に、何にもしてやれねぇのかよ…)
 
 
 





琥金丸の家
 
 「伽羅!」

 家の中には伽羅は居なかった、帰ってるかもしれないとゆう小さな心の中の期待が打ち砕かれた。

 「あらお帰り、伽羅ちゃんはどうしたの?」

 「それが…」

 「どうかしたの?」

 「道でうずくまってて泣いてて、話を聞こうとしたら、もう会えないって言われて、さようならって言われたんだ」

 「…」

 弥生は黙って話を聞いていた。

 「さっき、伽羅の家にも行ったんだけど。居なくて…どうしたらいいのか、分かんなくなっちゃって…」

 「そう、なら今すぐ探してきなさい」
  
 しっかりした口調で、弥生は言う

 「でも…」

 困惑した琥金丸の顔を見ながら、弥生は優しい口調で語る

 「女の子が泣いてる時は、男の子が助けるのよ?」

 珍しく、琥金丸は言われたことを瞬時に理解した。 

 (…!何をやってんだ俺は、伽羅に何もせずに、あのまま行かせちまって、本当に、最低だな…)

 「俺、伽羅を探してくる!!!」

 走り出した、伽羅がどこにいるのかが琥金丸は即座に見当が付く。

 (待ってろよ!伽羅!)





 



 (ここで、いいよね)

 伽羅と琥金丸は子供の時からよくこの丘で遊んでいて、伽羅の好きな場所の一つだった。

 丘は辺り一面綺麗な緑色をした草花が生えていて、夕焼けに照らされていて光輝いている、丘の上からは、日本らしい自然豊かな綺麗で広々とした景色を見渡せる。

 普段なら伽羅はその風景を見て「今日も一日平和だったな~」といって飽きもせずにのんびり見ていたのだが、今の伽羅の心は、景色を見て感動するような心の余裕は無い。

 琥金丸と分かれた後、無我夢中で走った結果、気が付いたら丘の上に立っていた。

 (琥金丸に会ったらまたあの夢を思い出しちゃう。琥金丸にさようならって言っちゃった…)

 伽羅は丘の上に立ち、下を向いている。

 自分の惚れている人に、突然の別れを告げてしまった哀しさと、もう会えないという寂しさを感じ、伽羅の目から再び涙が零れる。 

 (私は、琥金丸を想い続けても、いつか、もう一人の私が、琥金丸を…)

 伽羅は決意した。

 懐から護身用の小刀を取り出し、自分の手首に当てた。

 (琥金丸を殺すぐらいなら、死んだほうが…)

 伽羅は小刀を持つ手に力を入れ、

 (じゃあね、琥金丸…。あなたはずっと、生きて…)

 



 しかし 

 「伽羅!」

 声が聞こえた、小刀を握った手に、強い力が入る。

 「嫌!離して!」

 伽羅の抵抗も虚しく、琥金丸は伽羅から小刀を奪い、力一杯遠くに投げ捨てた。

 「自殺なんて馬鹿な真似は止めろよ!」

 伽羅から小刀を取り上げたのは琥金丸だった、どうやら走ってきたらしく顔に汗が流れていて、その汗が夕日に反射して普段より輝いて見える琥金丸の顔を、伽羅は呆然と見上げる

 「来ないでって行ったのに、何で…」

 「伽羅が泣いてるのに、放って置けるかよ」

 「…」

 落ち着いた琥金丸は伽羅と向かい合って座り
 
 「なにか嫌なことでもあったのか?」

 と聞き出した、伽羅は静かに語り始める。

 「私、怖い夢を見たの」

 「どんな夢だ?」

 「琥金丸が…死んじゃう夢」

 いつもより小さな声で、伽羅は語っていた。

 「そっか…」

 (そう、私が、琥金丸を…)

 「俺が死ぬのが怖いのか?」

 「当たり前よ!」

 伽羅は叫ぶ。

 「琥金丸が死んだら、私、寂しい…」

 (それに、生きて行けない…)

 震えるような声で言った、 しかし、琥金丸は

 「大丈夫だ!」

 「え?」

 琥金丸は笑顔で言った、伽羅の肩に手を乗せ、そっと力を入れた。

 「俺は絶対に死なない!」

 「……」

 その力は、強くもなく弱くもなく、温もりのある力だった。伽羅はその優しい温もり肌で感じて、少しずつ安心してきた。

 「俺はもっともっと稽古をして強くなるから、絶対に死なない。伽羅を、不安にさせない!」

 「琥金丸…」

 「だから、伽羅が怖がる必要なんて何処にもないんだぜ?」

 「…うん!」

 伽羅は笑顔を取り戻した

 (ありがとう、琥金丸。 助けられちゃったね、)

 弱音を吐いて、命を絶とうとしていた自分が、馬鹿らしく思える。 
 
 「よかった、いつもの伽羅に戻って本当に安心したぜ」

 琥金丸はさっきとは打って変わって気の抜けた表情をした。

 (そうだ、琥金丸にお礼しなきゃね♪) 

 伽羅は少しだけ琥金丸との距離を縮め、

 「琥金丸?」

 「ん?」

 「ありがと♪」

 そう告げると、伽羅は琥金丸の頬に軽くキスをした。

 「………………………………???????!!!!!??!!!?!」

 伽羅の突然の行動に、琥金丸はしばらく何をされたのかさっぱり分からなかった。

 (きききききゃきゃきゃ伽羅ららららががががが、おおおおお俺ににににににななななななな何を!???)

 「あはははは!琥金丸ったら顔紅くしちゃって、かぁわいい~♪」

 琥金丸を小馬鹿にしている伽羅も、頬が少しだけ紅く染まっている。
 
 (ついにやったわ!)

 琥金丸の顔は真っ赤に染まって混乱していた、伽羅はその様子を見ると、たまらなくおかしく思えた。

 「………は!!!   いいいい今何やったんだ???」

 琥金丸はようやく正気に戻る。 

 「大丈夫よ♪そんなに深い意味は無いから♪」

 伽羅の言った内容を琥金丸は全く理解していないように思える。

 「き、きゃ、伽羅?」

 「さあ、帰りましょ? 今日は琥金丸の誕生日なんだから」

 「…あ、ああ…」

 張り切って歩き出す伽羅とは対照的に琥金丸はとぼとぼと歩き始めた、しかし

 「……っくっくっくっく、ははははは、あっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 伽羅は、琥金丸が腹を抱えて笑い始めたのでびっくりした。

 「琥金丸?」

 「そういえば今日は俺の誕生日だったんだな!すっかり忘れてたぜ!」

 「???」

 伽羅はまだ驚いている、

 「何でそんなに面白いの?」

 「俺の大好物のお汁粉が食えるってこと思い出すとな、よく分かんないけど、なんかすっげぇおもしれぇんだよ! 伽羅も笑おうぜ!? せっかくだからよ!!!」

 伽羅は琥金丸の言っている意味がさっぱり分からなかった、しかし、なぜか心が愉快になってくる。

 「そうね♪あははははははははは!」

 「そうだぜ!やっぱり伽羅は笑ってる顔が一番だ!あっはっはっはっはっはっは!!!」

 「あっはははははははは♪」

 二人は草の上に大の字で寝転がり、飽きもせず、大きな声で笑い続けた。



 (ありがとう琥金丸…あなたが居なかったら私、本当にありがとう)

 笑ってる伽羅の目か一筋の涙がこぼれた

 (たとえ私が妖怪だとしても、私は琥金丸を傷つけない、もう一人の私の好きなようにはさせない。琥金丸が死んじゃいそうになったときは…)
 
 伽羅は希望に満ちた決意を固める。 

 (私が琥金丸を守ってみせる、私が身代わりになってでも、私は琥金丸を守りたい。だって私は、琥金丸が、好きだから…)

 

 



 「琥金丸~?」

 「ん?」

 二人は寝転がりながら向き合った。

 「私達、ずっと一緒よね!?」

 「ああ! もちろんだぜ!」

 案の定、琥金丸は伽羅の言葉に別の意味があることを知らずに、あっさりと答えてしまった。

 「もぉ~、琥金丸は女心をちっとも分かってないんだからぁ!」

 「んあ?」

 琥金丸は不思議そうな顔で伽羅を見た。

 「どんな意味なんだよ?」

 「ひ・み・つ♪」

 再び混乱する琥金丸を尻目に、伽羅は再び笑い始める。

 (いつか、私の言ったことがわかる日が来るって事、私信じる。分かる時まで待ってるから、琥金丸…)











 そして一年後、琥金丸と伽羅は旅立ち、真実を知ることになる



あとがき
 この話を書くきっかけは色んな店を必死になってONIⅤを探して見つけて買ってクリアした時、琥金丸と伽羅で何か書きたいな~と軽い気持ちで書き始めました。
 
プレイしているときも伽羅はいつごろ自分が妖怪だって気が付いたのかな~、って思ってたんですがゲームの中で吸血鬼がテレパシーかなんかでカミラに話しかけていたのを思い出したので伽羅にも同じことが出来るんじゃないかとおもって勝手に想像して書いてしまったのでいろんな突込みは勘弁して欲しいです。
 
 実は、コレは修正版でございまして修正前の物を大幅な加筆、修正を行ってこの話が出来ました。
 ですから、修正前を見てくださった皆様も、再びこの話を見てくれると本当にありがたいです。
 
 琥金丸は割と好きなんですが2chで結構叩かれているので少し残念です、まぁ無理もありませんが(核爆)

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作者  さん


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